Artzの基準|知っておきたい臨床で使う指標[18]
臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。
根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長
Artzの基準
熱傷は重症度により治療が異なります。台所で熱湯がかかっったことによる1%程度のⅡ度熱傷であれば、診療所で対応は可能ですが、火災によって40%のⅢ度熱傷を負った場合は、全身管理および外科的治療が必要となるので、集中治療室がある医等機関でないと対応できません。Artzの基準(1)は、熱傷の重症度によって治療が異なってくることから、治療を行う医療機関を決める際に役立つ基準です。
〈目次〉
Artzの基準
Artzの基準を主に使う場所と使用する診療科
Artzの基準は、対応すべき医療機関を選定する目的で作成されたものですから、救命救急センターや熱傷センターのような三次救急医療機関はもちろん、初期(一次)救急医療機関・二次救急医療機関や救急隊でも使用しています。
Artzの基準で何がわかる?
上の表に示した判断基準以外でも、年齢(5歳以下、60歳以上)、意識障害や神経学的異常の存在、既存症を有する(主として呼吸器・循環器疾患、肝機能障害、腎機能障害)、抗血栓凝固療法を受けているなどの患者は、重症と判断したほうがよいでしょう。
Artzの基準により、熱傷の重症度だけでなく、どのような治療が必要かも判断できます。広範囲熱傷では、全身管理や外科的治療が必要ですし、顔面や手指の熱傷では整容や機能障害が問題となります。また、気道熱傷は気管挿管下に人工呼吸管理が必要ですし、会陰部の熱傷では、尿や便の排泄により創部の感染が生じるため、時には人工肛門を造設することもあります。電撃傷や雷撃傷では、皮膚の損傷が軽くても、筋肉や臓器の損傷により急性腎不全や凝固異常を引き起こす可能性があります。このようにArtzの基準は、熱傷面積や熱傷部位、合併損傷など比較的判断しやすい項目から重症度を判断し、きちんと対応できる医療機関を選定するのに役立ちます。
Artzの基準をどう使う?
Artzの基準では、熱傷を重症、中等症、軽症の3つに分け、重症は総合病院で、中等症は一般病院で、軽症は外来で治療が可能な診療所などで診察・治療を行うとしていますが、日本では重症は救命救急センターや熱傷センターを有する三次救急医療機関、中等症は入院治療可能な二次救急医療機関、軽症は初期(一次)救急医療機関(休日・夜間診療所を含む)に置き換えることができるでしょう。
現在では、Artzの基準以外にMoylanの基準(2)や村松の基準(3)を参考にして熱傷の重症度判定基準が作成されていますが、基本となっているのはArtzの基準です。
Artzの基準を実際に使ってみよう
症例1
54歳の男性。工場で作業中にボイラーが爆発して受傷し、救命救急センターに搬送された。
意識は清明。9の法則を用いて熱傷面積を算出したところ、右上肢から前胸部に及ぶⅡ度熱傷15%、Ⅲ度熱傷5%があった。既往歴はなく、現在治療を受けていることもない。右上腕部の疼痛を訴えていたため、X線検査を実施したところ、右上腕骨骨折が判明した。この患者のArtzの基準による重症度は?
答え:重症熱傷
熱傷面積はⅡ度15%、Ⅲ度5%なので中等症と判断できるが、右上腕骨骨折を合併しているのでArtzの基準では重症熱傷と判断できる。熱傷部位に骨折があると、熱傷治療と骨折治療を行う必要があり、骨折の整復固定に難渋することもしばしばである。
症例2
48歳の女性。自宅台所で揚げ物を調理していたところ、油に引火して出火した。すぐに消化器を用いて消火したため、幸いにも大事には至らなかったが、顔面がヒリヒリするため独歩で救急外来を受診した。
顔面は全体に紅潮しているが水疱はない。鼻孔にすすが付着していたため、口腔内を確認したところ、口腔内にもすすが見られ、喀痰にもすすが混在している。この患者のArtzの基準による重症度は?
答え:重症熱傷
顔面は全体に紅潮している程度で水疱形成もないことからⅠ度熱傷と判断できるが、口腔内にすすがあり、喀痰にもすすが混在していることから、気道熱傷が疑われる。気道熱傷は吸入障害(inhalation injury)とも呼ばれ、熱だけでなく、すすや有毒ガスなどの化学物質でも生じるため、十分な観察と必要に応じて予防的早期気管挿管が必要となる。
症例3
22歳の男性。バーベキューをしていた時に炭火が着衣に引火し、救急車で搬送された。
9の法則を用いて熱傷面積を算出したところ、右前腕にⅡ度4%、右肘関節内側から上腕にⅢ度1%の熱傷があった。この患者のArtzの基準による重症度は?
答え:重症熱傷
Ⅱ度4%、Ⅲ度1%であるので熱傷面積だけからは軽症と判断できるが、Ⅲ度熱傷は肘関節の内側から上腕にかけて存在しているため、瘢痕形成により肘関節の可動域制限が出現してくることが予測される。Artzの基準では手や足の熱傷を重症としているが、この理由は瘢痕形成により機能障害が合併するためである。従って、瘢痕形成による機能障害を回避する意味でも形成外科医による適切な治療が必要となるため、この症例は重症と判断し、適切な対応が求められる。
[文 献]