骨格筋収縮のメカニズム(1)|骨格筋の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、骨格筋収縮のメカニズムについての解説の1回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 骨格筋は運動神経支配を受けている。
- 中枢からの骨格筋収縮の指令は、運動神経線維を通って電気化学的に骨格筋へ伝えられる。
- 指令情報が運動神経終末までくると、終末から神経伝達物質アセチルコリンが放出される。
- 放出されたアセチルコリンは骨格筋上にあるニコチン受容体(NM受容体)に結合する。するとイオンチャネルが開き、Na+が流入し、筋細胞は脱分極する。その結果、骨格筋は収縮する。
〈目次〉
骨格筋収縮の指令の伝達-中枢から運動神経終末、骨格筋膜への伝達-
中枢からの骨格筋収縮の指令は、運動神経線維を通って電気化学的に骨格筋へ伝えられる。すなわち、中枢からの情報(刺激)は活動電位により電気信号として迅速に伝えられ、その情報が神経終末までやってくる。
シナプス伝達で述べたように、指令が神経終末までやってくると、シナプス小胞に蓄えられている運動神経伝達物質であるアセチルコリン(Ach)が放出される。
放出されたAchはシナプス間隙を拡散して移動し、骨格筋上にあるAchの受容体(ニコチン受容体;NM受容体)に結合する。ニコチン受容体はイオンチャネル内蔵型であり、そこにAchが結合するとイオンチャネルが開き、Na+が筋細胞内へ流入し、脱分極が生ずる。
その結果、活動電位が発生し筋全体に興奮が伝えられる。
筋小胞体からのカルシウム放出
骨格筋膜のNM受容体にAchが結合することによって誘発された脱分極は、T管を伝導して三連構造(図1-C)に達する。T管は興奮を筋小胞体に伝える経路である。
T管膜では細胞膜(形質膜)と同様、Na+電流による活動電位を発生するが、L型Ca2+電流も流れる。筋の収縮のメカニズムで述べたように、骨格筋の活動電位持続時間は心筋のそれに比べて非常に短い。
そのため、骨格筋のL型Ca2+チャネルを介して流入するCa2+量は非常に少なく、ここで流入するCa2+量自体は骨格筋では興奮収縮連関に直接関係しない。
収縮時(A):横行小管が脱分極すると、DHP受容体のCa2+チャネルの電位センサーがこれを受容し、DHP受容体のⅡとⅢの間の細胞内ループが足状構造に接触する。足状構造は筋小胞体膜にあるリアノジン受容体の一部である。
この接触によってリアノジン受容体は開孔し、筋小胞体に蓄積されているCa2+が放出される。このCa2+がトロポニンCに結合するとアクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間を滑走して張力が発生する。
このとき、Z膜間の長さは短縮する。一方、A帯の長さは変わらない。
弛緩時(B):横行小管は再分極する。Ca2+は筋小胞体内へ能動的に取り込まれ、Ca2+濃度は低下する。するとアクチンフィラメントはもとに戻り、筋は弛緩する。
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.50、文光堂、2003より改変)
では、骨格筋の収縮に必要なCa2+はどこから供給されるのであろうか。
三連構造T管膜には、ジヒドロピリジン受容体(DHP受容体;L型Ca2+チャネルタンパク質、電位依存性Ca2+チャネル)があり、DHP受容体のリピートⅡとⅢの間(図1-C)には細胞内ループがある。
T管が脱分極すると、DHP受容体のチャネルの電位センサーがこれを受容し、変形して細胞内ループが足状構造に接触する。足状構造は筋小胞体膜にあるリアノジン受容体(筋小胞体の膜上にあるカルシウムイオン放出チャネル)の一部であるので、この接触によってリアノジン受容体が開孔する。
すると筋小胞体に蓄積されているCa2+が放出され、このCa2+が拡散によって周囲のリアノジン受容体に達し、リアノジン受容体に結合する。Ca2+を結合するとリアノジン受容体は開孔し、さらにCa2+放出が促進される。
これをCa2+誘発性Ca2+遊離 Ca2+-induced Ca2+-release:CICR という。このようにして収縮に必要なCa2+は供給される。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版