脳内出血しやすい高齢者はこう見分ける|悩ましい高齢者への抗凝固療法

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江本哲朗=日経メディカル

 

薬剤用量の調整が容易で副作用による出血が少ない非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が登場し、高齢者への処方が広がる抗凝固療法。だが、高齢になるほど脳血管の脆弱性が高まる「脳アミロイドアンギオパチー」の患者が多く存在することが明らかになってきた。

 

出血リスクの高い人を厳密に拾い上げるためにも抗凝固療法を導入する前には、脳画像検査を実施したい。

 


 

75歳以上の後期高齢者など比較的高齢の心房細動患者では脳梗塞を発症するリスクが上がるため、抗凝固療法によるベネフィットは大きくなる。その一方で、抗凝固療法によって致命的な脳内出血が発生するリスクも加齢とともに上がる。

 

そのようなベネフィットとリスクの両者が高まる高齢患者に対して抗凝固療法を行うべきか否か──。悩みを抱える医師は多いことだろう。

 

2017年に発表された欧州のPREFER in AFレジストリーの解析結果によれば、ワルファリンやNOACといった抗凝固薬を投与した患者の方が脳梗塞や大出血が少なく、死亡率などで調整したベネフィットとリスクの差を示すネット・クリニカル・ベネフィットは、抗凝固療法群の方が有意に良好だった。

 

このネット・クリニカル・ベネフィットを「85歳未満」と「85歳以上」で比べたところ、有意差は付かなかったものの85歳以上の方がベネフィットがリスクを大きく上回っていた(図1)。

 

すなわち、85歳を超えても抗凝固療法を継続すべきことを示唆する研究結果だ。

梗塞と大出血イベントの抗凝固薬の有無による変化(欧州)を表すグラフ

図1 梗塞と大出血イベントの抗凝固薬の有無による変化(欧州)

抗凝固療法を行った患者の方が梗塞も大出血も少なかった。死亡率などで調整したネット・クリニカル・ベネフィットは、85歳未満で1.92%の抗凝固療法優位、85歳以上で2.78%の抗凝固療法優位だった(全体では2.19%優位、p=0.036)(出典:JAHA.2017;6:e005657)

 

ただし、注意すべきは、これらの結果は登録研究の対象になるような管理が行き届いた患者から導き出されたものだということ。

 

常に100人ほどの心房細動患者を診ている土橋内科医院(仙台市青葉区)院長の小田倉弘典氏は、高齢者に対して抗凝固療法を行う条件として

(1)適切な薬物治療ができていること、

(2)血圧を管理できていること、

(3)服薬管理ができていること

──の3つを挙げる(表1)。

 

「これら3条件を満たしていれば、既存のエビデンスが示しているように抗凝固療法のベネフィットはリスクを上回ると考えている」(小田倉氏)。

表1 高齢患者に対して抗凝固療法を行う条件(小田倉氏による)


次の3条件を全て満たしていること。

 

<その1>

ワルファリンの場合、適切なPT-INR管理ができている。NOACの場合、腎機能に注意しつつ、適切な薬剤・用量選択ができている

 

<その2>

血圧管理収縮期血圧135mmHg以下)

 

<その3>

服薬アドヒアランスが良好(認知症の有無・服薬管理者を把握している、多職種の協力が得られているなど)

 

ワルファリンであれば適切なPT-INR管理(プロトロンビン時間国際標準比)、NOACであれば患者の腎機能に基づく適切な薬剤や用量選択ができていること、また、収縮期血圧を135mmHg以下に抑えることが脳内出血のリスクの減少につながる。さらに(3)の薬の管理は家族や薬剤師、介護職など多職種の協力を得ながら進めていく。

 

小田倉氏は3つの条件を満たしていれば、肺炎などでほぼ寝たきりになった患者に対しても抗凝固療法を続ける方針だ。

 

例えば先日、要介護3の89歳女性が肺炎の発症を契機にほぼ寝たきりになったという。その患者には、以前から心房細動でNOACを投与していたが、ベッド上の生活が主になってもそれを続けることにした。

 

「家族と意思疎通ができたり、寝返りをできるのであれば、脳梗塞を予防するメリットは大きい」と小田倉氏。

 

もし脳梗塞を起こして半身不随で全介助になると、同じ寝たきりでも介護の負担が何倍にも増えるからだ。

 

逆にPT-INR管理を怠っていたり、そもそも服薬の状態を確認できていないなど、これら3条件をクリアできていない場合は、「リスクの方がベネフィットより高くなる恐れがあるため、抗凝固療法はやめるべきだろう」と小田倉氏は言う。

 

一方で最近、画像技術の進歩によって新たに脳内出血を引き起こしやすい集団が見えてきた。

 

金沢大学附属病院脳老化・神経病態学教授の山田正仁氏は、「心房細動で抗凝固療法を続けていて脳内出血を起こした患者の中に、脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy:CAA)の人が多数いるのではないか」と警鐘を鳴らす。

 

CAAとは髄膜や脳内の血管壁にアミロイド蛋白が沈着する疾患。山田氏の研究によれば加齢とともに有病率は上がり、65歳以上の高齢者のほぼ半数がCAAで、90歳以上ではその割合が7割超になる。

画像で見つかる脳アミロイドアンギオパチー(CAA)の例

図2 画像で見つかる脳アミロイドアンギオパチー(CAA)の例(山田氏による)

(左)CT画像。脳葉にCAA関連の大出血が見られる。この患者は3年後に再度、脳内出血を起こした。

 

(中央)T2*強調画像。アルツハイマー患者で、脳内の微小出血(黒い点状の部分)を複数確認できる。

 

(右)T2強調画像。アルツハイマー患者で、脳表ヘモジデリン沈着(矢印)がある。限局性のくも膜下出血の後にヘモジデリンが沈着した状態だと考えられている。

 

CAAでは血管が脆弱化し、脳葉型の大出血や大脳皮質での微小出血を引き起こす。MRI画像でT2*強調画像など出血部位を強調する撮影法を用いれば、無症候でも微小出血や限局性のクモ膜下出血による脳表ヘモジデリン沈着が起きている状態で発見できる(図2)。

 

患者の高齢化と画像撮影技術の向上によって、最近、報告数は増えている。

 

「抗凝固療法を導入する場合は、患者の脳の状態も確認してほしい」と話す金沢大の山田正仁氏の写真。

 

脳内出血が一度あればその後、多発・再発する可能性は非常に高い。

 

「CAAの重症度や個々の患者の特性にもよるが、一般的に脳葉型の大出血の既往があったり、MRI画像で微小出血や脳表ヘモジデリン沈着が多数認められるケースでは、抗凝固療法を控えるべきだ」(山田氏)。

 

こうした集団をあらかじめ除外すれば、抗凝固療法のリスクの部分を減らすことができる。

 

さらにアルツハイマー患者に限れば、CAAの有病率は9割弱に上る。

 

東京大学大学院医学系研究科加齢医学教授の秋下雅弘氏は、「これまで、アルツハイマー病合併例では服薬アドヒアランスの低下や転倒などを契機に抗凝固療法を見直すことが多かったが、アルツハイマー病の多くがCAAを生じていることから、医学的な見地でも認知症患者の抗凝固療法を見直す必要が出てきている」と言う。

 

CAA患者の場合は血圧が管理されていても抗凝固薬によって出血を引き起こすことが報告されている。

 

「服薬や血圧が十分に管理されていても脳内出血を起こすような例では、CAAが原因である疑いが強い。出血リスクの高い人を厳密に拾い上げるためにも、抗凝固療法を導入する場合は脳の画像も撮ってほしい」と山田氏は要望する。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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