熱傷指数と熱傷予後指数|知っておきたい臨床で使う指標[17]
臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。
根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長
熱傷指数と
熱傷予後指数(BI/PBI)
熱傷治療に必要な指標として、熱傷面積と熱傷深度についてはすでに紹介しました。今回は、それらと死亡率とを相関する指数として考案された熱傷指数(burn index:BI)と、臨床上の予後を反映する指数として考案された熱傷予後指数(prognostic burn index:PBI)について説明します。
〈目次〉
熱傷指数
熱傷予後指数
熱傷指数と熱傷予後指数を主に使う場所と使用する診療科
熱傷指数と熱傷予後指数は、救命救急センターや熱傷センターはもちろん、二次救急医療機関でも熱傷の重症度判定に使用されており、主に救急医や外科系医師、トリアージナースが使用しています。また、搬送先医療機関を決定したり、災害現場で治療の優先順位を決めたりする目的で救急隊員が使用することもあります。
熱傷指数と熱傷予後指数で何がわかる?
熱傷の死亡にはさまざまな要因が絡んできますが、熱傷深度と熱傷面積は最も重要な要因とされています。Ⅰ度熱傷だけの広範囲熱傷、例えば、全身が真っ赤になって火照ってしまうような日焼けで死亡してしまうことはまずありませんが、Ⅱ度ないしⅢ度熱傷で、熱傷の面積が広ければ広いほど予後は不良になり、死亡率も高くなります。
その理由は、深在性Ⅱ度あるいはⅢ度熱傷では、皮膚の再生に時間がかかったり、皮膚が壊死したりすることで熱傷部位のすべてに感染が生じ、それが敗血症の原因になってしまうからです。
熱傷指数や熱傷予後指数は、先に熱傷深度と熱傷面積を出し、それを元に算出します。熱傷指数や熱傷予後指数を算出することで、熱傷患者の死亡率を知ることができます。図1は熱傷指数と熱傷予後指数、死亡率を表したグラフです。
図1熱傷指数、熱傷予後指数の死亡率
熱傷指数が30未満であれば死亡率はおよそ40%以下ですが、熱傷指数が40を超えてくると死亡率が62.2%となり、70以上では死亡率が95~97%となります。つまり、熱傷指数が大きければ大きいほど、救命が困難であることが分かります。
また、熱傷予後指数が80未満であれば、死亡率はおよそ20%以下ですが、80を超えると急速に死亡率が増加し、100を超えると死亡率が60%以上になり、120を超えると救命はほぼ絶望的であることが分かります。
熱傷指数と熱傷予後指数をどう使う?
熱傷指数、熱傷予後指数は共に、熱傷深度と熱傷面積を出した上で算出しなければなりません。
熱傷指数の算出法
熱傷指数は、「Ⅱ度熱傷面積×1/2+Ⅲ度熱傷面積」で算出し、10~15以上を重症として扱います。熱傷指数が40を超えると、死亡率も60%を超え、70以上では救命は非常に困難となります。
熱傷予後指数の算出法
熱傷予後指数は、「熱傷指数(Ⅱ度熱傷面積×1/2+Ⅲ度熱傷面積)+患者年齢」で算出します。
熱傷指数と熱傷予後指数を実際に使ってみよう
ヒント9の法則
身体の区画をすべて9の倍数で評価する方法です(陰部除く)。主として成人の熱傷面積を評価するときに使用されます。
首から顔、頭を9%(顔面だけ、もしくは頭部だけの場合は4.5%)、上肢を9%、下肢を18%(片足9%×2、もしくは前面9%・後面9%、下腿で9%・大腿で9%)、体幹を18%(前面9%・後面9%、もしくは前胸部9%・腹部9%、胸背部9%・腰背部殿部9%)とし、陰部を1%と定義しています。
症例1
48歳の男性。工場で作業中にボイラーが爆発して受傷し、救急搬送された。顔面および両上肢前面にⅢ度熱傷があり、前胸部にⅡ度熱傷がある。この患者の熱傷面積と熱傷指数および熱傷予後指数は?
答え:熱傷面積 22.5(%)、熱傷指数 18、熱傷予後指数 66
顔面および両上肢の前面にⅢ度熱傷があることから、9の法則を用いると、Ⅲ度熱傷面積は、顔面(4.5)、両上肢前面(4.5×2=9)、Ⅱ度熱傷面積は前胸部(9)となり、総熱傷面積は、4.5+9+9=22.5(%)。熱傷指数は、Ⅱ度熱傷面積9×1/2+Ⅲ度熱傷面積13.5なので、18となる。熱傷予後指数は、熱傷指数(18)+年齢(48)なので、66となる。
症例2
82歳の女性。自宅が火災に遭って受傷し、救急搬送された。両下肢にⅢ度熱傷がある。 この患者の熱傷面積と熱傷指数および熱傷予後指数は?
答え:熱傷面積 36(%)、熱傷指数 36、熱傷予後指数 118
両下肢にⅢ度熱傷があることから、9の法則を用いると、Ⅲ度熱傷面積は、下肢(9+9)×2で36(%)、熱傷指数はⅢ度熱傷面積が36%なので36となる。熱傷予後指数は、熱傷指数(36)+年齢(82)なので、118となり、非常に救命が困難な重症熱傷と判断できる。
症例3
救急司令室から熱傷患者2名の受入要請が救命救急センターに入った。1名は21歳の男性で、およその熱傷面積はⅡ度40%、Ⅲ度20%。もう1名は86歳の男性で、およその熱傷面積はⅡ度60%、Ⅲ度10%らしい。ほかにも数名の熱傷患者がいるという。熱傷治療に必要なベッドは1床しか空きがないため、1名しか受け入れることはできない。生命予後からどちらの患者を受け入れる?
答え:21歳の男性を受け入れる
21歳の男性は、Ⅱ度熱傷面積40%、Ⅲ度熱傷面積20%なので、熱傷指数は40。86歳の男性は、Ⅱ度熱傷面積60%、Ⅲ度熱傷面積10%なので、熱傷指数は21歳の男性同様40となる。一方、熱傷予後指数は、21歳の男性で61、86歳の男性では126となるため、21歳の男性では死亡率が8~10%程度であるのに対して、86歳の男性では98%程度と推測できる。
熱傷予後指数が120を超えている症例は致命的な熱傷であるため、救命救急センターでさえ救命は困難である。一方、熱傷予後指数が60であっても、死亡率は7~8%程度あるため、熱傷に不慣れな医療機関に搬送されると合併症から死亡させてしまう可能性がある。救命救急センターの使命は、救うことができる命を確実に救うことであるため、このような場合はまず、21歳の男性患者を受け入れるべきである。
[文 献]
- (1)島崎栄二ほか.熱傷の統計.救急医学.31,2007,744-7.