ミッション:高齢患者の救急搬送を回避せよ|特集◎あなたが防ぐ急性増悪《プロローグ》

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

増谷彩=日経メディカル

 

90歳女性のAさん。誤嚥性肺炎救急外来に搬送され、入院となった。

 

しかし、入院によるリロケーション(移転)ダメージでせん妄を来し、点滴を引き抜くなど問題行動を起こし始めた。安全のために身体拘束を行った結果、ADLが低下。

 

入院のきっかけは軽い肺炎だったが、自宅に戻れず介護施設入所となってしまった──。

 

 

入院は、それ自体がフレイルを生むリスクだ。加齢変化にベッド上での安静や治療に伴うリスクが加われば、様々な「害」が生じる。

 

高齢者がベッドの上で動かなければ廃用症候群が進行する(図1)。不慣れな環境はせん妄を引き起こし、フレイルや転落しやすいベッド、硬く滑りやすい床も相まって転倒や骨折が起こる。転倒を防ごうと抑制を行えば、廃用症候群が進行する悪循環に陥る。

 

高齢者が入院によって受けるデメリットを表すイラスト

図1 高齢者が入院によって受けるデメリット(取材を基に編集部作成)

 

入院は高齢者の生命予後まで短縮する可能性が指摘されている。

 

16のランダム化比較試験(RCT)論文を集めたコクランレビューでは、入院後6カ月までの死亡が1000件当たり240件であるのに対し、在宅医療では1000件当たり185件で、入院の方が予後が悪いと結論づけている(図2)。

 

図2 入院管理をすることで患者の予後は悪くなる

 

かかりつけ医の介入で入院回避

また、救急外来で老年医学専門医のコンサルトを受けた場合と受けなかった場合の入院回避率について、5本の論文をシステマティックレビューした結果、コンサルトで2.6%~19.7%の入院を回避でき、いずれの論文でも有意な入院率の低下を認めたと報告されている(JayS,etal.AgeAgeing2017;46:366-72.)。

 

知識を持ったかかりつけ医が診療に当たり、ケアサービスを導入することで、入院自体を回避できる可能性があることを示唆する結果だ。

 

洛和会丸太町病院(京都市中京区)救急・総合診療科副部長の上田剛士氏は「入院がかえって害を与えるようなケースは回避しなければならない」と話す。冒頭のような悲劇を防ぐためにも、できるだけ在宅で介入することが患者の生命予後やQOL維持には重要だ。

 

「入院させなければよかったと後悔するようなケースは、できる限り回避したい」と話す洛和会丸太町病院の上田剛士氏の写真

 

近年「かかりつけ医」には、外来や在宅医療によって患者をできる限り地域で支え、急性期入院後の患者の在宅復帰を進めたり、軽い症状での救急搬送を減らすといった役割が求められている。

 

2018年度診療報酬改定では、前回改定に引き続き「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への移行が意図されており、国もかかりつけ医を基軸に、患者の状態に応じて適切な医療・介護を受けられる体制の整備をより強力に推進している。

 

地域包括診療料1(1560点)や同加算1(25点)の要件には、「外来診療を経て訪問診療に移行した患者」の人数に関する要件が新たに盛り込まれた。

 

一方で要件が一部緩和され、地域包括診療加算1(35点)では、24時間対応を連携医療機関の協力を得て行ってもよいこととされている(在宅療養支援診療所を除く)。

 

茨城県で5カ所の在宅療養支援診療所を展開するいばらき会理事長の照沼秀也氏は、今年初めに自宅で看取った70歳代男性のケースを語る。患者は基礎疾患に癌を有し、自宅療養でコントロールしていたが、気胸による呼吸困難感があった。

 

こうしたケースでは呼吸困難感を抱くたびに救急車を呼んでしまう患者もいるが、照沼氏は在宅でも病院でも治療は同様であることを説明し、患者の理解を得た。その後は患者が呼吸困難感を訴えたときは胸腔ドレナージを施行した。

 

照沼氏は「必要時の処置は専門病院で行い、その後は在宅医療で支える形で、仕事をしながら自宅療養を続けられた」と振り返る。

 

入院は長期化させない工夫を

川崎市立井田病院・かわさき総合ケアセンター所長の宮森正氏は、同病院の救急外来に患者が救急搬送されてきた時点で救急科の医師と連携。高齢患者でリロケーションリスクが高い場合は、できるだけ在宅医療を勧めている。

 

「高齢者は、軽い肺炎でも入院のダメージによって寝たきりになってしまうこともある」と指摘する川崎市立井田病院の宮森正氏の写真

 

高齢者の軽い肺炎や脱水など、入院で筋力低下や認知機能の悪化が予想される場合であれば、治療後に帰宅させ、外来通院とする。

 

ただし、独居や認知症、老々世帯など介護力に不安があってかかりつけ医がいない場合は同病院の在宅ケアに切り替える場合もある。

 

「重症の癌末期患者でも、入院中のせん妄や抑制に伴うリスクを考慮すると、QOL維持のためには可能な限り在宅ケアで問題解決したい」と宮森氏は言う。

 

必要があって病院で治療を受ける場合は、入院期間をできるだけ短くし、在宅復帰をしやすい形でサポートする。照沼氏は、「日ごろの診察はもちろん大事だが、患者を守るためにも専門病院としっかりコラボしていくことが在宅診療所の重要な役割」と話す。

 

次回からは、急性増悪によって入退院を繰り返しやすいBPSDや肺炎、COPD、慢性心不全といった疾患の入院回避術を紹介していく。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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