心筋の興奮収縮連関|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、心筋の興奮収縮連関について解説します。
片野由美
山形大学名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 興奮から心筋の収縮、弛緩までの過程は、
活動電位発生→横行小管の脱分極→L型Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン受容体)を介してCa2+流入→Ca2+がリアノジン受容体に結合→筋小胞体からのCa2+放出→Ca2+濃度増大→トロポニンCへのCa2+結合→アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの相互作用が起こり、心筋が収縮する。 - 続いてCa2+の筋小胞体内への取り込み→Ca2+濃度の低下が起こり、心筋は弛緩する。
〈目次〉
心筋の特徴
骨格筋と同じく心筋にも横紋がある。しかし、心筋の筋線維は枝分かれして絡み合っている。各筋線維は細胞膜で包まれた1個の細胞である。1本の筋線維の一端が他の筋線維の一端と接するところでは、境界板 intercalated disk によって強く結合されている(図1)。
心筋や平滑筋では隣接する筋線維の細胞膜は多くの部分で細隙結合(ギャップ結合 gap junction)している。すなわち、両細胞膜が非常に近接し(約3nm)、みかけ上密着した構造をとっている。
このギャップ結合部位には両細胞膜を貫通するコネクソンチャネルがあり、イオン以外にも分子量約1000までの物質を通過させるので、この結合は活動電位の伝播に重要な役割を担っている。
このギャップ結合によって心筋線維は互いに原形質のつながりがないにもかかわらず、あたかもシンシチウム(合胞体)のように働くことができる。
心筋の活動電位は部位により異なるが、骨格筋に比べ活動電位の持続時間が長く、したがって不応期が長いので、骨格筋でみられるような強縮は正常な心筋ではみられない。これは円滑なポンプ作用を保つために重要である。
心筋の収縮と弛緩
心筋の場合も骨格筋と同様、細胞内Ca2+濃度が上昇するとこれがトロポニンCと結合し、アクチンとミオシンの滑走が起こり収縮する。しかし、心筋では骨格筋と異なり、ジヒドロピリジン受容体は筋小胞体(SR)のリアノジン受容体と直接接触していない(図2-B)。
では、心筋の場合、収縮に使われるCa2+源はどこからどのように供給されるのであろうか。心筋の場合も骨格筋と同様に、リアノジン受容体から放出されたCa2+が収縮を惹起する。しかし、心筋のジヒドロピリジン受容体はSRのリアノジン受容体と直接接触していない(図2-B)。
図2骨格筋(A)および心筋(B)における筋小胞体からのCa2+放出模式図
骨格筋(A):骨格筋にはRYR1 が多い。RYR1 の一部はDHPRと直接連関している。T 管が脱分極すると DHPR が変形してRYR1 に接触し、RYR1 を開孔させる。すると筋小胞体内からCa2+が放出され、この Ca2+が拡散してDHPR と連関していないRYR1 に結合し、さらにCa2+の放出を促進する(これを CICR;Ca2+-induced Ca2+ release という)。
心筋(B):心筋にはRYR2 が多い。DHPR はRYR2 と連関していない。脱分極によりDHPR を介して流入す るCa2+が拡散してRYR2 に結合する。するとCICR によってRYR2 からCa2+を放出させる。
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.51、文光堂、2003より改変)
心筋の場合、刺激を受けると活動電位が発生し、T管系にあるL型Ca2+チャネル(ジヒドロピリジン;DHP受容体、電位依存性Ca2+チャネル)を介してCa2+が流入する。
するとCa2+が筋小胞体(SR)のCa2+放出チャネル(これはリアノジンでも開孔する性質があるためリアノジン受容体とよばれる)に結合し、これを開孔させる。このようにCa2+によりCa2+の放出が起こる(Ca2+誘発性Ca2+放出,Ca2+-induced Ca2+-release:CICR)。
するとSRに貯蔵されているCa2+が放出され、放出されたCa2+は隣接するリアノジン受容体に結合して次々とCICRを起こし、放出されたCa2+はトロポニンCに結合し、アクチンとミオシンの滑走を引き起こし、心筋は収縮する。
流入したCa2+やSRから放出されたCa2+は、SR膜にあるCa2+ポンプによって能動的にSRに取り込まれる。また一部は細胞膜にあるNa+-Ca2+交換系によって細胞外に排出され、筋は弛緩する。
[次回]
⇒この〔連載記事一覧〕を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版