アニオン・ギャップ(Anion Gap;AG)|知っておきたい臨床で使う指標[19]

臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。

 

根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長

 

アニオン・
ギャップ(Anion Gap;AG)

 

アニオン・ギャップ(Anion Gap;AG)とは、主に代謝性アシドーシスの原因を鑑別するために用いられている指標です。

 

〈目次〉

 


 

アニオン・ギャップ
(Anion Gap;AG)

 

アニオン・ギャップ_Anion Gap_AG_代謝性アシドーシス

 

 

 

アニオン・ギャップを主に使う場所と使用する診療科

AGは、血液ガス分析(PaO2PaCO2、HCO3、pH、BEおよび電解質〈Na、Cl、K〉、血糖値など)の測定が必要となるため、血液ガス分析検査を行う手術室、救急科(初療室など)や麻酔科、集中治療科などによって用いられています。血液ガス分析では、pHだけではアシドーシスかアルカローシスかの判断に苦慮することもあるため、必ずAGを計算しています。

 

アニオン・ギャップで何がわかる?

上でも述べたように、AGは主に代謝性アシドーシスの原因を鑑別するために用いられる指標です。

 

ヒトの血漿には電解質である陽イオン(cation)と陰イオン(anion)がほぼ等量で存在し、バランスを取っています。血漿中に含まれる陽イオンと陰イオンは、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、重炭酸(HCO3)、リン酸(H3PO4)、硫酸(H2SO4)、有機酸などがあります。

 

陽イオンと陰イオンは電気的に等量ではありませんが、血清は電気的に中性であることから、測定可能な陽イオン(measured cations;MC)・陰イオン(measured anion;MA)と測定されない陽イオン(unmeasured cation;UC)・陰イオン(unmeasured anion;UA)の間には、
MC+UC=MA+UA(上図・式1
という関係が成立します。この式から、
MC-MA=UA-UC(上図・式2
が導かれます。これをAGといいます

 

つまり、AGとは、測定可能な陽イオンから測定可能な陰イオンを引いたものということになります。
日常診療では主に陽イオンとしてナトリウムイオン(Na+)、陰イオンとして塩素イオン(Cl)と重炭酸イオン(HCO3)が測定されますので、
AG=ナトリウムイオン-(重炭酸イオン+塩素イオン)
となります。これにより、
[Na]-{[HCO3]+[Cl]}
でAGを概算することができます。

 

健康な人でも体内には測定できない陰イオンが陽イオンよりも多く存在しているため、AGの基準値は12±2 mEq/Lとされています。

 

アニオン・ギャップをどう使う?

臨床ではAG値が高くなる(陽イオンが多く存在する)のか、逆に低くなる(陰イオンが多く存在する)のかを知ることで、主に代謝性アシドーシスの原因を鑑別するための指標として用いられています(表1)。また、化学物質によってもAGは変化することから、中毒の原因物質を知る際にも用いられています。

 

 

表1アニオン・ギャップによって考えられるアシドーシスの種類

アニオン・ギャップ_AG_アシドーシス

 

 

 

さらにプラスα補正HCO3

補正HCO3とは、測定値から概算したAGから12を引き、その数値を測定されたHCO3に足します。これが、28以上なら代謝性アルカローシスの合併、24以下なら、代謝性アシドーシスの合併と考えます。

 

例えば、AGが28で、HCO3が19 mEq/Lであった場合、28(AG)-12=16となります。この16を、測定したHCO3である19に足すと、19+16=35となるため、代謝性アルカローシスを合併していることになります。

 

 

アニオン・ギャップを実際に使ってみよう

症例1

 

18歳の男性。自宅自室で倒れているのを母親に発見され救急搬送された。 意識レベルはJCS:200、血圧:100/86mmHg、脈拍:126回/分・整、呼吸数:36回/分、体温:37.5℃。
大学受験前の健康診断で糖尿病の疑いがあると言われたが、受験勉強で忙しいため詳しい検査は受けていない。2、3日前から喉の渇きを訴えており、清涼飲料水をよく飲んでいたらしい。
血液ガス所見
pH:7.18、PaO2:112 mmHg、PaCO2:11.2 mmHg(room air)、BE:-21.8 mmoL/L Na:117 mEq/L、Cl:78 mEq/L、HCO3:5.2 mEq/L、血糖値:1,211mg/dL
この患者さんに考えられる病態は?

 

答え:糖尿病性ケトアシドーシス

pHは7.18と著明なアシドーシスで、PaCO2が11.2 mmHgと低下していることから、呼吸による代償が働いていると考えられる。

 

AGは117-(78+5.2)で33.8 と上昇している。補正HCO3を計算(AG-12)すると、33.8-12=21.8となり、測定されたHCO3である5.2に足すと27になる。<24のため、代謝性アシドーシスの合併と考えられる。

 

さらに、若年者で糖尿病の疑いがあり、実際に測定した血糖値も1,211mg/dLと高値であることから、糖尿病性ケトアシドーシスが強く疑われる。

 

→アニオン・ギャップの計算式を確認

 

症例2

 

48歳の女性。頻回の嘔吐を主訴に救急外来を受診した。
受診時にも嘔吐を繰り返しており、身体所見として顔面および両下腿にむくみが見られた。
血液ガス所見
pH:7.40、PaO2:100 mmHg、PaCO2:41 mmHg(room air)
Na:145 mEq/L、Cl:100 mEq/L、HCO3:25 mEq/L
この患者さんに考えられる病態は?

 

答え:腎不全疑い

血液ガス分析でpHは7.40と正常であるため、一見すると問題なさそうである。しかし、AGを概算すると、145-(25+100)で20 mEq/Lと基準値(12±2 mEq/L)を大きく上回っている。さらに、補正HCO3-を計算(AG-12)すると、20-12=8となり、測定されたHCO3-である25に8を足すと33となることから、もともと正常であったが、何らかの原因でAGが上昇するアシドーシスが生じ、嘔吐によって代謝性アルカローシスを合併した結果、pHは正常であることが考えられる。

 

この時点で病歴は不明だが、顔面や両下腿にむくみがあることを考えると、腎不全も考慮しなければならない。

 

→アニオン・ギャップの計算式を確認

 

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