ベッドサイドでの申し送りで看護・医療の質が上がる?

ウォールストリートジャーナル紙によると、アメリカでは近年、ベッドサイドでの申し送りを取り入れる病院が増えています。

エモリーヘルスケア、ワシントン大学医療センター、バーモント大学医療センターなどの大病院をはじめとして、多くの病院でベッドサイドでの申し送りが行われるようになっているのです。

 

その背景には、

・医療事故の7割以上は、医療者間および医療者と患者間で情報の伝達が正確に行われていないことが原因である

・患者を医療に参加させることが医療事故の減少と医療の質の向上につながる

―などのエビデンスが認知されてきたことがあります。

 

 

これらのエビデンスをふまえ、米国保健福祉省の下部機関である医療研究品質局(AHRQ)は、医療の安全と質の向上のために患者・家族を医療に参加させることを提唱しています。

 

そして2013年、「医療の安全と質の向上に向けた患者・家族の医療への参加の手引き」を発表しました。

 

この手引きは、エビデンスに基づく4つの戦略から構成され、各病院が患者・家族とパートナーを組み、医療の安全と質の向上に取り組めるようにすることを目的としています。

 

4つの戦略のうち第3の戦略「ベッドサイドでの申し送り実施ハンドブック」では、標準化されたベッドサイドでの申し送りを詳細に説明しています。

 

伝達方法を標準化することで情報伝達ミスのリスクを減らそうとする申し送りの概要を以下に紹介しましょう。

 

ベッドサイドでの申し送りとは

(※参照元はこちら)

 

目的

・患者と家族を医療チームに参加させる。

・看護師と患者・家族間で正確な情報を共有する。

 

ベッドサイドでの申し送りのエビデンス

【1】医療の質と安全の向上

・申し送り時間帯の患者の転倒・転落の減少

動脈ラインのエア混入・輸血ミスなどの医療事故、カテーテル関連尿路感染症などのnever event(決して起こってはならないこと)を未然に発見しやすい

 

【2】患者満足度の向上

・看護師・患者関係が良好になり、患者満足度がup

・ナースコールの頻度が減少

 

【3】超過勤務の減少

患者1人あたりの申し送り時間は3~7分で、申し送り時間は従来の申し送りと余り変わりません。

しかしベッドサイドでの申し送りによって、ケアの優先順位をつけやすくなるため、全体の勤務時間が減少し、超過勤務の減少につながると指摘されています。

 

メリット

【1】患者にとってのメリット

・自分は単にベッドに寝ている病人ではなく、医療者のパートナーであると思える

・自分の病状や治療について看護師の誰もがよく知っていることがわかる→信頼して治療を受けることができる

・分からないことを看護師にすぐに聞ける→自分の病気や治療についてより理解できる→退院への移行がスムーズに

 

【2】看護師にとってのメリット

・患者の状態のより正確な把握

アカウンタビリティーの向上

・時間管理の向上

・患者安全の向上

 

デメリット

・大部屋では個人情報を他の患者に聞かれることへの懸念がある

 

では、実際の申し送りの流れを見てみましょう。

 

ベッドサイドでの申し送りの実際

ステップ1:ワークステーション(電子カルテ)または紙の申し送りシートをベッドサイドに持ち込む

・申し送りの前に、ベッドサイドで申し送りをしてもよいか、家族や見舞客が在室していてもよいか、患者に聞いておく

 

ステップ2:紹介

・シフトを終える看護師がシフトを始める看護師を患者・家族に紹介

・患者に名前と生年月日を言ってもらいながらリストバンドを確認

 

ステップ3:SBAR(エスバー)形式の申し送り

・S(Situation:状態)

患者の名前・年齢、診断名、主訴、症状

・B(Background:背景・経過)

病歴、手術歴、併存症、投薬内容

・A(Assessment:評価・現状の判断)

現在の問題点、痛み・バイタルサイン・呼吸音・腸音、看護診断

・R(Recommendation:提案・要請)

ケアプラン、コンサルテーション、他科への紹介

 

ステップ4:フォーカス・アセスメント

・創部、輸液刺入部、輸液ライン、ドレーン、カテーテル、輸液ポンプや人工呼吸器の設定などのチェック

・転倒リスクのチェック、ナースコールは手の届く範囲にあるかチェック

 

ステップ5:まだ実施していない検査、医師の指示、結果待ちの検査などの確認

 

ステップ6:患者の目標設定

・これからのシフトで達成したい目標を患者に設定してもらう

・分からないことや心配なことはないか、付け加えたいことはないか患者と家族に聞く

・申し送りのたびにホワイトボードの看護師の名前と患者の目標を書き換える

 

■センシティブな情報はどうするか?

・医師からまだ説明を受けていないがん検査の結果

・HIVや肝炎ウイルスの検査結果

・患者が触れてほしくない病歴や家庭の事情など

―は、病室の外で看護師だけで申し送る

 

■大部屋でのプライバシーの問題はどうするか?

・前もって、ベッドサイドで申し送りをしてもよいか患者の意向を聞き、患者が拒否した場合は、ベッドサイド以外で申し送る

・患者にあらかじめ、病室のドアに「申し送りに参加しません」の札を掛けてもらうこともある

 

日本では、ベッドサイドでの申し送りはウォーキングカンファレンスやベッドサイドミーティングと呼ばれ一部の病院で行われていますが、アメリカのように医療の安全と質の向上をめざし国が主導しているわけではありません。

 

個人情報やセンシティブな情報の取り扱い、日本人の気質と合うかなど、実施に向けては検討・克服すべき課題は多くあります。

とはいえ、患者も含めたチームで治療をすすめるためのヒントとしても注目すべき取り組みではないでしょうか。

 

ベッドサイドでの申し送りの方法―ある総合病院での事例【動画付き】

 

(参照元)

How Patient and Family Engagement Benefits Your Hospital(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality)

Nurse Bedside Shift Report Implementation Handbook(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality

Nurse Bedside Shift Report Training(PDF)(Agency for Healthcare Research and Quality

 

(参考)

The Most Crucial Half-Hour at a Hospital:The Shift Change(The Wall Street Journal)

02. Talk with the patient, not about the patient.(University of Utah Health Care)

 


【筆者】中岡ひさ子

看護師。徳島大学卒業後、13年間看護師として勤務。その後海外論文の翻訳に携わり、医学・看護論文の翻訳者、ライターとして活動中。

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