細胞内外間の物質の移動(2)|細胞の基本

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

細胞内外間の物質の移動(1)|細胞の基本機能

 

今回は、細胞内外間の物質の移動についての2回目です。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • 細胞膜は選択的透過性をもつ障壁(バリア)である。
  • 細胞膜は脂溶性物質やガス体を自由に通すが、非脂溶性物質(イオンやグルコースなど)の移動には特殊な機構が必要である。
  • 特殊な機構には、イオンチャネル、担体性輸送、エンドサイトーシスとエクソサイトーシスがある。
  • 担体を利用した輸送には、能動輸送、対向輸送、共輸送等がある。

 

〈目次〉

 

チャネル

細胞膜には、Naナトリウムイオン)チャネル、Kカリウムイオン)チャネル、Ca2+カルシウムイオン)チャネルやCl(クロライドイオン)チャネルのような分子量の小さいイオンを通す孔(チャネルタンパク)がある。

 

これらのイオンチャネルが開くと、濃度の高いほうから低いほうへと濃度勾配(電位勾配も関係する)に従って拡散によりイオンは移動する。Naの場合は、濃度の高い細胞外から濃度の低い細胞内へと拡散移動する。これは興奮の発生にとって重要である。

 

担体性輸送

グルコースやアミノ酸、イオンは膜に存在する膜輸送タンパク質である担体(carrier)(トランスポーターtransporter)によって輸送される。担体はイオンやその他の分子と結合すると、このタンパク質の構造が変わることによって結合した分子を膜の一側から他の側へ移動させる。担体を利用した輸送には、能動輸送対向輸送共輸送(共同輸送)等がある(図1)。

 

図1担体性輸送とイオンチャネル

担体性輸送とイオンチャネル

 

能動輸送(Na-Kポンプ、NaポンプまたはNa-K ATPase):細胞内から3個のNaが、細胞外から2 個のKが濃度勾配に逆らって輸送される。この輸送にはエネルギーが必要であり、ATPの分解で得られ るエネルギーが使われる。Pi:無機リン酸(inorganic phosphate)
対向輸送:対向輸送の1例にNa-Ca2+交換系がある。この場合、細胞内から1個のCa2+が細胞外からの3個のNaと交換して輸送される。
イオンチャネル:細胞膜にあるイオンチャネルが開くと、イオンは濃度勾配に従って拡散で移動する。

 

(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.9、文光堂、2003より改変)

 

能動輸送 〔 active transport 〕

濃度勾配や電気的勾配に逆らって輸送する担体がある。この場合、エネルギーの供給を必要とするので能動輸送またはポンプとよばれる。低いところから高いところへ水を汲み上げることを思い浮かべてみよう。この場合、ポンプなどを使って汲み上げるであろう。

 

生体が濃度勾配に逆らって物質を移動する際は、ATPを分解して遊離されるエネルギーを利用する。このような輸送系の最も重要なものにNa-K能動輸送Na-KATPase、Na-KポンプまたはNaポンプともいう)がある。

 

Na-Kポンプは、ATPを分解する酵素Na-KATPaseでもあり、1分子のATPを分解するごとに3個のNaを濃度勾配に逆らって細胞外に汲み出し、2個のKを細胞内に輸送する。

 

NursingEye

心不全の治療薬であるジギタリスは、Na-KATPase(Na-Kポンプ)を抑制することによって心筋収縮力を増大させる。
Na-Kポンプ抑制による細胞内Na濃度の上昇は、細胞膜内外の濃度勾配を減少させ、その結果、細胞膜のNa-Ca2+交換系を介するNaの流入とCa2+の流出が減少し、細胞内Ca2+が上昇する。その結果、心筋の収縮力が増大するのである。

 

対向輸送(対抗輸送)〔 counter transport 〕

対向輸送の代表的なものにNa-Ca2+交換系(Na-Ca2+exchanger)がある。細胞が興奮(活動電位発生)すると細胞内にCa2+が流入するが、流入したCa2+はいずれ細胞外に汲み出されなければならない。流入したCa2+を汲み出す機構の1つが、Na-Ca2+交換系である。

 

Ca2+濃度は細胞内よりも細胞外で高いにもかかわらず、細胞内から1個のCa2+を細胞外に輸送して3個のNaを細胞内に取り込む。H-K交換系も対向輸送であり、Na-H交換系も対向輸送である。

 

共輸送 〔 co-transport 〕

代表的なものにNa-グルコースの輸送がある。これは1個の担体を利用して1個のNa1個のグルコースが一緒に細胞外から細胞内に輸送される。

 

****

 

対向輸送と共輸送の場合、ATPを消費しない。Ca2+やグルコースは濃度勾配に逆らって細胞外に移動することになるが、これらの輸送はNaと共同で移動するためである(Naは濃度の低い細胞内に移動するため)。

 

エクソサイトーシス(開口分泌)とエンドサイトーシス(開口吸収)

Summary

  • エクソサイトーシスとエンドサイトーシスとは、物質が細胞膜を通過するための特殊な機構である。
  • エクソサイトーシスとは、開口分泌で細胞内から細胞外へ放出する現象である。
  • エンドサイトーシスとは、開口吸収で細胞外から細胞内へ取り込む現象である。

 

チャネルや担体で細胞膜を通過できない物質を移動させる機構に、エクソサイトーシスとエンドサイトーシスがある(図2AB)。

 

図2Aエクソサイトーシス

エクソサイトーシス

 

細胞内で産生され、小胞につめられた神経伝達物質やホルモンなどが、小胞膜と細胞膜が融合した場合、膜が溶けて小胞内容物が細胞外(あるいは神経終末外)へ放出される

 

図2Bエンドサイトーシス

エンドサイトーシス

 

細胞外からコレステロールを付着したリポタンパク質などが、細胞膜にくっつくと細胞膜にくぼみができ、そのくぼみが小胞を形成する。これは、細胞外の物質を細胞内に取り込む手段の1つである。

 

エクソサイトーシス 〔 exocytosis 〕

化学伝達物質(chemical transmitter)やホルモンなどの物質を運び出す手段である。これらの物質を積み込んだ小胞が膜まで移動し、膜と結合すると小胞膜と細胞膜が融合し、小胞内容物が細胞外に押し出される(放出または遊離される)現象である(図2A)。

 

これは神経終末から化学伝達物質が放出され、神経情報を伝えるのに重要な手段となる。

 

エンドサイトーシス 〔 endocytosis 〕

エクソサイトーシスとは逆の過程で、コレステロールを付着したリポタンパク質などが細胞膜に結合すると膜にくぼみができ、それが小胞となり、それらの物質を細胞内に取り込んだり飲み込んだりしてしまう現象である(図2B)。

 

 

[次回]

興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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