骨格筋のエネルギー代謝|骨格筋の機能

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

筋収縮の型|骨格筋の機能

 

今回は、骨格筋のエネルギー代謝について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師

 

Summary

  • 1. 骨格筋は収縮するにも弛緩するにも大きなエネルギーを消費する。必要なエネルギー源はATPによって供給される。
  • 2. ATPの不足は筋疲労の原因となる。
  • 3. 生体はエネルギー源として ATP の消費と同時に絶えず補充を行っている。
  • 4. 必要なATPは、主にクレアチンリン酸、グリコーゲン分解および有酸素系により補充される。

 

〈目次〉

 

骨格筋収縮のエネルギー源

エネルギーの消費

骨格筋が収縮する際は大きなエネルギーを消費する。このエネルギーはATPによって供給される。

 

収縮する際には、ミオシン頭部に含まれるATP分解酵素(ATPase)がATPをADP(アデノシン二リン酸)に分解する。このときに放出されるエネルギーがアクチンとミオシンの滑走を起こし、筋は収縮する。

 

また収縮に使われた Ca2+は濃度勾配に逆らって筋小胞体に取り込まれ(能動輸送)、筋は弛緩する。このとき(筋小胞体への Ca2+の能動輸送)にもエネルギーを必要とする。

 

エネルギーの補充

ATPが消費されるだけではエネルギーは枯渇してしまう。生体はエネルギー源としてのATPの消費と同時に絶えず補充を行っている。

 

主なエネルギー補充系には、速やかに利用できるエネルギー貯蔵所であるホスホクレアチン(クレアチンリン酸)系、グリコーゲン分解によるエネルギーの補充(解糖系)、有酸素系による補充がある(図1)。

 

図1筋収縮の主要なエネルギーの補充系

筋収縮の主要なエネルギーの補充系

骨格筋が収縮・弛緩する際は大きなエネルギーを消費する。このエネルギーはATPによって供給される。
①ホスホクレアチン、②グリコーゲン分解によるエネルギーの補充系(解糖系)、③有酸素系。

 

ホスホクレアチン系は、ミオシン頭部にあるクレアチンホスホキナーゼという酵素によって、クレアチンリン酸がクレアチンとリン酸に分解されると多くのエネルギーが放出される。このエネルギーによってリン酸とADPからATPが合成される。しかし、この系で産生されるエネルギーは多くはないので、100m競争やジャンプ、重量挙げ等の瞬発力を要するような短時間に最大の力を発揮する運動の際に利用される。

 

また、筋肉中のグリコーゲンが分解して乳酸になるときに出るエネルギーによって、クレアチンとリン酸からクレアチンリン酸が合成される。ここでできた乳酸は、肝臓酸素の存在下にグリコーゲンに合成される。

 

グルコース、脂肪酸、アミノ酸等が酸素と結合して大量のATPを産生する有酸素系による補充がある。

 

骨格筋による熱産生

恒温動物では、体内での熱産生と体外への熱の放散がうまく調節され、平衡が保たれている。この熱産生に重要な役割を担っているのが骨格筋で、骨格筋が組織中で最も多くの熱を産生する。筋収縮時に発生するエネルギーのうち、約25%が収縮・弛緩に使われ、残りが熱となり体温の保持に利用されている。

 

運動すると身体が火照る経験をもっているだろう。これは運動により熱産生が高まるためである。また、寒いときに手をこすったり、ふるえたりするのは、摩擦や筋肉を動かすことで熱産生を高めようとする身体の防御機構の1つである。

 

筋肉の疲労

筋を激しく動かすと筋は疲労する。筋が疲労し始めると、収縮力は弱まり、ついには反応しなくなる。

 

通常、筋肉が動かなくなるほどの疲労はめったに起こらない。なぜなら、ヒトは極度の疲労を起こす前に運動を減らすか、休息するからである。

 

しかし、マラソン選手ではこのような真の疲労を起こし、動けなくなることがある。なお、運動(筋収縮)により骨格筋で消費される酸素は増大し、安静時の少なくとも70倍の3,400mL/分まで増加する。運動への適応として、持久性トレーニングを行っているアスリートでは筋組織の単位面積あたりの毛細血管数が一般人よりも40%ほど多いことが電子顕微鏡で確認されている。

 

疲労の原因

筋肉の疲労にはエネルギー源の減少、代謝産物(乳酸、クレアチン、ケトン体など)の蓄積とそれによるpHの低下、その他いろいろな原因が考えられている。

 

筋肉の収縮には酸素が必要である。適度な運動の場合には、循環血液量の増加や呼吸数の増加によって必要な酸素は供給される(運動により交感神経の活動が高まり、心筋収縮力増強、心拍数増加、その結果、循環血液量が増加し、必要な血液を供給する)。

 

しかし、激しい運動を続けると筋肉への酸素供給は追いつかなくなり、ピルビン酸(pyrubic acid CH3(CO)COOH)がアセチルCoAに酸化されず、乳酸(lactic acid CH3CH(OH)COOH)に還元される(図2)。乳酸は炭素原子3個の分子でグルコースの半分のエネルギーを持っている。乳酸は筋疲労の直接的原因物質ではなく、エネルギー源のひとつである。

 

図2筋肉の疲労

筋肉の疲労

筋収縮に必要なエネルギーはATPが分解するときに得られる。ATPの産生は、細胞内で行われる酸素を用いない(嫌気的)過程とミトコンドリアで行われる酸素を用いる(好気的)過程(TCA回路)がある。

 

酸素の供給が追いつかなくなるとピルビン酸から乳酸ができる。またTCA回路の反応をスムーズに進めるためにはビタミンB1(VB1)が必要である。ビタミンB1が不足するとTCA回路がスムーズに回らなくなり、乳酸が蓄積することになる。

 

(堺章:新訂目でみるからだのメカニズム.p.128、医学書院、2000より改変)

 

疲労の回復

筋肉中に蓄積された乳酸は、血液によって肝臓に運ばれる。休息などによって酸素が補給されると乳酸の大部分はグリコーゲンに再合成される(図2)。

 

骨格筋内のグリコーゲンの消費が疲労の原因のひとつと考えられており、グリコーゲンの補充が疲労の回復につながる。乳酸の一部は分解酸化されて、二酸化炭素と水になる。

 

放射性同位元素を用いた研究により、速筋線維で産生された乳酸は、遅筋線維や他の速筋線維に循環してピルビン酸に変換されることが明らかにされた。

 

ピルビン酸は、アセチルCoAに変換され、TCA回路で有酸素性エネルギー代謝に利用される。この現象は細胞間の乳酸シャトルとして知られ、骨格筋は乳酸の主な産生部位であるだけでなく、血中から乳酸を除去する主な部位でもある。

 

肝臓も骨格筋の収縮で産生された乳酸を血中から取り込み、コリ回路(Cori cycle)を介した糖新生反応によってグルコースを合成している。

 

疲労回復には休息とともに糖分、ビタミンB1、血液循環を促すマッサージ、入浴などが有効である。

 

筋電図

筋電図は、骨格筋の収縮に伴う電気的活動(電位変化)を記録したものであり、皮膚に貼り付けた電極(表面筋電図:不随意運動の鑑別に用いる)または直接筋肉細胞に刺した針電極(針筋電図:運動単位の機能評価に用いる。運動単位とは、1つの脊髄前角細胞とそれに支配される筋線維の集合のことである)により記録することができる。

 

安静時の筋電図所見として、健常者では安静時には筋電位が発生せず筋電図は平坦な波形を示すが、神経筋疾患では特徴的な自発放電がみられ、診断の参考となる。


心臓の電気的活動を記録したものを心電図のそれを脳電図(脳波)という。

 

※編集部注※

当記事は、2016年4月13日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

神経のしくみと働き|神経系の機能

 

⇒〔ワンポイント生理学一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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