核の機能・タンパク質の合成|細胞の構造と機能(3)
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、核の機能とタンパク質合成について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
〈目次〉
核の機能
核は核膜という二重膜で覆われ、その内部の核質には、核小体(仁)とクロマチン(染色質)がある(図1)。
核小体は丸い小体で、細胞質内の核酸、特にrRNAがここでつくられる。染色体は、塩基性タンパク質のヒストンに二重らせん構造をとっているDNAが巻き付き、折りたたまれて凝縮されたものである。分裂間期の染色体は、核内で脱凝縮してクロマチン線維として存在している。
核酸にはDNA(デオキシリボ核酸:deoxyribonucleicacid)とRNA(リボ核酸:ribonucleic acid)の2種類がある。
図1細胞の構造
DNAは、核内に存在し、遺伝情報の伝達や保有を司っている。また、タンパク質合成のためのアミノ酸配列を指令する暗号も保存されている。DNAのヌクレオチドは、塩基、デオキシリボース(5炭糖)とリン酸が組み合わさってできた2本の柱の間に4つの塩基、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)が、水素結合によりA とT、GとCに対になって梯子のような形をしている(図2)。この梯子はらせん状にねじれて、二本鎖がらせん構造をなしている(二重らせん)。
RNAは、DNAの二重らせん構造を鋳型として核内で合成される。RNAも鎖状であるが一本鎖である。
RNAのヌクレオチドは塩基、リボース(5炭糖)とリン酸が組み合わさってできている(図2)。RNAの塩基は、DNAと同じく4つの塩基をもっているが、チミン(T)の代わりにウラシル(U)となっている。RNAの塩基の3つの組をコドン(codon)といい、タンパク質を構成するアミノ酸の種類を指定している。RNAは役割に応じてmRNA(messengerRNA)、tRNA(transfer RNA)、rRNA(ribosomal RNA)に分けられる。3種類のRNAのうち、細胞内にはrRNAが最も豊富に存在する。
表1DNAとRNAの相違
タンパク質の合成
核内でDNAの二重らせんの必要な部分がほどけてDNAがむき出しになる。そこにRNA合成酵素(RNAポリメラーゼ)が働いて、DNAのネガ像のRNA鎖が合成される。これがmRNAとなり、核外に出て細胞質内にあるリボソーム(タンパク質合成の場)へ送られる。
一方、tRNAはタンパク質の材料となるアミノ酸をリボソームまで運び、mRNAの塩基配列を認識することによって、順番にアミノ酸を結合し、タンパク質を合成していく(図3)。mRNAがDNAの遺伝情報の一部を写しもっているので、mRNAの合成を転写(transcription)とよぶ。
図3タンパク質の合成
遺伝子〔 gene 〕
1個のペプチド分子(アミノ酸が2個以上結合した化合物)を合成するのに必要なDNA鎖であり、転写部とプロモーターの一部からなる。
ゲノム〔 genome 〕
生物の生命を司る遺伝子が内包されている染色体の1組、またはその中のDNAの総体をゲノムといい、人間の遺伝情報の全容がヒトゲノムとよばれる。
ゲノムには約20,000のタンパク質をコードする遺伝子(protein-coding gene)があると推定されている。遺伝子とタンパク質は単純に1:1対応しておらず、20,000個のヒト遺伝子は数十万種類のタンパク質をコードしていると考えられている。多くの遺伝子は多数の異なる産物を作り出すことができ(コード領域の一部の選択的利用や翻訳後修飾による)、個々のタンパク質は単独で機能するのではなくネットワークを形成することで機能を発揮している。
※編集部注※
当記事は、2016年2月6日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版