脂質の消化吸収

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

小腸における消化吸収|消化吸収

 

今回は、脂質の消化吸収について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

 

〈目次〉

 

脂質の消化吸収

胆汁酸(bile acid)は、分子内に親水性の部分と疎水性の部分をもつ両親媒性化合物である。石けんも両親媒性化合物で、油汚れを水に溶けやすくするので汚れを洗うことができる。胆汁酸もミセル(micelle)という構造をつくり、脂質を水に溶けやすくする(表1)。

 

表1糖質タンパク質と脂質の消化吸収の比較

糖質・タンパク質と脂質の消化吸収の比較

 

牛乳もミセル構造をしており、乳脂肪が水に溶けやすくなっている。リンパ管に吸収されたカイロミクロンも最終的には鎖骨下で静脈血に入る。その結果、中性脂肪が高い人は血漿が白濁する。カイロミクロンは、リポタンパク質のなかで中性脂肪の割合が最も高く、比重が最も小さい(表2)。

 

表2リポタンパク質の分類

リポタンパク質の分類

 

HDL*はコレステロールを血管から肝臓に戻し(これをコレステロールの逆輸送という)、動脈硬化を防ぐので「善玉コレステロール」とよばれる。

 

LDL*は、逆にコレステロールを肝臓から血管に運び、動脈硬化を促進させるので「悪玉コレステロール」とよばれる。コレステロールは遊離型では肝臓に戻りにくく、エステル型になって肝臓に戻る。

 

このエステル化は、レシチン〔lecithin〕(=ホスファチジルコリンphosphatidylcholine)のアシル基〔acylgroup〕(RCO-)を遊離コレステロールに転移させることにより起こる。このエステル化反応を進める酵素がレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ〔lecithin-cholesterol-acyltransferase〕(LCAT、エルキャットとよばれる)である。LCATはHDLに高い親和性をもつので、HDLがコレステロールの逆輸送を行う「善玉コレステロール」ということになる(図1)。

 

図1コレステロールの逆輸送

コレステロールの逆輸送

 

HDL:高密度リポタンパク質(high-density lipoprotein)
   LDL:低密度リポタンパク質(low-density lipoprotein)

 

HDLコレステロールのように高いほうがよいコレステロールがあるので、日本動脈硬化学会は2007年から「高脂血症」ではなく「脂質異常症」として診断基準を示している。

 

胆汁酸の腸肝循環

肝臓から十二指腸へ分泌された胆汁の一部は糞便とともに体外へ排泄されるが、約95%が回腸末端の粘膜で吸収され、門脈を経て肝臓に戻る。これを胆汁酸の腸肝循環(enterohepatic circulation)という。胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成されるが、大部分は腸肝循環で再利用される胆汁酸で、1日約6回、腸肝循環が行われている。

 

家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症〔familial hypercholesterolemia〕(FH)は、家族性高リポタンパク血症Ⅱ型〔familial hyperlipoproteinemia type Ⅱ〕ともよばれ、肝臓のLDL受容体の活性が低下するために血中LDL濃度が高くなる疾患で、遺伝性である。両親からLDL受容体の活性低下の形質を受け継ぐホモ接合体(homozygote)は100万人に1人というまれな疾患であるが、片親から形質を受け継ぐヘテロ接合体(heterozygote)は約500人に1人という高頻度で発症する。

 

血中の総コレステロールの基準値は約200mg/dLであるが、ホモ接合体ではその4倍、ヘテロ接合体では2倍にも達する。肝臓におけるコレステロール生合成の律速酵素(rate-limiting enzyme)であるHMGCoA還元酵素の阻害薬(hydroxymethylglutaryl-CoA reductase inhibitor)が、ヘテロ接合体の治療に使われる。

 

これは肝細胞でコレステロールが合成できなくなるので、肝臓は血中のLDL(コレステロールが多いリポタンパク質)を取り込み、LDL受容体の活性低下を是正できるからである。

 

FHの治療には、この他に胆汁酸の腸肝循環を阻害することによって、胆汁酸(コレステロール)を糞便中に排泄させるコレスチラミン(colestyramine) のような薬もある。HMG-CoA還元酵素阻害薬の場合と同様、肝臓内のコレステロールが減少することによって、血中のLDLを肝臓に取り込むことになる(『血圧調節ホルモン』参照)。

 

NursingEye

家族性高コレステロール血症(FH)では、20歳代で心筋梗塞〔myocardial infarction〕(MI)を発症することがある。ただし、女性ではFHであっても閉経(menopause)前は発症しにくい。これはエストロゲン(estrogen) の作用である。

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬(プラバスタチンナトリウム(pravastatin sodium)、商品名:メバロチン)は、日本で生まれた世界に通用する薬である。ヘテロ接合体が約500人に1人という高頻度なので、使用量も多く日本で最も売り上げが大きい薬である。

 

[次回]

黄疸・胆石

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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