シナプス伝達|生体機能の統御(2)

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

興奮の発生と伝導|生体機能の統御(1)

 

今回は、シナプス伝達について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • 神経線維上における情報の伝播は、活動電位により電気信号(イオン透過性変化)として迅速に行われる。
  • シナプス間隙の情報伝達は、神経終末から放出される化学伝達物質(情報伝達物質ともよばれる)を介して行われる。
  • 化学伝達物質は、エクソサイトーシスにより放出される。
  • 放出された化学伝達物質は、拡散により細胞膜上にある受容体に結合する。

 

〈目次〉

 

シナプス伝達

神経線維上の情報(興奮)の伝播は電気的に行われる。「興奮の発生と興奮の伝導」で述べたように、情報は活動電位により電気信号として迅速に伝えられ、神経終末まで到達する。

 

神経線維と神経線維の接合部(神経節)、および神経線維とそれによって支配される効果器官との間には隙間(約20nm)がある。この隙間をシナプスあるいはシナプス間隙(かんげき)とよぶ。電気信号は通常このシナプス間隙を直接伝わることはできない。

 

では、シナプス間隙で情報はどのように伝えられるのであろうか。

 

神経終末には固有の化学物質が蓄えられている。神経終末まで情報(活動電位)が達すると、神経終末の小胞に蓄えられている化学伝達物質がエクソサイトーシスにより放出される。放出された化学伝達物質は、シナプス間隙を拡散して、次の神経細胞膜、あるいは効果器の細胞膜上にある受容体に結合し、情報は細胞内へと伝えられるのである。

 

神経線維内の情報(活動電位)の伝播を伝導というのに対し、シナプス間隙の情報の伝播を伝達とよんで区別している。シナプス間隙で情報を伝達する化学物質を化学伝達物質(chemical transmitter)あるいは情報伝達物質とよぶ。

 

このようにシナプス間隙の情報の伝達をシナプス伝達とよぶ。

 

図1シナプス伝達

シナプス伝達

 

(A)神経の興奮伝達(情報伝達)
神経上の興奮の伝播は、活動電位により電気信号として迅速に伝えられ、その情報が神経終末まで到達する。

 

(B)シナプス間隙の情報伝達
情報(活動電位)が神経終末に達するとシナプス前膜は脱分極し、電位依存性Ca2+チャネルが開く。すると細胞外のCa2+は細胞内へと流入する。細胞内Ca2+濃度が上昇すると、シナプス小胞は移動し始め、ついにはシナプス前膜と接合(融合)する。

 

すると小胞内に蓄えられている化学伝達物質がシナプス間 隙へと開口分泌(エクソサイトーシス)される。シナプス間隙に放出された化学伝達物質は拡散して、 次の神経線維シナプス後膜上あるいは効果器の膜上の受容体に結合し、情報を受容する。

 

化学伝達物質の放出

では、化学伝達物質はどのように放出されるのであろうか。

 

その一連の事象は、図1に示すように

 

  1. 情報(活動電位)が神経終末に達するとシナプス前膜は脱分極する。この脱分極はシナプス前膜のCa2+チャネルを開く。するとCa2+は濃度勾配により細胞外から細胞内へと流入する。
  2. 細胞内Ca2+濃度が上昇すると、シナプス小胞は移動し始め、ついにはシナプス前膜と接合(融合)する。すると小胞内に蓄えられている化学伝達物質が、シナプス間隙へ放出される(「エクソサイトーシス」参照)。
  3. シナプス間隙に放出された化学伝達物質は拡散して、次の神経線維シナプス後膜上、あるいは効果器官の膜上の受容体に結合する。すると受容体は、情報が伝わってきたことを細胞内に伝達する。

神経線維シナプス後膜上にある受容体に伝達物質を結合すると、神経細胞膜の電位を変化させ、活動電位を誘発し、情報を伝播する。効果器細胞膜上にある受容体に伝達物質を結合すると、細胞内に新しい情報がつくり出され、機能を発揮する。

 

なお、シナプスにおける化学伝達には、放出される伝達物質の違い、それを受容する側(受容体)の違いによって、興奮を伝達する興奮性伝達と、興奮を抑制する抑制性伝達がある。

 

情報伝達物質

情報の伝達に関与する化学物質を情報伝達物質とよぶ。

 

情報伝達物質には、上記で述べた神経からの情報を伝える化学物質(これを神経伝達物質ともよぶ)の他にも、内分泌物質(ホルモン)、局所ホルモンともよばれるオータコイド、細胞増殖・分化因子(サイトカイン、その他)や細胞接着因子などさまざまな物質があり、最近新しい物質が相次いで発見されている。

 

神経伝達物質としてよく知られているものに、アセチルコリン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、ドパミン、セロトニン、一酸化窒素(NO)、アミノ酸(γ-アミノ酪酸、グルタミン酸、グリシン)、ペプチド(サブスタンスP、エンケファリン、ニューロペプチド)、プリン体(ATP、アデノシン)などがある。

 

[次回]

受容体と細胞内情報伝達系(1)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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