細胞内外間の物質の移動(1)|細胞の基本機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、細胞内外間の物質の移動についての解説の1回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
〈目次〉
物質移動の基本
体液中の溶質粒子は、濃度の高いほうから低いほうへ拡散で移動する。細胞内と細胞外液の間質液との境界にはリン脂質2重層からなる細胞膜が、細胞外液の間質液と血漿の境界には毛細血管壁が一種のバリアとして存在する(図1)。
このバリアを越えて溶質粒子の移動が行われる。毛細血管壁を介する物質の移動に関しては、「血液の分配と微小循環|循環」で述べる。
細胞膜を介する物質の移動について説明する前に、物質移動の基本事項(拡散、浸透)について説明する。
図1ヒト体液の電解質組成
拡散〔 diffusion 〕
濃度の異なる2つの溶液を接触させると、濃い溶液側から薄い溶液中へ溶質の移動がみられ、自然に濃度差がなくなる。この現象を拡散という。
拡散には濃度勾配だけでなく電位差(電気的勾配)も拡散速度や方向に影響する。細胞膜に存在するイオンチャネルを通るイオンの移動も拡散の一種である。濃度の高いほうから低いほうへ物質粒子が移動する場合は、エネルギーを必要としない。
拡散には、単純拡散と促進拡散とよばれる2つのタイプがある。
単純拡散〔 simple diffusion 〕
溶質が細胞膜にあるタンパク質を介さずに脂質二重層を濃度勾配にしたがって通過する現象を単純拡散という。ステロイドホルモン、酸素、二酸化炭素などの脂溶性の小分子で起こる。また分子量の小さなイオン等はイオンチャネルを単純拡散で通過する。
促進拡散〔 facilitated diffusion 〕
単純拡散で細胞膜を通過できないような分子量の大きい溶質(例えばグルコースやアミノ酸)は、輸送タンパク(担体、キャリア)を利用して拡散の法則(濃度勾配または電気的勾配)に従い移動が行われる。このような拡散を促進(促通)拡散とよぶ。濃度勾配または電気的勾配に従った方向に輸送する場合は、エネルギーを必要としない。
浸透〔 osmosis 〕
溶液のうち水(溶媒)を自由に通すが、溶質を全く通さない半透膜で仕切り、両側の溶質濃度に差があるとする(図2)。水は溶質濃度の高いほうへ浸透圧が等しくなるまで移動し、平衡に達する。これを浸透といい、溶質粒子の数に比例する。浸透とは水の拡散にほかならない。このときに水の浸透を防ぐ圧力を浸透圧(osmotic pressure)という。浸透圧は、単位容積中の溶質のモル数で表され、その単位をオスモル(Osmol または Osm)という。
すなわち1molの分子が1Lの水溶液中にあるとき、これを1オスモルという。電解質は水溶液中では構成イオンに解離する。例えば、塩化ナトリウム(NaCl)の場合、NaCl⇌Na++ Cl-に解離するので、1mMのNaClは、2mOsm/L となる。
図2浸透圧
等張液、高張液、低張液とは
半透膜によって隔てられた2つの溶液間の浸透圧が等しい溶液を等張液(isotonic solution)という。
特に細胞内液、血漿、涙液などの体液と浸透圧が等しい溶液をいう。生理食塩水、酢酸リンゲル液、乳酸リンゲル液は等張液である。食塩液は0.9%(これを生理食塩液という)、グルコース液は5%が等張液である。体液より浸透圧の高い液を高張液(hypertonic solution)、低い液を低張液(hypotonic solution)とよぶ。
血球は高張液の中ではしぼむ。これは、等張になるために、血球内の水が血球外に出るためである。逆に血球が低張液に曝された場合、血球の中に水が浸透し、血球は破裂する(図3)。
図3生体内での浸透圧(赤血球の例)
NursingEye
輸液と中心静脈栄養
何らかの理由で水分補給ができなくなると脱水状態となる。脱水や電解質失調時には輸液(生理食塩液、リンゲル液、ハルトマン液、ブドウ糖液)を行う。輸液する製剤は原則として体液と浸透圧が等しくなければならない。静脈栄養の長期化が予想される場合、1日に必要なエネルギーと栄養素を含む高カロリー輸液が投与されることがある(完全静脈栄養、中心静脈栄養、高カロリー輸液法という)。この場合、血流量の多い中心静脈が投与ルートとして選択される場合がある(ここでの中心静脈とは心臓近くにある上大静脈と下大静脈を意味する医療用語であり、解剖用語ではない。解剖学では、中心静脈は肝小葉の中央にある血管を意味する)。高濃度溶液は浸透圧が高いため、血流量の少ない末梢静脈から投与すると、静脈炎を起こす可能性があるからである。
また、中心静脈は、抗がん剤の投与ルートに用いられることがある(末梢静脈で抗がん剤が血管外漏出をおこすと、抗がん剤によっては組織障害や壊死を生じるため)。
なめくじに塩
なめくじに塩をかけると、なめくじはみるみるうちにしぼみ、死んでしまう。これはなめくじの体内からどんどん水分が出る結果しぼむもので、浸透圧差による。
※編集部注※
当記事は、2016年2月14日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版