筋収縮の型|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、筋収縮の型について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 1つの活動電位によって生ずる収縮を単収縮という。筋収縮の基本型は単収縮である。
- 2. 骨格筋では、単収縮が加重し融合すると収縮力の大きな強縮となる。
- 3. 刺激による1つの単収縮が終らないうちに次の刺激が加わると収縮の加重がみられる。
- 4. 筋の両端を固定して筋肉を刺激すると、筋は短縮せず張力だけを発生する。このような収縮の型を等尺性収縮という。
- 5. 筋の上端のみを固定し、下端には荷重が一定のおもりをつけ、筋を刺激すると筋はおもりを持ち上げる。この場合の収縮の型を等張性収縮という。
〈目次〉
筋収縮の基本の型
単収縮(攣縮) 〔 twitch 〕
1 回の刺激で筋を興奮させると短時間の収縮を起こし、引き続いて筋は弛緩する。これを単収縮または攣縮(れんしゅく)という(図1a)。単収縮は収縮の基本で体内では普通はみられず、腱反射のときにみられるにすぎない。心筋の収縮は、単収縮である。
図1収縮の基本型
(a)単収縮
1回の刺激で筋を興奮させると筋は収縮し、そして弛緩する。
(b)収縮の加重
1つの単収縮が終らないうちに次の刺激を加えると収縮の加重がみられる。個々の単収縮の効果が重なるために収縮力は増す。
(c)不完全強縮
(b)より刺激がさらに速く加わると収縮はさらに加重されるが、刺激の間に弛緩がみられる場合を不完全強縮という。
(d)完全強縮
(c)より刺激がさらに速く加わると収縮はさらに加重され、刺激の間に弛緩がみられなくなる場合を完全強縮という。
強縮〔 tetanus 〕
刺激による1つの単収縮が終わらないうちに次の刺激が加わると収縮の加重がみられる(図1b)。収縮が加重されると単収縮のときより強くなる。このように反復刺激による持続的な収縮を強縮という。
刺激の間に弛緩がみられるときを不完全強縮(図1c)、弛緩が全くない場合を完全強縮(図1d)という。
体内で普通起こっている収縮は強縮である。ただし、強縮が長く続くと収縮力が次第に減少してくる。これを筋の疲労という。
筋肉がどれほど強く収縮するかは、刺激される細胞の数による。少数の細胞が刺激されただけでは筋収縮は弱い。すべての運動単位が動員され、すべての筋細胞が刺激されたとき筋収縮は最強となる。
このよい例が俗にいう “火事場の馬鹿力” である。これは火事で気が動転して大脳の脱抑制によって筋力発生の抑制がとれたためと考えられ、全運動単位が動員されたのだろう。
拘縮〔 contracture 〕
激しい運動をした後、筋肉はしばらくかたく収縮したままの状態が続くことがある。
このような収縮を拘縮という。強縮は収縮の加重によるものであるが、拘縮は強縮と異なり、筋小胞体内への Ca2+の能動輸送が抑制されるために筋は弛緩しなくなり、持続的な収縮をする。しかし、時間が経つと次第にもとの状態に戻りうる。
硬直〔 rigor 〕
筋線維からATPとクレアチンリン酸が完全になくなると筋線維は収縮したままの硬直状態になる。死後にこの状態が起こる場合、死後硬直(rigor mortis)という。48時間ほど経過するとタンパク質の変性や腐敗により、筋は再びやわらかくなってくる。これを解硬という。
死後硬直が起こるのはATPが合成されなくなると、ミオシン頭部がアクチンに結合したままとなり、骨格筋が収縮したままの状態になるからである。
等尺性収縮〔 isometric contraction 〕と等張性収縮〔 isotonic contraction 〕
筋は興奮すると収縮して筋肉全体は短くなるが(筋の短縮)、筋の両端を固定した上で筋を刺激すると、短縮せず張力だけを発生する。両端を固定しているので筋の長さは一定であるため、この収縮の型を等尺性収縮(図2A)という。姿勢を保つ運動は等尺性収縮の例である。
一方、筋の上端のみを固定し下端には荷重が一定のおもりをつけ、筋を刺激すると筋はおもりを持ち上げる。この場合の収縮の型を等張性収縮(図2B)という。歩行運動、膝を曲げる、腕をまわすなどは等張性収縮の例である。
図2等尺性収縮(A)と等張性収縮(B)
(A)等尺性収縮
筋の両端を固定し筋を刺激すると、短縮せず張力だけを発生する。
(B)等張性収縮
筋の上端のみを固定し、下端におもりをつけ、筋を刺激すると、筋はおもりを持ち上げる。
NursingEye
臨床では、関節を他動的に動かしにくくなった状態を拘縮(関節拘縮)と呼ぶ。寝たきりなどで関節を動かさない状態が長期間続くと、関節が硬くなり関節可動域が制限されるようになる。関節拘縮が起こると本人の日常生活動作に制限が出るだけでなく、介護者や医療者の負担も大きくなる。
例えば、更衣などの日常生活の介助や、血圧計のマンシェットを上腕に巻くことにも支障が出たりする。寝たきりの高齢者では、骨粗鬆症の合併が多いため、拘縮している関節に過剰な力をかけて無理に伸ばすと骨折の原因となりうる。関節拘縮をおこさないよう、定期的な関節可動域訓練が大切である。
※編集部注※
当記事は、2016年4月11日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
⇒〔ワンポイント生理学一覧〕を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版