骨格筋収縮のメカニズム(2)|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、骨格筋収縮のメカニズムについての解説の2回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 興奮から骨格筋の収縮、弛緩までの過程は、「活動電位発生→横行小管の脱分極→筋小胞体からのCa2+放出→Ca2+濃度増大→トロポニンCへのCa2+結合→アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの相互作用による骨格筋の収縮→Ca2+の筋小胞体内への取り込み→Ca2+濃度の低下→骨格筋の弛緩」である。
〈目次〉
Ca2+による筋収縮の開始(筋の収縮)
筋小胞体から放出されたCa2+は、トロポニン C に結合することによって収縮を引き起こす。図1に示すように、トロポニンはトロポニン C、Ⅰ、T からなる(MEMO1)。
筋弛緩時(図1)には、トロポニンⅠがしっかりとアクチンに結合し、トロポミオシンはミオシンの頭部がアクチンに結合する部位を覆っている。
図1Ca2+による骨格筋収縮の開始
弛緩時(A):トロポニンⅠがアクチンと結合し、トロポミオシンはミオシンの頭部がアクチンに結合する部位を覆っている。このためアクチンとミオシンの相互作用ができない状態にある。
収縮時(B):Ca2+がトロポニンCに結合すると、トロポニンの構造が変化してトロポミオシンが側方に移動し、アクチンの頭部が露出する。そこでアクチンとミオシンの相互作用(滑走)が生じ、収縮する。
(星猛ほか共訳:医科生理学展望.丸善、1998より改変)
このようにトロポニンとトロポミオシン複合体は、アクチンとミオシンの相互作用を抑制しているため、筋は弛緩状態にある。
ところが Ca2+がトロポニンCに結合すると、トロポニンの構造が変化してトロポニンIとアクチンの結合が弱まる。するとアクチンの頭に覆い被さっていたトロポミオシンが側方にずれ、アクチンとミオシンの滑走が生じ、収縮が起こる。
MEMO1トロポニン
トロポニンC、I、Tはそれぞれの機能に由来する。トロポニンCはカルシウム(Ca2+)と結合。トロポニンIはアクチンとミオシンの相互作用を抑制(inhibition)。トロポニンTはトロポミオシン(tropomyosin)と結合。
筋の弛緩
細胞質内に放出された Ca2+は、速やかに筋小胞体内に取り込まれ回収されるか、あるいは細胞外へ汲み出される。細胞質内の Ca2+濃度が10-7M 程度に低下すると筋は弛緩する。
すなわちトロポニンCから Ca2+が離れてトロポミオシンがもとの位置に戻り、アクチンとミオシンの相互作用が止まり、筋節(Z帯とZ帯の間)はもとの位置に戻る。細胞質に比べ、Ca2+濃度の高い筋小胞体内へ Ca2+を取り込むためには、筋小胞体膜にあるCa2+ポンプ(Ca2+-ATPase)を使う。
骨格筋の興奮収縮連関のまとめ
興奮から筋の収縮、弛緩までの過程は、「活動電位発生→横行小管の脱分極→筋小胞体からのCa2+放出→ Ca2+濃度増大→トロポニン C への Ca2+結合→アクチンフィラメントとミオシンフィラメントの相互作用による骨格筋の収縮→ Ca2+の筋小胞体内への取り込み→ Ca2+濃度の低下→骨格筋の弛緩」である。
Nursing Eye
心筋を養う冠動脈の閉塞や狭窄により、その灌流部位の心筋が壊死に陥った状態を心筋梗塞という。心筋梗塞は突然の前胸部痛で発症し、激しい疼痛が20分以上持続する。狭心症ではニトログリセリンが奏功するが、心筋梗塞の胸痛に対してニトログリセリンは無効である(モルヒネで軽減できる)。
診断には自覚症状、心電図変化、心筋マーカーの上昇、心エコーなどの所見が参考にされる。心筋マーカーでは、心筋梗塞により心筋組織が障害を受けたときに血中に放出される心筋特異的トロポニン I、及びトロポニンTが、心筋梗塞を診断するためのバイオマーカーとして推奨されている(他の心筋マーカーと比べ、感度と特異度が高いため)。
トロポニンTは、心筋と骨格筋でアミノ酸配列が異なり、心筋特異的トロポニンTとトロポニンIは、骨格筋には発現していない。そのため、筋特異的トロポニン T を測定することで診断に利用できる。その他の心筋マーカーとしては、CK-MB、H-FABP(heart-type fatty acid-binding protein)等がある。
※編集部注※
当記事は、2016年3月23日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版