褥瘡治癒の決め手は「亜鉛」にあった|木を見て森を見ずの褥瘡治療

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本吉 葵=日経メディカル

 

 

高齢者褥瘡治療では、体圧分散や創傷のケアといった局所療法に注力してしまいがち。

 

しかし体圧や皮膚バリア障害はきっかけにすぎず、発症の基盤には、亜鉛欠乏をはじめとするミネラルや蛋白質の不足に起因する皮膚の脆弱性がある。

 

褥瘡の治療では、局所から全身に目を向け、栄養管理を行っていく必要がある。

 


 

「褥瘡の主な要因は亜鉛欠乏にある」。

こう断言するのは、東御市立みまき温泉診療所(長野県)顧問の倉澤隆平氏である。

 

図1を見ていただきたい。約6年にわたり、病院と施設を行ったり来たりしていた79歳患者の難治性褥瘡が、亜鉛補充療法開始後、約50日でほぼ治癒している。

 

【図1】

79歳患者の難治性褥瘡が治癒していく経過を記録した写真。

イソジンシュガー+プロマック投与だけで治癒

局所療法はイソジンシュガー(一般名ポビドンヨード配合軟膏)のみ。

 

約1週後には、潰瘍面がやや乾いた感じとなり、潰瘍もやや縮小し始めた。2週後には滲出液がほとんどなくなり、潰瘍は、さらにぐっと縮小した。さらに2週後には滲出液がほとんどなくなったので、イソジンシュガーをデュオアクティブ(ハイドロゲル創傷被覆・保護材)に変更した。

 

あらゆる局所療法でも、数年間の長期にわたり治癒しなかった褥瘡が、たった2カ月弱で治癒した。

 

数年に及ぶ病院、施設で種々の治療を受けてきた患者。変えたことといえば、亜鉛含有製剤のプロマック顆粒15%(ポラプレジング)1g/日を投与したことだけだった。

 

亜鉛補充療法の前後で、Alb値は3.0→3.1g/dLと低値のままだ。

 

「Alb値は多少低くても、極端な低栄養状態でなければ、亜鉛欠乏による代謝異常の改善だけで褥瘡は治癒する。そして、亜鉛の不足を改善して、維持すれば再発予防も可能であり、他に適度な局所の除圧を行えば十分」と倉澤氏は語る。

 

この一例だけにとどまらない。

 

倉澤氏はポケット(死腔)形成の仙骨部褥瘡、広範皮下膿瘍、ほぼ骨膜に達する深い組織欠損や脊髄損傷を伴う褥瘡に対しても、プロマックのみの追加投与により褥瘡を治癒させてきた。

 

倉澤氏は、「亜鉛補充による全身療法と適度な局所療法でほとんどの褥瘡は治癒する。皮膚の脆弱状態は亜鉛欠乏による酵素の機能不全から代謝異常が起こり、治癒が遷延するもの。皮膚の状態を回復すれば、多少の圧迫で局所の血行障害が生じても、褥瘡は発症しない」と説明する。

 

「褥瘡の主な要因は亜鉛である」と主張するみまき温泉診療所の倉澤隆平氏。 

 

皮膚の形成や創傷治癒に亜鉛が密接に関与

亜鉛がなぜ褥瘡治癒のキーファクターなのか。

 

褥瘡の発生・治癒には蛋白質、アミノ酸、ミネラルなど多種の栄養素が関与している。中でも、亜鉛は多数の蛋白質の構造・機能維持や酵素の活性・調整因子として機能している。

 

近年、鈴鹿医療科学大学薬学部の西田圭吾氏や徳島文理大学薬学部教授の深田俊幸氏のマウスや培養細胞の研究により、亜鉛トランスポーターが皮膚での炎症性サイトカインの制御や、皮膚の上皮性組織の形成に必須であることが明らかになっている。

(PNAS 2017;114:12243-8.)

 

2016年に日本臨床栄養学会が発表した「亜鉛欠乏症の診療指針」においても、「亜鉛はDNAおよびRNAポリメラーゼ、転写因子やリボソームなどの機能に不可欠であり、核酸や蛋白合成に必須であり、さらに抗酸化作用を有することから、創傷治癒において、亜鉛欠乏状態では炎症の遷延化や線維芽細胞の機能低下により創傷治癒の遅延が見られる」と記載されている。

 

亜鉛投与による褥瘡改善効果は、海外で行われたランダム化比較試験(RCT)で認められている。

 

褥瘡患者16人を対象に、通常食に亜鉛・アルギニン・ビタミンCの栄養補助食品を加えた群と、通常食に高蛋白質・高熱量の栄養補助食品を加えた群、通常食のみの群に分け、3週間経過を観察した。

 

その結果、通常食に亜鉛・アルギニン・ビタミンCの栄養補助食品を加えた群では、他の2群に比べて褥瘡の状態が有意に改善した。

(Clin Nutr. 2005;24:979-97.)

 

亜鉛は食品を加工する過程で失われやすく、インスタント食品や加工食品に偏った食事で不足しがちになる。亜鉛とキレ―トを形成する薬剤や亜鉛の吸収障害、排泄促進作用のある薬剤の服用も亜鉛欠乏の原因になる。

 

寝たきり高齢者は栄養の偏りや服用中の薬剤により亜鉛欠乏症を来し、褥瘡を起こしやすいと考えられるわけだ。

 

低栄養は高リスクファクター

さらに、在宅療養中の患者を対象とした調査で、亜鉛をはじめとするミネラルや三大栄養素の不足などの「低栄養」が、褥瘡の発生に深く関わっていることを日本褥瘡学会が報告している。

 

この調査では、207施設の訪問介護ステーションを対象とし、褥瘡群(290名)と非褥瘡群(対照群、456名)に分け、褥瘡群は褥瘡発生前に、非褥瘡群は最近1カ月に、褥瘡のリスク因子の有無を調査。

 

「低栄養」「ベッド上不動」「過度な湿潤」「過度な骨突出」「浮腫」「イス上不動」「関節拘縮」といった様々なリスク因子を比較したところ、「低栄養」が最も強く褥瘡の発生に関わっていたことが判明した。

(Clin Nutr. 2010;29:47-53.)

 

「もともとは局所療法で褥瘡を治療してきたが、治らないので栄養療法に目を付けた」。

こう話すのは在宅医療に長年取り組み、褥瘡の治療法について講演することも多いという高岡駅南クリニック(富山県高岡市)院長の塚田邦夫氏。

 

「局所療法で褥瘡を治癒してきたが、治らないので栄養療法に目を付けた」と話す高岡駅南クリニックの塚田邦夫氏。

ただし、「体圧分散や局所療法は医師がやろうと思えばできるが、栄養は患者の自主的取り組みが必要なためそう簡単にはいかないのが課題だ」と話す。

 

通常の食事による栄養摂取が難しい高齢者では、栄養補助食品や経腸栄養剤を積極的に用いるという。

 

線維芽細胞を刺激するコラーゲンペプチド

近年、栄養摂取が困難な高齢者向けの様々な栄養素を含有した栄養補助食品が数多く販売されている。中でも最近注目されているのがコラーゲンペプチド含有栄養補助食品だ。

 

コラーゲンペプチドはコラーゲン成分としてだけでなく、創傷部位における線維芽細胞を直接刺激し、増殖を促進することが分かってきた(図2)

 

【図2】褥瘡治癒とコラーゲンペプチド

 

コラーゲンはアミノ酸またはペプチド態として消化吸収される。

 

アミノ酸は新たなコラーゲン合成の原料となりうるが、ヒドロキシプロリン(Hyp)が直接原料として利用されることはない。Pro-HypやHyp-Glyなどのペプチド態は、皮膚、骨、軟骨などの線維芽細胞を刺激して機能を活性化/抑制したり増殖を促進したりする。

 

その結果、コラーゲン合成や生体の様々な反応を引き起こす。

 

(出典:小山洋一:皮革科学 2010;59:71-9.)

 

中でもコラーゲンペプチド10g配合の「CP10」という商品名のコラーゲンペプチド含有飲料は、最近国内で行われた多施設RCTで褥瘡治癒への臨床効果が認められた。

 

このRCTでは、22施設において「CP10投与群」「アルギニン飲料投与群」「非投与群」に無作為に割り付け、それぞれの飲料を1日1本、4週間摂取させた。CP10投与群では非投与群と比較して、DESIGN-R(褥瘡創面評価指標)の点数が有意に改善しており、血清Alb値を見るとあまり変化していなかった。

(Journal of Nutrition&Intermediary Metabolism 2017;8:51-9.)

 

コラーゲンペプチド含有飲料「CP10」の摂取により、どのようなメカニズムで創傷治癒が早まったのか。その詳細は明らかではないが、CP10にはコラーゲンペプチドのほか、亜鉛などのミネラルやビタミン類も含有しているため、これらの栄養素も奏功したのではないか、と考えられている。

 

RCTにより有意差を認めた栄養補助食品は珍しい。

 

RCTを行った若草第一病院(大阪府東大阪市)院長の山中英治氏は「コラーゲンペプチドを、亜鉛などとともに摂取させることで上乗せ効果が得られる可能性がある。まずは三大栄養素、特に蛋白質やミネラルを中心とした、必要十分な栄養素を摂取させ、コラーゲンペプチドを追加投与することで創傷治癒効果を高めることができるのではないか」と話している。

 

「コラーゲンペプチドの摂取で上乗せ効果が得られる可能性がある」と若草第一病院の山中英治氏は語る。

 

 

<掲載元>

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