腎血管造影|腎・泌尿器系の検査
看護師のための検査本『看護に生かす検査マニュアル』より。
今回は、腎血管造影について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
腎血管造影とはどんな検査か
腎血管造影では、鼠径部から経皮的に大腿動脈にカテーテルを挿入し、さらに腎動脈内に選択的に挿入して、カテーテルから造影剤を注入し、血流の画像を得る。
腎血管造影の目的
腎血管造影の目的は、腎悪性腫瘍、腎外傷、腎嚢胞、腎動脈瘤、腎静脈瘤、動静脈瘻、腎静脈血栓症、腎動脈狭窄ならびに原因不明の腎出血の診断である。
必要時、治療を行う。
腎血管造影の実際<セルディンガー法>
患者の入室・準備
- ①患者をストレッチャーから検査台に移し、布片で体を覆い、全裸として仰臥位をとる。
- 患者の羞恥心の緩和や保温に努める。
- 陰部はガーゼで覆う。
- 検査の所要時間・注意点について説明し、患者の不安の軽減を図る。
- ②バイタルサイン、一般状態の観察および足背動脈の確認を行う。
物品の準備
検査医への介助
- ①検査医の清潔ガウンの着用を介助する。
- ②検査医が穿刺部の消毒後、穴あき滅菌布片で覆い、清潔野をつくる。
- ③検査医に注射器を渡し、局所麻酔薬を吸ってもらう。すべて清潔操作で行う。
- ④麻酔をする際には、患者に声かけを行って不安の軽減を図るとともに、キシロカインショックなどの副作用の観察を行う。
- ⑤18Gの針で動脈を穿刺し、ガイドワイヤーを挿入し、シースをX線透視下で選択的に血管内に進入させる。または、皮膚の小切開後、シースを動脈穿刺して行うこともある。
- ⑥カテーテルの挿入位置を確認後、必要量の造影剤をカテーテルから注入し、造影する。
- ⑦造影剤注入時、副作用の観察を行う。
- 患者には灼熱感が生じることを事前に説明し、不安の軽減に努める。
- ⑧撮影後カテーテルを抜去し、穿刺部を10分間圧迫止血する。
- ⑨穿刺部位の止血確認後、皮膚消毒を行い、ガーゼを当てて絆創膏(幅広で伸縮性のあるもの)で圧迫固定する。
- ⑩患者に検査が終了した旨を伝える。
- ⑪検査医に確認後、患者に安静時間・食事の制限などについて説明する。
- ⑫ストレッチャーに横シーツ、病衣(ガウン式)、T字帯を広げ、患者を検査台から水平移動させる。
腎血管造影前後の看護の手順
検査前
1)患者への説明
- 医師から患者および家族へ、検査の必要性・方法・合併症の可能性について説明を行い、承諾書を得る。
- 医師の説明後、看護師より検査前の処置、検査後の安静について説明を行う。
2)検査前の処置
・機能障害、意思疎通などに問題がある場合も記入する。
・高血圧、糖尿病、心疾患などの既往症についても記入する。
- 必要物品を準備する(病衣、T字帯、横シーツ、必要に応じてオムツなど)。
- 検査前日、両鼠径を中心に下腹部から大腿にかけて広範囲に剃毛を行う。
- 剃毛の終了後、入浴またはシャワー浴をし、両足背動脈触知部にマジックでマーキングを行う(足背動脈のマーキングは、検査後に拍動の左右差を確認し、挿入部以遠の末梢動脈の閉塞がないか確認するため)。
- 検査当日の飲食の制限ついて説明する。
・検査前一食を絶飲食とする(造影剤の副作用として嘔気が起こることがあり、また鮮明な画像を得るためにも必要)。
・薬の内服は、医師に確認する。
3)検査室出床
- 貴重品(義歯、眼鏡、指輪など)の除去を確認する。
- 指示された点滴を開始する。
- 血管造影チェックリスト用紙に必要事項を記入する。
- 尿カテーテルを留置する。
- 検査室から連絡がきたら患者をストレッチャーへ移動する。
- 前投薬を筋肉注射する。その際、前後のバイタルサイン、一般状態を観察し、血管造影チェックリストにバイタルサインを記入する。
- 血管造影室の看護師へチェックリスト用紙に沿って申し送る。
検査終了までに行うこと
- ベッド周囲にガーグルベース、水のみを準備する(嘔気・嘔吐時に対応するため)。
- ベッドは湯たんぽなどで保温しておく。
- 検査終了の連絡を受けたらストレッチャーで迎えにいく。
検査後
- 検査の内容、検査時の状態、検査後の指示について検査室の看護師から申し送りを受ける。
- 帰室したら、ストレッチャーからベッド上安静のまま水平移動する。
- ベッドに移動後、バイタルサイン、穿刺部の出血・血腫の有無、足背動脈の触知、四肢冷感、チアノーゼ、腹部状態、消化器症状の観察を行う。
- 患者へ安静の必要性、穿刺部の下肢を屈曲させてはいけないことを説明する。
- 経時的にバイタルサインのチェック、一般状態の観察を行う。
- 飲食は、状態が落ち着いていれば、飲水は直後から、食事は1時間後から可能である(必要時、医師に確認する)。
- 安静は状態が落ち着いていれば、6時間後に穿刺部の出血の有無を確認して包交を行い、安静解除となる。
- 点滴は、安静解除とともに終了となることが通常であるが、医師に確認する。
腎血管造影において注意すべきこと
- 検査前にアレルギーの体質、また疾患はないか、以前の造影剤の使用歴、その副作用の有無を確認する。
*ヨード過敏症テストは、現在ではほとんど行われていない。
- 検査後も遅発性副作用の出現の可能性があることから観察を怠らないようにする。
・遅延性副作用は3時間後から3日頃に出現し、発赤、発疹、嘔気などがある。
- 足背動脈触知不良、循環異常があれば、血管内の塞栓も考えられるため、早急に医師に報告する。
- 同一体位による腰痛・背部痛があるときはスポンジの挿入、マッサージを行い、安楽を図る。
- 絆創膏による圧迫固定は、皮膚のかぶれ、表皮剥離を生じることがあるので、事前にテープアレルギーがないかチェックしておく。
- 絆創膏によるアレルギーがある場合は、使用する絆創膏を低アレルギー性のものに変更するか、皮膜剤などを事前に塗布し、絆創膏固定する。
- 造影剤の排泄を促すため水分制限がなければ飲水を促す。
腎血管造影に関する患者との問答例
これから検査室に行きますのでおトイレを済ませてください。
はい。
検査前の緊張をとるために肩に筋肉注射をします。
検査は痛いですか。
足のつけ根から針を刺しますが、局所麻酔をするので、ほとんど痛みは、感じません。
時間はどれくらいかかりますか。
1時間くらいですが、場合によっては、もう少しかかる場合もあります。
腰痛もちなんですが。
分かりました、検査室の看護師にもそのことは伝えておきます。
お願いします。
造影剤の影響で、ほてったり、動悸がしてくることがあります。気分が悪くなったら、検査室の看護師にすぐに伝えてください。
分かりました。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版