サイクリックAMPによる心筋と平滑筋収縮機能調節の相違|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、サイクリックAMPによる心筋と平滑筋収縮機能調節の相違について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- cAMPは、タンパクリン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(PKA)を活性化する。
- 心筋において、PKAはL型Ca2+チャネル、筋小胞体ホスホランバン、筋小胞体Ca2+遊離チャネルをリン酸化する。その結果、細胞内Ca2+濃度が上昇し、心筋収縮力は増大する。
- 平滑筋において、PKAはミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)をリン酸化することによってMLCKを不活性化する。その結果、アクチンとミオシンの滑走が起こらず、平滑筋は弛緩する。
〈目次〉
心筋と血管平滑筋の違い
心筋と血管平滑筋はともに心臓血管調節にかかわっているので両筋の主な違いを述べる。
心臓の収縮弛緩は規則正しく交互に繰り返されるが、平滑筋の収縮はしばしば持続的で、心筋のように規則正しく収縮弛緩を繰り返さない。さらに細胞内にサイクリックAMP*(cyclicAMP:cAMP)が増加すると心筋の収縮力は高まるが、血管平滑筋では弛緩する。cAMPが増加すると血管平滑筋が弛緩するのはなぜだろうか。
*AMP:5'アデニル酸(アデノシン5'-リン酸)。cAMP:サイクリック(環状)アデノシン3',5'-リン酸。
cAMPによる心筋収縮力増大と平滑筋弛緩作用のメカニズム
これは心筋と平滑筋の収縮弛緩の細胞内機序が異なるためである。
アデニル酸シクラーゼ活性化やホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)(cAMP分解酵素)活性抑制は、細胞内cAMP濃度を上昇させる。cAMPはプロテインキナーゼA(Aキナーゼ:PKA)を活性化する。活性化されたAキナーゼは、電位依存性Ca2+チャネル(voltage dependent Ca2+ channel)(L型Ca2+チャネル)や酵素などを含むさまざまなタンパク質をリン酸化して、その生理機能を発揮する。
心筋では、細胞内cAMP濃度が上昇すると、Aキナーゼが活性化される。タンパクリン酸化酵素であるAキナーゼは、L型Ca2+チャネル、筋小胞体ホスホランバン、筋小胞体Ca2+遊離チャネルなどの機能調節タンパクをリン酸化する。L型Ca2+チャネルや筋小胞体Ca2+遊離チャネルのリン酸化は、細胞内Ca2+濃度の上昇をもたらす。その結果、心筋収縮力は増大する(図1A)。
図1サイクリックAMPによる心筋収縮力増大作用と平滑筋弛緩作用機序
平滑筋では、心筋と同様に細胞内cAMP濃度が上昇すると、Aキナーゼ活性化を介してL型Ca2+チャネルをリン酸化するが、またAキナーゼは、ミオシン軽鎖キナーゼ(myosin light chain kinase:MLCK)をリン酸化することにより、ミオシン軽鎖キナーゼを不活性化してしまう。その結果、細胞内Ca2+濃度が高くても平滑筋(血管、気管支、腸管など)は弛緩する(図1B)。
カテコールアミンはβ受容体を刺激してcAMPの合成を促進する(「受容体、細胞内情報伝達系と応答」参照)。一方、キサンチン誘導体(ティオフィリンなど)は、ホスホジエステラーゼを抑制することにより、cAMP分解を抑制し、細胞内cAMPの蓄積をもたらす。cAMPは心筋収縮力のみならず心拍数を増加させる。
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β2作用薬やホスホジエステラーゼ阻害薬は、気管支喘息の治療に使われるが、気管支平滑筋細胞内cAMP濃度を増加させると同時に心筋細胞内cAMP濃度を増加させることがあるので、動悸や不整脈を誘発することがある。ノルアドレナリンは、強心薬としても使用されるが、同時に血圧上昇を伴う。
これらの例のように、薬を使用する場合は、主作用だけでなく、それ以外の作用(副作用)発現に常に目を光らせていなければならない。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版