ヴァージニア・ヘンダーソンの看護理論:ニード論
『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)より転載。
今回はヴァージニア・ヘンダーソンの看護理論である「ニード論」について解説します。
豊嶋三枝子
大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科 特任教授
- ヘンダーソンの看護理論は、理論というよりも定義に主眼を置いたものである。
- 看護独自の機能を初めて定義づけたことは画期的であり、従来の医学モデルではなく看護モデルでの問題解決的アプローチを使って看護実践に応用した。
- 理論の中心は、人間のもつニードに焦点をあてている。彼女は、マズローの影響を受け、人間に共通する14の基本的欲求について定義づけた。
- ヘンダーソンによれば、「人間」とは生来自立した存在であり、必要なだけの体力と意思力と知識さえあれば、自分自身で生きていくために必要な基本的欲求を満たすことができる存在であるとしている。
- ヘンダーソンのとらえる「環境」は、人間の基本的欲求に影響を及ぼすものであるとしている。
- ヘンダーソンが考える「健康」は、その人が自立して基本的欲求を満たすことができる状態である。
- 彼女の考える「看護」とは、あらゆる年代の、あらゆる健康段階にある人に対し、その人なりのやり方で、基本的欲求を満たし、自立(あるいは安らかな死)する過程において、その人ができない部分を代わって行い、また自立への行動をとることを援助することである。
ヘンダーソンの看護理論
ヘンダーソンの看護理論の特徴は、人間の基本的欲求(fundamental human needs)に着目した点にある。
彼女は、人間が生きるために共通にもっているニード、すなわち基本的欲求を自分で満たすことができない人に対して手助けをし、その不足している部分を満たすことができるようにすることが、「基本的看護」であるとした。
彼女は、人間の基本的欲求を14の項目に分類している。さらに、この14の基本的欲求を自分で満たすことのできない人に対して援助することが、看護者の役割であるとして、14の基本的看護の構成要素をあげた(表1)。
表1一般には看護師によって満たされ、また常時ならびにときに存在する条件によって変容するすべての患者がもっている欲求
また、彼女は看護独自の機能として以下のように述べている。
「看護師の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が、健康あるいは健康の回復(あるいは安らかな死)に資するような行動をするのを援助することである。その人が必要なだけの体力と意思力と知識をもっていれば、これらの行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助はその人ができるだけ早く自立できるようにし向けるやり方で行う」
すなわち看護とは、すべての年代の、あらゆる健康の段階にある人に対し、その人の不足している部分を補い、その人の健康を保持・増進、回復させ、各人ができるだけ早く自立した生活を送れるようにし、あるいはやすらかな死を迎えることができるように援助することであるとしている。
看護の概念がいまだ不明確だった時代に、このように明確な看護の定義をあげたことは、彼女の大きな業績である。またその考えは、後に続く看護理論家へも受け継がれている。
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ヘンダーソンが考える「人間の基本的欲求」とは
ヘンダーソンは、人間に共通する基本的欲求を以下の14に分類している。これらは健康な人、健康を障害した人を問わず、すべての人間が共通してもっている欲求である。
- 1正常に呼吸する。
- 2適切に飲食する。
- 3あらゆる排泄経路から排泄する。
- 4身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する。
- 5睡眠と休息を取る。
- 6適切な衣類を選び、着脱する。
- 7衣類の調節と環境の調整により、体温を生理的範囲内に維持する。
- 8身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する。
- 9環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を侵害しないようにする。
- 10自分の感情、欲求、恐怖あるいは“気分”を表現して他者とコミュニケーションをもつ。
- 11自分の信仰にしたがって礼拝する。
- 12達成感をもたらすような仕事をする。
- 13遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する。
- 14“正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる。
健康な人間は、これらの欲求を誰の助けも受けずに自分で充たして生活を営んでいる。たとえば、筆者自身の数年前の生活に当てはめてみると、表2のようになる。
(2014年時)
しかし、疾病や障害によってこれらの基本的欲求を自分で充足することができなくなると看護の必要性が生じてくる。基本的欲求の未充足に対して行う基本的看護も、14項目をあげることができる。
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基本的看護の構成要素
ヘンダーソンは、看護の対象である患者がもっているニードを理解し、看護を適切に行うためには、すべての人がもっている基本的欲求の状態を理解するだけでは、個人に合った適切な看護を提供することができないとしている。
つまり、患者のニードを総合的に判断するためには、基本的欲求の状態だけではなく「基本的欲求に影響を及ぼす常在条件」、「基本的欲求を変容させる病理的状態」をみていかなければならないという。
1基本的看護とは
基本的看護の構成要素は、先にあげたすべての人が共通にもっている14の基本的欲求のいずれかを自分で充足できない場合に、看護師が患者に代わってそれを行い、または患者がそれらを行えるような状況を準備することである。
たとえば、呼吸が正常にできなくて患者が苦しんでいる場合、看護師は呼吸が楽になるような体位を工夫し、医師の指示にしたがって酸素吸入などの医療的ケアを行う。
さらには、酸素が取り入れやすいように空気の清浄化をはかるなど環境を整え、患者が呼吸を楽にできるように援助する。
2基本的欲求に影響を及ぼす常在条件
しかし、この基本的看護は、次のことを考慮にいれなければならない。
つまり、患者の年齢、気質や情動状態、社会的・文化的状態、知力や栄養状態、運動能力、感覚状態などである。これらは患者個々によって異なるからである。
たとえば、同じ肺炎という病名でも、子どもと大人では、その症状も重症度、予後も異なり、それぞれ必要としている基本的看護には違いが生じる。
これから胃の手術を受けようとする患者も、その人が知的に優れた人であるか、そうでないか、また心理的に良好な状態であるか、そうでないかによって、看護の方法も異なってくる。
3基本的欲求を変容させる病理的状態とは
基本的欲求を変容させる病理的状態について、ヘンダーソンは、飢餓状態、電解質異常、酸素欠乏、ショック、意識障害など、いくつかの深刻な病理的状態をあげている。これらは言い換えれば、その人の病気や障害の状況である。
たとえば、脳梗塞の発作直後か、回復期か、または心筋梗塞で意識不明なのか、交通事故による出血性ショックの状態か、手術後か手術前か、などによって基本的看護も変化する。
すなわち、基本的欲求に基づく基本的看護は、その人の心理・社会的状態及び疾病や障害の状況をすべて把握して、総合的にその人に適した基本的看護を判断し、実践していかなければならないのである。
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ヘンダーソンの看護理論から得るもの
ナイチンゲールは、彼女の生きた時代を反映して、劣悪な療養環境に着目し、彼女独特の「環境」を中心にした看護理論を提唱した。
その後ヘンダーソンは、まだ看護の定義づけが明確でなかった混沌とした時代に看護の道に入り、自分の経験のなかから多くの疑問をもつことになった。
それらを踏まえて、彼女は「看護独自の機能」を提唱し、さらに今日世界中で常識になった看護過程を基礎づけた先駆者である。
ヘンダーソンは、従来の医学モデルとは異なる人間の基本的欲求の充足を中心に、科学的問題解決アプローチを使って看護を展開する方法を考案した。そしてその理論は、多くの国で翻訳された。
その後、多くの看護理論家たちが看護理論を発表してきたが、いまなお彼女の看護理論が古典にならない理由は、以下の点にあると考える。
- 1看護独自の機能を初めて提唱したこと
- 2基本的欲求という人間がもつ欲求を中心として、看護の対象である人間を総合的にとらえようとしたこと
- 3看護実践において、従来の医師を中心にした疾患中心の医学的モデルでの看護介入ではなく、人間の生活を中心にした看護的アプローチを使って看護介入を試みていること
- 4その理論が、単純で理解しやすいこと
もちろん、彼女が提唱した基本的欲求は生理的欲求に偏っているという指摘もあり、欠点があることも否めない。
それでも、初学者にとってわかりやすいことや、患者の日常生活面を中心にした実習での問題解決アプローチの訓練として適していることから、わが国の看護基礎教育のなかでは、活用されている。
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看護理論のメタパラダイム(4つの概念)
ヘンダーソンの看護理論は、彼女自身が語るように看護の定義づけに主眼を置いたものであり、理論としての枠組みのすべてを明確に示しているわけではない。
しかし、彼女の著作(1995)から、それらについて推察することはできる。
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人間
ヘンダーソンは、著書のなかで、人間は必要なだけの体力と意思力と知識をもっていれば、他者の援助なしに日常生活を営むことができ、14の基本的欲求を共通してもつものである、としている。
さらに、体力と意思力と知識が不足しているために「完全な無傷の自立した人間」として欠ける患者に対しては、足りない部分を代わって行うことが看護の機能である、とも主張している(1995)。
これらのことから考えると、彼女がとらえる「人間」とは、生きていくために必要な14の基本的欲求をもち、必要なだけの体力と意思力と知識をもってさえいれば、自立して生活を営んでいくことができる存在であるといえる。
つきつめれば、人間は皆、本来的には自立した存在であるといっていると考えられる。
そして「患者」は、何らかの理由で体力、意思力、知識が不足しているために基本的欲求を満たすことができず、援助を必要とする人であるといえる。
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環境
環境についても、ヘンダーソンは明確に定義づけてはいない。
しかし、人間には14の共通した欲求があるが、それらの欲求は文化や生活様式が異なればそれぞれ違った形で表現されることを知る必要性がある、と述べている(1995)。
このことから考えると、社会的、文化的要因などの環境は人間の基本的欲求の充足・未充足に影響を及ぼすものであるということがわかる。
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健康
ヘンダーソンのとらえる健康とは、「必要なだけの体力と意思力、知識があれば他人の助けなしに自分で基本的欲求を充足することができる状態」である。つまり、自立し、基本的欲求を自分で満たすことができる状態であるといえる。
また、14の基本的欲求はマズローのニードの階層から影響を受けていることや、自己実現のニードも14の基本的欲求に含まれていることから考えると、究極的には自己実現をめざすことが最適な健康レベルであるとも考えられる。
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看護
ヘンダーソンはその著書のなかで、看護は人間の基本的欲求に根差したものであると述べている。
対象が健康な人であっても病人であっても、看護師は衣食住に対する人間の欲望を常に念頭に置く必要があること、また看護師が行うべきことは、看護の対象であるその人にとっての健康や病気からの回復、あるいはよき死に資するように、その人自身が行動するのを助けることである、といっている。
さらに、その人が極度に衰弱した状態の場合には、その人に代わって意思決定を行い、よいと思われる援助を行うことも許される、とも述べている(1995)。
これらのことと、ヘンダーソンが定義づけた看護独自の機能を合わせて考えてみると、ヘンダーソンが考える看護とは、「あらゆる年代の、あらゆる健康段階にある人が、その人なりのやり方で基本的欲求を充足し、自立(あるいは安らかな死)する過程のなかで、その人が自立して行えない部分を代わって行い、またその人が自立への行動がとれるように援助すること」であるといえるだろう。
またヘンダーソンは、優れた看護師は「患者の皮膚の内側に入り込む」(1995)という指摘もしている。
看護師は、患者との対応のなかで、表面に現れている事柄をみて判断するだけでなく、その奥にある患者の内面の心理などの判断もできるようになることが必要であり、そうすることによって、よい「患者─看護師関係」を築くことができる、といっていると思われる。
そのほかにも彼女の著書からは、看護の具体的内容について推測ができる文面を多く見いだすことができる。
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看護理論に基づく事例展開
ヘンダーソンと看護過程
ヘンダーソンは、看護過程の展開について、直接的には論じていない。
しかし、彼女の著書(1995)での基本的看護ケアの構成要素に基づく看護過程の展開は可能であり、現にわが国でもヘンダーソンの看護過程については著作も数多くみられる。
ヘンダーソンの理論を看護過程に活用する場合には、14の基本的看護の構成要素が中心になる。
1アセスメント
a.3側面からの情報収集
- 14の基本的欲求の状態
- 基本的欲求に影響を及ぼす常在条件:その人個人が生来もっているプロフィール
- 基本的欲求を変容させる病理的状態:その個人の疾病・障害像
これらのフォーマットを作成し、系統的に情報を収集する。
b.情報の整理
収集した情報に重複や不足がないかを確認し、情報の収集、整理などを行う。
c.情報の分析・解釈
- 基本的欲求が充足していない状態の判断:正常な状態を基準として比較する。
- 未充足の基本的欲求と常在条件・病理的条件との関連を考える。
たとえば、発熱がみられ、「正常な体温を維持することが未充足」であった場合、その人の年齢や性別、体重や栄養状態などの常在条件および、肺炎による高熱か、胃腸炎による発熱か、手術後の一過性の発熱かなどの病理的状態によって影響され、その関連をみないと正しい判断へと結びつくことができない。
未充足の基本的欲求を患者自身で充足するためには、体力、意思力、知識のなかで何が欠けているのかを考える。
2看護診断
基本的欲求の未充足状態とその原因・関連因子および基本的欲求の未充足への反応(体力、意思力、知識)からその人の問題を総合的に診断する。
3計画立案
- 問題の優先順位の決定
- 基本的欲求を充足するための目標と具体的援助計画の設定
- その人の体力、意思力、知識の状態を踏まえたものであること
4実施
計画に従って患者の基本的欲求を充足するための行動をとる。
5 評価
未充足であった基本的欲求がどの程度充足されたかについて、患者の反応、観察などから、その目標の達成度とケア計画、ケア内容の適切性について総合的に評価する。
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脳梗塞で入院中の男性の事例
H・Yさん、男性 75歳
疾患名:脳梗塞
このH・Yさんの看護過程の展開をヘンダーソンの理論を使って行ってみる。ここでは、アセスメントと看護診断、および計画立案までの過程について具体的に述べる。
1情報取集、分類、整理
「14の基本的欲求の状態」「基本的欲求に影響を及ぼす常在条件」「基本的欲求を変容させる病理的状態」の枠組みを作成・使用して情報の収集、分類、整理を行う(表3、表4、表5)。以下のフォーマットに記載する。
2情報の分析・解釈〜計画立案
表5の情報のなかから、①基本的欲求の充足していない点に着目し取り出す。そして、②取り出した未充足の基本的欲求の項目について、常在条件と病理的状態との関連をみる。③体力、意思力、知識のいずれが不足しているかを考える。
ここでは、すべての項目から抽出した問題の優先順位の決定と長期目標について述べるのを避け、「4.適切な飲食」だけについて情報の分析・解釈、看護診断、計画立案までの過程を述べる(表6)。
なお、ポイントは前述のとおりで、実践・評価の展開は省略した。情報収集のためのフォーマットは、筆者なりに『看護の基本となるもの』をもとにして作成したものである。
ヴァージニア・ヘンダーソン(Virginia Henderson、1897〜1996)は、ほぼ1世紀の長きにわたって生き、世界の看護界にその名を残し、多大な貢献をした人である。
国際看護師協会が掲げた看護の定義のなかにも、ヘンダーソンが提唱した看護の定義が盛り込まれている。
わが国の看護界でも、彼女の名前と著書『Basic Principles of Nursing Care』(看護の基本となるもの)は、長い間読み続けられ、活用されている。
幼少時代〜看護師の資格を得るまで
ヘンダーソンは、1897年11月30日にアメリカのミズーリ州カンザス市で生まれた。父親の仕事の関係上、1901年にヴァージニア州のベッドフォード郡に移り、彼女は子ども時代をそこで過ごすことになった。
彼女は、8人兄弟の5番目で、祖父母や父母、兄弟たちは皆、知的に優れた一家であった。家族は仲がよく、その結束は固かった。
ヘンダーソンが17歳のころ、第一次世界大戦が勃発する。兄たちが戦争に駆り出された経験をきっかけに、彼女は傷病者や傷ついた兵士の役に立ちたいと思うようになり、看護の道を志した。
そして、1918年の秋にワシントンD.C.のアメリカ陸軍看護学校に入学し、看護師の道を歩み始める。
当時の陸軍看護学校では、まだ系統立った看護教育ではなく、講義のほとんどは医師によってなされるもので、病院での実習では半ば労働力を期待されたものだった。
しかし、ここでの3年間の経験や、人との出会いは、後に彼女が看護の定義づけを行ううえで大きく影響している。
看護師資格を得た後の多彩な職業経験
ヘンダーソンは、1921年に陸軍看護学校を卒業し、ニューヨーク州で訪問看護の経験をした。その翌年、ヴァージニア州にあるノーフォーク・プロテスタント学校で看護教育に携わり、精力的に学生の教育を行った。
1927年には、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジに入学した。しかし、学費を稼ぐために途中で休学し、1929年にニューヨーク、ロチェスターのストロング病院で教育看護師長を務める。
1930年にティーチャーズ・カレッジに戻り、教員として働きながら学士号と修士号を得た。
以降、1948年まで看護の問題解決的アプローチの実践、学生の臨床実習の重要性、他職種との連携、家族ケアの重要性などについて強調し、医学モデルとは異なる看護モデルの教育を実践した。
ヘンダーソンは、自分が看護師として働くなかで、また教育者としての経験を積むなかで、疑問に思ったことをうやむやにせず、追及していく姿勢を持ち続けた。
医師とも対等に議論をし、自分の考えを表現しながら、周囲に対して変革を求めていった。そのなかで彼女は、「看護独自の機能とは何か」「看護の実践とは」を、問い続けたのである。
この多彩な職業経験が、後の看護の定義へと結実していった。
エール大学での研究活動
ティチャーズ・カレッジの教員を辞職したヘンダーソンは、1955年までテキスト『Textbook of the Principles and Practice of Nursing(看護の原理と実践)』の改訂に専念することになった。
このテキストは、1939年にカナダの看護師、ベルタ・ハーマー(Bertha Harmer)とともに執筆・出版したものであったが、改訂作業は、ヘンダーソン1人の執筆で行われた。
1953年には、エール大学看護学部教授会研究員として研究活動を開始し、看護文献のインデックス作成の主任になり、看護関係文献集を出版した。インデックス作成の仕事を完成したとき、彼女は75歳であった。
エール大学は、彼女を名誉准教授とし、後には名誉博士号を送った。
また、彼女はICN(国際看護師協会)の専門職業務委員会の委員長として、活動にかかわっていた。それがきっかけで、彼女が出版したテキストのエッセンスを小冊子としてまとめることを、ICNから依頼される。
そこでヘンダーソンは、1960年に『Basic Principles of Nursing Care』(『看護の基本となるもの』)を執筆し、発表した。この本は20か国以上で翻訳されている。
世界中の看護界への貢献
75歳を過ぎた後も、ヘンダーソンの活動は精力的で衰えることはなかった。国の内外での講演、会議、セミナーなどの出席や顧問役などを引き受け、国際的に活躍した。
彼女の名前は世界中の看護師に知られるところとなり、その著書は、世界中の看護教育、看護実践のなかで使われることになったのである。
また、ヘンダーソンは9つもの栄誉博士号を受け、第1回クリスチャン・レイマン賞をはじめとするさまざまな賞も受けている。
さらにアメリカ看護協会から特別表彰を受け、イギリス看護協会からは彼女に終身名誉会長の職も贈られている。
著作物も、前出の『Basic Principles of Nursing Care』のほか、1966年には『The Nature of Nursing』(『看護論』)、『Principles and practice nursing』(『看護の原理と実際』)など、重要なものを出版している。
ヴァージニア・ヘンダーソンが自分の看護理論を発表した時代は、現在のように看護理論が世の中に一般的に浸透していたわけではない。彼女自身、自分の看護理論は「理論」(theory)ではなく「定義」(definition)であるといっている。
しかし、フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)の看護理論の後に彼女の看護理論が国際規模で広く受け入れられたことは、ヘンダーソンの看護理論にそれだけの価値があったことを証明している。
彼女が提唱した看護理論は、人間の基本的ニードに基盤を置いていることから、「ニード論」ともよばれる。
ナイチンゲールの看護理論がその時代の影響を受けて提唱されたものであったように、ヘンダーソンの看護理論もまた、彼女自身の受けた看護教育、看護実践、他分野の学問領域、その時代の保健・医療情勢などを踏まえて生み出されたものである。
ナイチンゲールの看護理論に比べ、看護介入に関して問題解決的アプローチの方法を理論的に説明している点では画期的なものであったといえる。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』 編著/城ヶ端初子/2018年11月刊行/ サイオ出版