骨格筋の構造と機能|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、骨格筋について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
骨格筋の構造
Summary
- 骨格筋はよく発達した横紋をもち、随意運動に関与する。
- 骨格筋は運動神経支配を受けている。
- 骨格筋の筋原線維は、横行小管(T管)と筋小胞体からなる筋小管系で覆われている。
- T管には、両側から筋小胞体の終末槽が接し、三連構造をつくっている。膜表面の活動電位はT管を通って筋小胞体に伝わる。するとCa2+が放出される。
骨格筋はよく発達した横紋筋をもち、随意運動に関与する。
図1筋肉の微細構造
(A)筋肉 1個の筋肉には多数の筋線維を結合組織で包む群があり、全体は筋膜で包まれる。
(B)筋線維群 血管で栄養を受け、細胞外基質で包まれる。細胞外基質の下には衛星細胞がある。
(C)筋線維 筋原線維を筋鞘で包む。筋鞘は興奮性がある。筋原線維の周囲には筋小胞体が発達し、ミトコンドリアもある。
(D)筋原線維 A 帯、I 帯、H 帯、Z 帯などが観察される。
1個の筋肉(図1A)には多数の筋線維を結合組織で包む群(図1B)が多数あり、筋線維は多数の筋原線維(図1C)からなる。筋原線維(図1D)には規則正しい縞模様(横紋)があり、A帯、I帯、H帯、Z帯等が観察される。筋線維の部位により屈折率が異なるために、横紋が見られる。
筋節(Z帯とZ帯の間)を電子顕微鏡で見ると、図2に見られるように太いフィラメントと細いフィラメントが見られ、太いフィラメントをミオシン(myosin)、細いフィラメントをアクチン(actin)という。
筋原線維には暗いA帯と明るいI帯が繰り返しみられ、それらが横紋(縞)となっている。
(A)筋節(Z 帯とZ 帯の間) 細いフィラメントは Z 帯に付着しており、A 帯には太いフィラ メントがあり、I 帯には細いフィラメントだ けがある。A 帯は中央部の明るい部分をH帯といい、細いフィラメントがない部分である。H 帯の両側にあるA帯の暗い部分は、細いフィラメントと太いフィラメントが重複している。
(B)太いフィラメント ミオシンが重合して6方向へ側枝を出している。
(C)細いフィラメント アクチン、トロポニン、トロポミオシンからなる。
細いフィラメントにはアクチンの他にトロポミオシンやトロポニンがある。筋原線維には暗いA帯と明るいI帯が繰り返し見られ、それらが横紋(縞)となっている。
A帯には太いフィラメントがあり、I帯には細いフィラメントだけがあり、細いフィラメントはZ帯に付着している。A帯は中央部の明るい部分をH帯といい、ここは細いフィラメントがない部分である。H帯の両側にあるA帯の暗い部分は、細いフィラメントと太いフィラメントが重複している。そのために暗く見えるのである。
筋原線維は網状の膜で覆われている(図3)。
この網状の膜を筋小管系とよび、横行小管(transverse tubules)(T管ともよばれる)と筋小胞体(sarcoplasmic reticulum:SR)からなる。筋小胞体は(「骨格筋収縮のメカニズム(1)」図1参照)、図4に示すように袋状でその両端を終末槽(ふくらんだ部分)とよび、Ca2+が貯蔵されている。
T管は、筋鞘(筋線維鞘 sarcolemma)の細胞膜へ陥入しており、細胞膜と同様にNa+電流による活動電位を発生する。T管は、表面の興奮を筋小胞体まで伝える経路である。筋線維内でT管には両側から筋小胞体の終末槽が接し、三連構造(triad)をつくっている。
T管と終末槽の間には、足状構造(「骨格筋収縮のメカニズム(1)」フット構造、図1C参照)が多数見られる。T管の活動電位による脱分極は三連構造の筋小胞体の終末槽にCa2+を放出させる信号を伝える。この信号は三連構造にあるフット構造を介して筋小胞体に興奮を伝え、Ca2+を放出させる(「骨格筋収縮のメカニズム(1)」参照)。
骨格筋の機能
Summary
- 骨格筋(一般に筋肉とよんでいる)は両端にある腱を介して骨に結合している。
- 運動の指令は、中枢から出され、その指令はすばやい電気現象として中枢神経上を伝わり、運動神経線維を通って骨格筋上のニコチン受容体に伝えられ骨格筋は収縮する。
- 骨格筋の重要な役割は、①運動、②姿勢を保つ、③関節を安定させること、④熱を産生することにある。
筋肉には骨格筋(skeletal muscle)、心筋(cardiac muscle)、平滑筋(smooth muscle)があるが、一般に筋肉というと骨格筋を指す。骨格筋は主に骨格に分布するので、骨格筋とよばれる。両端にある腱を介して骨に結合し、この筋肉が収縮したり弛緩したりすることによって姿勢を保ったり、運動することができる。
骨格筋は運動、姿勢の維持の他にも関節の安定化、熱の発生に重要な役割を果たしている。骨格筋は、随意性の神経(運動神経)支配を受けており、中枢からの指令により運動神経線維を通って骨格筋上のニコチン受容体(NM受容体)に伝えられ、骨格筋は収縮する(図5)。
心筋や平滑筋と異なり、骨格筋は正常では神経の刺激がなければ収縮しない。運動神経の細胞体は脊髄にあり、その軸索は前根を出て骨格筋に達している。
運動神経終末部(軸索末端部)は枝分かれして多数の筋線維を支配している。1本の運動神経を刺激するとそれによって支配されている筋線維群は同時に収縮する。1本の運動神経とそれによって支配されている筋線維群をまとめて運動単位(motor unit)または神経筋単位(neuromusular unit)とよんでいる。
1本の運動神経とそれによって支配されている筋線維数の比(支配比)は1対数個から数千個とさまざまである。支配比が小さいほど収縮する筋線維の数は少ないので、得られる収縮力は小さいが、巧妙な運動を行うことができる。
一方、1本の運動神経が支配する筋線維の数が多いほど(支配比が大)一度に大きな収縮力が得られるが、細かな動きを要する運動には適さない。骨格筋の収縮のメカニズムについては、「骨格筋収縮のメカニズム(1)、(2)」で述べた。全身には400種類あまりの骨格筋があり、体重の40~50%を占める。
筋線維の約70%は水と約20%のタンパク質から構成されている。このタンパク質の約70%は収縮・弛緩にかかわるタンパク質で、その内訳はミオシンが約50%でアクチンが約20%である。
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重症筋無力症
重症筋無力症は、運動神経筋接合部における興奮伝達が遮断されることにより、骨格筋の筋力低下と異常な易疲労性を特徴とする神経筋疾患である。症状としては、眼瞼下垂、眼球運動の障害などの眼症状が高頻度でみられ、また顔面筋、喉頭筋症状、四肢の筋力低下、呼吸麻痺をきたすこともある。
神経筋接合部のアセチルコリンの受容体(NM受容体)に対する自己免疫疾患と考えられている。その結果、アセチルコリンによる骨格筋収縮が障害される疾患である。治療にはコリンエステラーゼ阻害薬のネオスチグミンが用いられる。
経筋接合部の薬理
d-ツボクラリン(クラーレ):南米原住民が矢毒として狩りに用いた植物性アルカロイドで、骨格筋終板にあるニコチン受容体(NM受容体)においてアセチルコリンと競合的に拮抗し、神経伝達を遮断して骨格筋を弛緩させる。そのため筋弛緩薬として用いられるが、過剰投与によって手指や眼筋の麻痺、さらには四肢、頚部、呼吸筋の麻痺という重症筋無力症と似た症状を呈する。
ボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン):ボツリヌス菌が産生する毒素で、神経終末からのアセチルコリン遊離を非可逆的に阻害する。その結果、骨格筋が弛緩する。嫌気性食中毒の原因毒素である(滅菌の不完全な缶詰などで増殖)。近年、眼瞼攣縮の治療や顔のシワ伸ばしなどの美容処置にも利用されている。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版