興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1)
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看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、興奮の発生と伝導について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 細胞膜の内外には電解質が不均一に分布している(内側は K+が、外側は Na+濃度が高い)。
- 2. 神経細胞や筋細胞の膜は刺激に応じて活動電位を発生する。これは細胞内外のイオン透過性の変化である。
- 3. 細胞膜が興奮していないときの膜電位を静止電位という。このとき、膜の内側はマイナスに、外側はプラスになっている。
- 4. 膜が刺激を受けると、Na+に対する透過性が増大し、Na+は細胞内に流入する。プラスイオンが細胞内に流入するので細胞内はプラスに傾く(脱分極)。
- 5. K+チャネルが開くと、K+は細胞外に流出する。プラスイオンが流出するので、細胞内はマイナスに傾く(再分極)。
- 6. 活動電位の形は、細胞の種類や組織部位により異なる。
- 7. 細胞内外に生ずる電位差を膜電位という。
- 8. 興奮性細胞(神経と筋細胞)が静止状態にあるときの膜電位を静止膜電位(静止電位)という。
〈目次〉
はじめに
身体は約30兆個もの細胞の集合体である。細胞は細胞外からの情報を受け入れ、その情報に応じて応答し機能している。これらの細胞が連携しなければ個体として機能することはできない。
個体を構成する細胞、器官、組織の活動を統合し、生体機能を調節するのが、神経系と内分泌系である。
内分泌系の場合、ある場所でホルモン(hormone)をつくり、それを血流に乗せて目的の場所に運ぶ。目的の場所がその化学物質を受容することによって、情報の伝達が行われる。
一方、神経系の場合、神経線維上を活動電位(神経インパルスとも呼ばれる)が伝導し、神経と神経の間隙および神経と効果器の間隙の情報は、それぞれ特有の神経伝達物質(neurotransmitter)によって行われ、中枢から末梢へ、末梢から中枢への情報伝達がすばやく行われる。
それでは、神経線維上をどのように情報が電気的に伝わり、筋細胞に伝えるのであろうか。ここでは興奮の発生と電気的に情報を伝える方法について解説する。
興奮の発生と興奮の伝導
細胞内外に存在する電解質には、大きな濃度差がある。一般に細胞の興奮は、細胞膜のイオン透過性の変化(細胞内外のイオンの動き)として表れ、これが電気現象として観察される。興奮に際してみられる一連の電位変化を、活動電位(action potential)という。
神経細胞や筋細胞の膜は、刺激に応じて活動電位を発生する。興奮に際してみられる一連の活動電位は、神経、平滑筋、心筋、骨格筋など細胞の種類や部位(例えば心臓でも洞結節、心房筋、心室筋、プルキンエ線維等)でかなり異なる。図1に神経細胞と心室筋細胞の活動電位を示す。
このような活動電位は、細胞内にガラス管電極を刺入して測定することができる。まず、細胞膜における膜電位の変化について、基本的なことを解説する。
膜電位
細胞膜に発生する電位を膜電位という。細胞が興奮していないとき(静止状態)の膜電位を静止電位という。
細胞の膜に刺激が加わると、電位変化が起こる。その電位が閾値(図2)に達すると突然急激な変化が起こり、ついには細胞外電位(0mV)を超える。細胞が興奮したわけである。
この興奮が起こる限界の膜電位を閾膜電位(threshold potential)あるいは閾値という。細胞外電位を超える部分をオーバーシュート(overshoot)とよぶ。神経や骨格筋と異なり、心室筋の場合、速い立ち上がり相の後、再分極相との間にプラトー相(plateau)とよばれる水平部がある。その後に電位が下降する再分極相が来る。
活動電位の各相の電位変化すなわちイオン透過性の成り立ちを心室筋細胞の活動電位(図1)を例に説明する。
図1活動電位と膜電位
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.26、p.253、文光堂、2003より改変)
静止電位
細胞が興奮していないとき(静止時)の膜電位を静止電位(resting potential)という。どの細胞も細胞膜をはさんで細胞内はマイナス、細胞外はプラスになっている。そして細胞外は0mVになっている(図2)。この理由は、細胞外にアースをとることで、膜外の電位を0mVとみなすからである。
図2(A)活動電位の発生と伝導、(B)神経細胞における活動電位
細胞内液はK+濃度が、細胞外液はNa+濃度が高くなっていることを思い出してみよう。
静止時には細胞膜のK+に対する透過性がNa+の50~100倍も高く、K+は濃度の高い細胞内から低い細胞外へ濃度勾配によって拡散している。Na+の透過性はK+に比べてはるかに小さいので、K+についてのみ考える。
ところで、K+はプラスに荷電しているので、このイオンが外に流れ出た分だけ、細胞の内側は外側に比べマイナスになる。その結果、今度は K+を逆に細胞内へ引き戻そうとする力(電位勾配による力)が働く。
もしK+が荷電していなかったら、このイオンは濃度勾配に従って外へどんどん出ていってしまうが、今述べた 2つの力(濃度勾配と電位勾配)が釣り合ったところで細胞膜を介するK+の出入りは一定になる。
このときの細胞膜の内外の電位差を静止電位といい、(細胞膜外の電位を0としたときに)細胞内はマイナスになっているのである。細胞内の電位がマイナスになっている状態を分極状態にあるという。
活動電位の発生
興奮性細胞の特徴は、細胞膜が興奮(活動電位発生)を起こすことである。
立ち上がり相(0相)
細胞膜が刺激されると、興奮組織の膜が静止電位(-90~-70mV位)から+30mV位へと急激に変化し、立ち上がり相を形成する。これは静止時には低かったNa+に対する透過性が一過性に上昇するために生ずる。
静止時にはNa+に対する透過性はK+のそれの1/50~1/75であったのに対し、興奮時、すなわち活動電位の立ち上がり相では、Na+の透過性が600倍にもなる。
このとき、K+の透過性はほとんど変化しないので、細胞内側の膜電位はプラスに逆転する(これを分極状態から脱するという意味で脱分極という、すなわち、膜電位が静止電位から0→プラスの方向に変化することをいい、細胞内部が外部に対してプラスになることをオーバーシュートという)。
するとこの電位変化はますますNa+に対する透過性を高め、Na+は細胞内に入っていくことになる。そして細胞内Na+濃度があるレベルに達するとNaチャネルは閉じ、Kチャネルが開き、再び細胞外に出て膜電位は静止電位まで近づく。
これらのイオンの細胞膜を介する出入りは、それぞれを選択的に通すイオンチャネルを介して起こっている。
心室筋では、Naチャネルが開いて細胞内に Na+が急激に流入した後、Naチャネルは閉じ、続いてKチャネルが開く前に、脱分極により開いたCaチャネルを通ってCa2+が細胞内に入り込む。
このCaの流入により膜電位が保たれ、プラトー相ができる。その後、Kチャネルが開き、Caチャネルが閉じ、膜は急速に再分極する。これが繰り返される(図1)。
不応期〔 refractory period 〕(2相)
刺激により活動電位が発生すると、次の刺激では反応が低下して活動電位を発生しない時期がある。この時期を不応期という。
不応期には、絶対不応期と相対不応期の2つの相がある。どんなに強い刺激にも応じない時期を絶対不応期とよぶ。再分極の進行中に強い刺激を加えると、活動電位を発生する時期がある。この時期を相対不応期とよぶ。
再分極相〔 repolarization phase 〕(3相)
Caチャネルが閉鎖し、Kチャネルが開くため、K+の濃度勾配によりK+が細胞外に流出する。その結果、プラスに帯電したイオンが細胞外に出ていくため、細胞内はしだいにマイナスに傾き、細胞内電位は急激に下がる。
以上述べたように、活動電位が発生すると細胞内にNa+が、続いてCa2+が流入し、K+が流出する。その結果、細胞内外のイオン濃度は変化する。
次の活動電位が発生するためには、細胞内外のイオン濃度が活動電位発生前のレベルに戻っていないと正常な活動電位は発生できない。
そこで、次の活動電位が発生するまでに、前述した「担体性輸送」Na+-K+ ATPase(Na+ pump)、Na+-Ca2+交換系(Na+-Ca2+ exchanger)により、濃度勾配に逆らってこれらのイオンを元のレベルに戻すのである。
※編集部注※
当記事は、2016年2月21日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版