ベッドサイドでの申し送りの方法―ある総合病院での事例【動画付き】

アメリカでは近年、医療事故軽減のための取り組みとして、申し送りをベッドサイドで行う病院が増えています。

 

アナランデル医療センター(メリーランド州アナポリス)は380床の総合病院

2011年に米医療研究品質局(AHRA)のベッドサイドでの申し送りパイロットプロジェクトに参加しました。

2012年からベッドサイドでの申し送りを全病棟で行う取り組みを始めています。

 

アナランデル医療センター内科・外科病棟での申し送りの実際を見てみましょう。

 

日勤ナースから夜勤ナースへの申し送り(7:00~7:30pm)

 

ステップ1

日勤ナースがワークステーション(電子カルテ)を押し、申し送りシートを持った夜勤ナースと一緒に訪室。

 

ステップ2

患者とにこやかにあいさつ。

日勤ナースが患者に夜勤ナースを紹介。

患者・家族に申し送りへの参加を勧める。

 

日勤ナース「これから申し送りをして、あなたのカルテの内容や検査結果やケアプランを話してもよいですか?」

患者「いいですよ」

日勤ナース「お見舞いの方には廊下に出てもらいますか?」

患者「この人は私の妻のケイティです。私のことを心配して病状を知りたがっていますから、ここにいてほしいです」

日勤ナース「わかりました。お二人とも、申し送り中にご質問があればいつでも聞いてください」

 

ステップ3:SBAR(エスバー)形式の申し送り

S:Situation(名前・年齢、診断名、主訴)

「チューターさんは84歳、男性、フルコード(すべての延命処置を希望)。

カクテス先生の患者さんです。

薬のアレルギーなし。

昨日、筋力低下、倦怠感、めまいのため救急外来を受診し入院となりました。

入院後、UTI(尿路感染症)と失神の検査をしています」

患者の妻がUTIと失神は何なのか質問

→日勤ナースが説明。

 

B:Background(病歴)

関節炎と高脂血症の既往あり、手術歴として、ヘルニア修復術、左関節置換術、股関節置換術があります。

チューターさん、電子カルテに手術の日付が記録されてないのですが、いつ手術したか覚えていらっしゃいますか?」

患者「ヘルニアの手術は1987年にしたと思います。股関節の手術は2003年3月にして、その年の10月に背骨の手術、2009年にひざの手術をしました」

日勤ナース「ありがとうございます。カルテに記録させて頂きました」

 

A:Assessment(アセスメント)

意識清明、時間見当識あり

難聴のため補聴器使用

 

痛み:

「日勤で左足に間欠的痛みを訴え、ペインスケールは5/10でした。チューターさんの希望でタイレノール650mgを18:00に投与し、現在ペインスケールは2に下がっています」。

 

バイタルサイン・看護診断・検査結果:

心電図は正常で洞調律、肺音は全肺野で清、腸音正常、最終排便は昨日ありました。そうでしたね、チューターさん」

患者「その通りです」

「泌尿器では、24時間尿量の減少、排尿時の軽い灼熱感があります。最終8時間の尿量は200ccでしたので、ドクター報告の予定です。バイタルサインは正常、WBC14000、BUN40、Cr1.9。尿検査では血尿あり、尿培養は結果待ちです」

患者の妻が血尿について質問

→日勤ナースが説明。

 

輸液ライン:

「左前腕に静脈ライン、22ゲージ、生食ロックです。ほかにドレーンやラインはありません」

 

投薬内容:

シプロ

500mg

iv

24時間毎

最終投与

10:00 a.m.

リピトール

40mg/日

po

最終投与

10:00 a.m.

アスピリン

81mg/日

po

最終投与

10:00 a.m.

夜勤ナースが抗生物質について質問

→日勤ナース「Dr報告時に確認しておきます」。

 

実施した検査、実施予定の検査:

「本日、腎尿管膀胱撮影(KUB)をしましたが、まだ結果待ちです。明日、泌尿器科医がチューターさんに結果を説明する予定です。下肢深部静脈血栓症(DVT)を除外診断するため、今夜、左下肢の超音波検査をします」

 

患者が「超音波検査は準備が必要なのか、時間はどれくらいかかるか、妻が付き添ってもよいか」を質問

日勤ナースが説明。

 

「今夜検査して結果はいつわかるの?」

夜勤ナース「結果がコンピュータに表示され次第、Drからお二人に説明してもらいます」

 

R:Recommendation(ケアプラン・コンサルテーション)

ケアプラン by 日勤ナース

1. 泌尿器科医によるKUB結果の判定

2. 低脂肪食を始めるため栄養士にコンサルト

 

ステップ4:フォーカス・アセスメント by 夜勤ナース

患者の左前腕の点滴刺入部のチェック、左下肢のチェック(発赤、腫脹、冷感、脈拍、痛み)を行う。

こわばり以外は異常のないことを確認。

 

ステップ5:患者の目標の設定

日勤ナース「チューターさん。今夜の目標は何ですか?」

患者「廊下まで歩いてみたいですね」

夜勤ナースがホワイトボードの患者の目標を「離床」に書き換える。

 

夜勤でのケアプラン by 夜勤ナース

1.超音波検査を受ける

2.超音波検査の結果から、どの程度運動が可能か判定

 

日勤ナース「チューターさん、ほかにご質問はありませんか?」

患者、妻ともに「いや、全部お聞きしました」

夜勤ナース「ほかの患者さんの申し送りを済ませてから、検温に伺います。何かあれば、コールしてください」と言って、ナースコールを患者が使用できることを確認して退室。

 

日勤ナースと夜勤ナースが一緒に患者の経過を追い、アセスメントしてケアプランを立てるという流れになっています。

7分強かかっていますが、患者、妻ともに、納得して安心した表情が印象的でした。

 

(参照元)

How Patient and Family Engagement Benefits Your Hospital(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality)

Nurse Bedside Shift Report Implementation Handbook(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality

Nurse Bedside Shift Report Training(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality

Bedside Shift Report (YouTube)AAMCNews
 


【筆者】中岡ひさ子

看護師。徳島大学卒業後、13年間看護師として勤務。その後海外論文の翻訳に携わり、医学・看護論文の翻訳者、ライターとして活動中。

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