細胞の環境|細胞の基本機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、細胞の環境について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
〈目次〉
はじめに
細胞のなかで外界と直接接触しているのは皮膚や粘膜の細胞だけで、他の細胞は皮膚や粘膜で遮断されている。身体の外の環境を外部環境という。これに対し、身体の内部の環境を内部環境という。
細胞は内部環境(ガス組成、電解質組成、浸透圧、pH、温度など)の変化に極めて敏感に反応するので、内部環境を常に最適な状態に保たなければならない。内部環境をほぼ一定に保つ現象をホメオスタシス(生体恒常性)といい、ホメオスタシスを保つために生体はさまざまな機能を駆使している。
体液
身体を構成する細胞は、体液すなわち細胞外液と細胞内液で満たされている。
水は体液の主要な成分であり、成人男性の場合、体重の約60%を占める。乳児では水分の割合が約70%と多いが、高齢者と女性では体液の割合は約50%と少ない(女性は、男性よりも脂肪が多いため)。成人男性の場合、その水分60%の2/3(体重の40%)は細胞内に、1/3(体重の20%)は細胞外にある。細胞外液のうち、3/4(体重の15%)は細胞間隙(間質液)、1/4(体重の5%)は血漿中にある(表1)。
体液の比率は新生児が最も高く、年齢とともに減少する。なお、ヒトの全血液量は体重の約1/13(約8%)を占める。
表1新生児、乳児、成人、高齢者の体液分布
体液(細胞内液と細胞外液)には、さまざまな電解質と非電解質が溶けている。電解質には、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩素イオン(Cl-)、マグネシウムイオン(Mg2+)、炭酸水素イオン(HCO3-)、リン酸イオン(PO43-)、硫酸イオン(SO42-)等がある。非電解質には、ブドウ糖、アミノ酸、血漿タンパク質、脂質等がある。
体液の電解質組成
細胞外液と細胞内液は細胞膜で、細胞外液である血漿と間質液は毛細血管壁で仕切られている(図1)。
図1ヒト体液の電解質組成
電解質組成は、血漿と間質液ではほとんど同じである。これは、毛細血管壁を構成する内皮細胞の孔のサイズが障壁となり分子量の大きなタンパク質は透過させないが、水と電解質を比較的自由に通過させるためである。
そのため、血漿には間質よりも多くのタンパク質が含まれている。一方、細胞内液と細胞外液の電解質組成は大きく異なる。それは細胞内と細胞外がリン脂質2重層の細胞膜で隔てられているためであり、このイオン組成の違い(イオンの濃度差)を維持することが生命維持にとって重要である。
図1で示すように、細胞内液には K+(150~160mM)が非常に多い。この K+ の細胞外への流出が細胞内に負の静止電位形成をもたらす(「静止電位」参照)。また、細胞内液には Na+(15mM前後)や Ca2+(10-7mM)は少ない。
一方、細胞外液には Na+(140~150mM)、Ca2+(2.5mM)、Cl-(110~120mM)が多く、K+(4~5mM)は少ない。これらのイオンの分布の差が神経や筋肉の興奮の発生に重要な役割を果たす。
NursingEye
体内の水分、電解質の維持は生命維持にとって重要である。脱水症とは、何らかの原因で体液量が不足(一般に水とナトリウム不足)した状態をいう。脱水症になると、高齢者では意識障害をきたしやすく、また、血液が濃縮され、血栓ができやすく、脳梗塞や心筋梗塞なども起こりやすくなる。子どもは大人より脱水が急激に進行しやすいので注意が必要である。乳児は特に危険である。
※編集部注※
当記事は、2016年2月10日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版