平滑筋の興奮収縮連関|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、平滑筋の興奮収縮連関について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 興奮から平滑筋の収縮、弛緩までの過程は、
神経興奮、伸張、ホルモンあるいは電気刺激を受けると→L型Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン受容体)を介してCa2+流入→Ca2+がカルモデュリンに結合→Ca2+-カルモデュリン複合体がミオシン軽鎖キナーゼを活性化→ミオシンをリン酸化→ミオシンATPaseの活性化→アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの相互作用が起こり、平滑筋が収縮する。 - Ca2+-カルモデュリン複合体の解離や細胞内Ca2+濃度の低下が起こると、平滑筋は弛緩する。
〈目次〉
平滑筋の特徴
平滑筋は胃腸、膀胱、子宮などの内臓や血管の運動にたずさわっている。骨格筋とは異なり、平滑筋の収縮は不随意性である。平滑筋の収縮は疲労せずに行われ、わずかなエネルギーしか消費しないので、長時間持続する収縮に適している。
平滑筋細胞は小さく(長さ約50~400μm、厚さ約2~10μm)、筋小胞体の発達は悪い。平滑筋は横紋を示さない。これは、骨格筋や心筋のように平滑筋もアクチンとミオシンをもっているが、これらのフィラメントは規則正しく配列されていないからである。また平滑筋にはZ帯がない。
平滑筋の型
身体には多くの型の平滑筋があるが、一般的には平滑筋の型は内蔵平滑筋(単一ユニット平滑筋または単一単位筋)と多ユニット平滑筋(多元平滑筋または複合単位筋)の2種類に分類される。
内蔵平滑筋は中空臓器(腸管、気管、子宮、卵管、尿管など)の壁にみられる。これらの臓器の平滑筋細胞はギャップ結合によって相互に結合しているので、機能的には合胞体で、自発性に活動電位を発生し(ペースメーカ細胞をもっている)、収縮する。
この点、心筋と似ているが、心筋のように刺激伝導系をもたないので、平滑筋の活動電位の発生や収縮は不規則である。平滑筋も自律神経により二重支配を受けているが、平滑筋の活動は神経支配によって開始されるのではなく、平滑筋の活動が増強されたり抑制されるにすぎない。
多ユニット平滑筋は、大動脈のような大血管、肺の太い気道、輸精管、虹彩およびある種の括約筋にみられる。多ユニット平滑筋は、内蔵平滑筋と違い、骨格筋によく似ており、自発性活動電位を発生することはなく、神経支配に依存して活動している。しかし骨格筋と異なり、神経支配はより広範囲に広がっている。
平滑筋の収縮と弛緩
平滑筋の収縮は、自発性活動電位(多ユニット平滑筋ではみられない)、神経興奮、伸張(平滑筋が引き伸ばされるなど)、ホルモンあるいは電気刺激などによって引き起こされる。
いずれの場合も、平滑筋収縮にはCa2+が関係している。しかし内蔵平滑筋は一般に筋小胞体の発達が悪いので、収縮を起こす細胞内Ca2+濃度の増加は、主としてL型Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン;DHP受容体、電位依存性Ca2+チャネル)を介する細胞外からのCa2+流入による。
平滑筋が上記のような刺激を受けるとCa2+は細胞外から細胞膜のCa2+チャネルを通って細胞内に入ってくる(図1)。
神経興奮、伸張、ホルモンあるいは電気刺激等を受けると、L型Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン受容体)を介してCa2+が細胞内へ流入する。流入したCa2+はカルモデュリンに結合し、Ca2+-カルモデュリン複合体となる。この複合体が不活性状態にあるミオシン軽鎖キナーゼを活性化する。活性化されたミオシン軽鎖キナーゼは、ミオシン軽鎖をリン酸化する。するとミオシンATPaseは活性化され、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの相互作用が起こり、平滑筋が収縮する。Ca2+-カルモデュリン複合体の解離や細胞内Ca2+濃度の低下が起こると、平滑筋は弛緩する。
平滑筋細胞内のサイクリックAMP(cAMP)が増加すると、プロテインキナーゼAが活性化される。プロテインキナーゼAは、不活性化状態にあるミオシン軽鎖キナーゼをリン酸化してしまう。そのため、ミオシン軽鎖キナーゼは活性化されず、ミオシン軽鎖のリン酸化が起こらない。したがってアクチンとミオシンの滑走が起こらず平滑筋は弛緩する。
また筋小胞体からもCa2+遊離が起こる(内蔵平滑筋はこの発達が悪い)。このようにして細胞内で増加したCa2+は、平滑筋の場合、細胞内Ca2+結合タンパク質であるカルモデュリンと反応してCa2+-カルモデュリン複合体をつくる。このCa2+-カルモデュリン複合体は、不活性状態の酵素ミオシン軽鎖キナーゼを活性化する。
活性化されたミオシン軽鎖キナーゼは、リン酸基をミオシン頭部に含まれる部分(ミオシン軽鎖)に移す。このミオシン軽鎖のリン酸化によってミオシンATPaseが活性化され、アクチンがミオシンの上を滑走して収縮を起こす。この過程は、細胞内Ca2+がトロポニンCと結合することが収縮の引き金となる骨格筋や心筋とは異なる(「筋の収縮のメカニズム」 表1 参照)。
Ca2+-カルモデュリン複合体の解離や細胞内Ca2+濃度が低下すると、ミオシン軽鎖キナーゼは不活性化されて、ミオシンは脱リン酸化されて、平滑筋は弛緩する。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版