咳嗽ガイドラインが6年ぶりに改訂|咳喘息を疑ったら吸ステ前に気管支拡張薬を

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

聞き手:小板橋律子=日経メディカル

 

日本呼吸器学会は、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』を作成中だ(日本呼吸器学会の関連サイト)。

 

このガイドラインは、2012年に発行された『嗽に関するガイドライン第2版』の改訂版。今回、新たに喀痰に関する記載を盛り込み、咳嗽や喀痰を生じる疾患について網羅性の高い解説を加える。

 

ガイドライン作成委員会委員長を務めている長崎大学呼吸器内科教授の迎寛氏と、委員会の事務局を務める、同准教授の尾長谷靖氏に改訂のポイントを聞いた。

 


 

―― 改訂のポイントを教えてください。

 

迎:今回の一番大きな改訂ポイントは、本ガイドライン作成委員会の前委員長の玉置淳氏のご意向で、咳嗽と密接な関係にある喀痰も一緒に取り上げたことです。そのため、名称も『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』となりました。

 

私は咳嗽部分の改訂作業の委員長となり、喀痰部分は横浜市立大学呼吸器病学教授の金子猛氏が委員長となっています(金子氏へのインタビューは日経メディカルにて後日掲載予定)。

 

前回までは、主にX線検査や身体診察で器質的な異常を認めない咳嗽患者を対象としていましたが、今回は、X線検査で異常を認める疾患、例えば、肺癌結核、間質性肺炎を加えました。

 

加えて、喀痰の総論、喀痰を認める疾患として、びまん性汎細気管支炎(DPB)、気管支拡張症、副鼻腔炎など広範な疾患をガイドラインの対象としています。

 

また、近年重要となっている、咳エチケットといった感染予防対策の項目を追加しました。そのため、第2版に比べると、ページ数が大幅に増えており、教科書に近いものになっています。

 

 

巻頭には、これまで同様、「3週間未満の急性咳嗽」と「3週間以上続く遷延性・慢性咳嗽」への対応をフローチャートで示しています。

 

急性咳嗽は感染が原因となることが多いのですが、抗菌薬の適正使用を進めるという観点から、感染性咳嗽を疑った場合でも咳嗽のピークが過ぎている場合は、抗菌薬の処方は不要とし対症療法で対応する流れを強調しています。

 

おもに急性咳嗽で抗菌薬投与の対象となるのは、咳嗽のピークが過ぎておらず、マイコプラズマ感染症や百日咳、クラミジア感染症が疑われる場合となります。そのような患者に対しては、第2版までの推奨薬だったマクロライド系抗菌薬だけでなく、今回、レスピラトリーキノロンも推奨しました。

 

キノロンを推奨薬として追加した理由としては、第一に実臨床での使用実績があることが挙げられます。

 

加えて、昨年発行された『成人肺炎診療ガイドライン2017』で、軽度から中等症の外来肺炎への第一選択薬の1つにキノロンが加わったため、整合性を取る必要性があると考えました。

 

また、マクロライド耐性マイコプラズマの問題もあります。ただしキノロンは、結核にもある程度有効で、結核をマスクし得る抗菌薬です。投与前には、結核を除外することが重要です。

 

咳嗽が3週間以上続く遷延性・慢性咳嗽への対応では、喀痰を認める場合は、最も頻度が高い疾患として副腔気管支症候群(SBS)をまず挙げ、第2版同様、画像検査などによる診断が困難な場合には、14・15員環マクロライド系抗菌薬による治療的診断を勧めています。

 

ただし、クラリスロマイシン(商品名クラリス他)は、非結核性抗酸菌感染症(NTM)への有効性が認められ、NTM治療ではキードラッグとなりますので、クラリスロマイシンの長期使用により、NTMがマクロライド耐性化することは問題です。

 

ですので、まずはエリスロマイシン(エリスロシン他)を投与し、効果が得られない場合や副作用が出現した場合は、他のマクロライドを選択することと、注釈に加えてあります。

 

クラリスロマイシンをマクロライド療法で使用する際は、患者がNTMではないことをきちんと確認する必要があります。

 

副鼻腔炎では好中球性か好酸球性かの鑑別を

 

尾長谷:副鼻腔炎にはマクロライド療法が選択されることが多いとは思いますが、マクロライド療法が有効なのは、好中球性の副鼻腔炎です。

 

これまで、副鼻腔炎の多くを好中球性副鼻腔炎が占めていましたが、昨今、好酸球性の副鼻腔炎が増え、副鼻腔炎患者の数割を占めるようになってきています。

 

 

好酸球性の副鼻腔炎にマクロライド療法は効きません。そのため、副鼻腔炎が好中球性の副鼻腔炎なのか好酸球性なのかの鑑別が重要になります。

 

好酸球性副鼻腔炎の診断基準として、両側性か否か、鼻茸の有無、CT検査、末梢血好酸球比率(%)でスコアリングする「JESRECスコア」がありますので、このスコアを活用して、好酸球性副鼻腔炎を否定してからマクロライド療法を実施してほしいと思います。

 

好酸球性副鼻腔炎には、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧ステロイドなどを用いるのですが、再発例や無効例も多く、手術適応も考える必要があります。

 

ですので、できるだけ初期のうちに経験豊富な耳鼻咽喉科に相談してください。

 

―― 乾性の遷延性・慢性咳嗽では、咳喘息とアトピー咳嗽/慢性の喉頭アレルギーの鑑別を求めているのも特徴ですね。

 

迎:喀痰を認めない遷延性・慢性咳嗽の場合、第2版では、咳喘息とアトピー咳嗽/慢性喉頭アレルギーを一括りにしていました。

 

当時、まださほど認知度の高くなかった咳喘息を知ってもらい、多少広めでも拾い挙げてほしかったため、あえて両者の鑑別に重みを置かなかったのです。

 

第2版の発行後、咳喘息という診断名は非常に一般的なものとなり、拾い上げも進みました。ただし、その反作用としてか、治療的診断が一人歩きし過ぎ、過剰診断になってきているとの危惧が新たに生じています。

 

そのため今回は、咳喘息をきちんと診断してほしいというメッセージを込め、アトピー咳嗽/慢性喉頭アレルギーとは鑑別することを求めました。

 

―― 咳喘息は過剰診断が多いとの指摘はよく聞きます。ただし、吸入ステロイドは、アトピー咳嗽にも有効であるため、きちんと鑑別できなくても患者は困らないという方もいますね……。

 

尾長谷:咳喘息は喘息の初期病態と考えられています。咳喘息と診断されることは、「喘息の既往」を意味するわけです。

 

そうなると、その患者さんでは、手術前には喘息と同じ追加の検査が必要になりますし、造影剤の使用にも注意を要します。さらに、アスピリン喘息も危惧されれば、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の投与も慎重にならなければなりません。

 

「喘息の既往」というのは患者にとって重いものです。だからこそ、アトピー咳嗽と咳喘息をきちんと鑑別することは臨床上、とても大切なのです。

 

咳喘息の診断を慎重に行うためにも、咳喘息が疑われる患者に対しては、気管支拡張薬を吸入させ、その効果を確認していただきたいです。

 

気管支拡張薬の吸入で、今、目の前で出ている咳が全く軽減しない場合は、咳喘息ではないと考えてよいと思います。きちんと診断すると、咳喘息とされる患者は現状よりは少ないかもしれません。

 

 

第2版では、診断的治療として吸入ステロイドの処方も可としてはいますが、今回は、やはり最初は気管支拡張薬を処方し、その効果を見た上で、治療方針を立ててほしいという方向となりました。

 

咳喘息と診断した患者には、吸入ステロイドを処方してください。咳喘息の場合は、吸入ステロイドの治療を2年程度きちんと行うことで、喘息への移行を予防できるというエビデンスがあります。

 

咳喘息患者では、吸入ステロイドによる治療の継続指導が大事なのです。

 

一方、アトピー咳嗽/慢性喉頭アレルギーが疑われる場合は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬をまず処方し、その効果を確認してください。ヒスタミンH1受容体拮抗薬で咳が改善すれば、臨床診断できます。

 

ヒスタミンH1受容体拮抗薬の効果が不十分な場合は、吸入ステロイドを併用します。アトピー咳嗽/慢性喉頭アレルギーでは、症状さえ治まれば、治療薬は中止しても再発リスクは高まりません。

 

―― 診断的治療で、鑑別は十分にできるものでしょうか。

 

迎:診断的治療をこれまでと同様に認めてはいますが、実臨床で咳嗽の原因として多いのは感染に伴う咳嗽である点を常に念頭に置いていただきたいと思っています。

 

感染性の咳嗽は、症例にもよりますが、7~14日くらいでピークを越え、その後、徐々に良くなっていきます。そのタイミングであれば、どのような薬剤を使っても効いたように見えるものです。

 

吸入ステロイドを処方して改善すれば咳喘息の病名が付き、プロトンポンプ阻害薬を処方した場合では食道逆流症との病名が付いてしまう、というように。診断的治療には、このような落とし穴があるのです。

 

咳嗽診療の基本中の基本である、結核、癌、喘息などの重大な疾患を見落とさないという姿勢で日々の診療に当たってください。

 

今回のガイドラインが、咳嗽・喀痰患者の管理に少しでもお役に立てれば幸いです。また、改善すべき点はご指摘いただければと思っています。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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