皮膚悪性リンパ腫|悪性腫瘍⑨

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は皮膚悪性リンパ腫について解説します。

瀧川雅浩
浜松医科大学名誉教授

 

 

Minimum Essentials

1リンパ球系細胞が悪性化し、皮膚で増殖する疾患である。菌状息肉症、セザリー(Sézary)症候群が代表的な疾患である。成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)では、約半数の患者に皮膚病変が出現する。

2紅斑、丘疹、結節、腫瘤などが単~多発する。時にかゆみを伴う。全身症状は進行すると出現する。

3病型分類、病期に基づき、治療法を選択する。菌状息肉症では病初期には紫外線療法、進行すると化学療法が選択される。

4経過は、菌状息肉症ではゆっくりであるが、セザリー症候群では比較的早い。ATLは病型による。治療により経過を遅らせることができるが、いずれも致死的である。

 

皮膚悪性リンパ腫とは

定義・概念

悪性化したリンパ球系細胞が皮膚で増殖する疾患で、代表的なものに菌状息肉症、セザリー症候群がある。

 

また、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)では、ヒトT細胞性白血病ウイルス1型(HTLV-1)に感染したT細胞が悪性化し、全身臓器で増殖する。約半数の患者で腫瘍細胞の増殖による皮膚病変が生じる。

 

原因・病態

菌状息肉症、セザリー症候群では特定されたものはない。ATLではHTLV-1のT細胞への感染が密接に関連している。

 

日本皮膚科学会による全国調査では、毎年約400名の皮膚悪性リンパ腫患者が新規登録されている。約半数が菌状息肉症あるいはセザリー症候群であるが、菌状息肉症が90%以上を占める。両疾患とも致死的である。

 

菌状息肉症は数年から10数年かけてゆっくりと進行し、長い経過をとる。一方、セザリー症候群はまれな疾患であるが、末梢血に異型リンパ球が出現し、経過は比較的早い。

 

HTLV-1感染者(キャリア)は西南日本沿岸部を中心に110万人ほど存在し、感染者のATL発症率は年間1,000人に0.6~0.7人である。

感染から発症までの潜伏期間が長く、キャリアが生涯に発症する確率は約5%で、発症ピークは60歳ごろである。ATLの予後は病型によりさまざまである。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

菌状息肉症は以下の3病期でゆっくり進行する。

 

紅斑が目立つ湿疹として生じ(紅斑期)(図1)、時に強いかゆみを伴う。

 

図1菌状息肉症(紅斑期)

菌状息肉症(紅斑期)

 

徐々に湿疹部全体が盛り上がり、厚く触れる(浸潤する)ようになり(扁平浸潤期)、その上に丘疹、結節、腫瘤を形成する(腫瘤期)(図2)。

 

図2菌状息肉症

浸潤を触れる紅斑が全身に広がっている。結節(←)もみられる。

菌状息肉症

 

さらに進行すると、皮膚リンパ腫細胞がリンパ節、他臓器へ浸潤する。セザリー症候群は全身の皮膚が赤くなる紅皮症(図3)で発症し、進行すると丘疹、結節、腫瘤を形成する。

 

図3‌紅皮症:セザリー症候群

‌紅皮症:セザリー症候群


ATL の病型には、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型がある。約半数の患者に紅斑、丘疹、結節、腫瘤、紅皮症など多彩な皮膚症状がみられ、菌状急肉症、セザリー症候群との鑑別を要する。

 

検査

皮膚の病理組織検査で異型リンパ球の浸潤を認める。確定診断には、免疫染色や遺伝子検査を併せて行う。同時に、血中の異常細胞の有無、リンパ節や他臓器の病変なども検索する。

 

セザリー症候群では病初期から末梢血中に異型リンパ球(セザリー細胞)が出現する。ATLは抗HTLV-1抗体陽性である。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

症状、病期に応じて以下の治療法を選択する。

 

(1)発疹に対する治療
ステロイド薬外用、紫外線療法(PUVA[プーバ]療法、ナローバンドUVB療法)、電子線照射が行われる。

 

(2)化学療法
ゾリンザ®内服、イムノマックス-γ®点滴静注、タルグレチン内服、ポテリジオ®点滴静注、CHOP療法など。

 

治療経過・期間の見通しと予後

治療により経過を遅らせることはできるが、いずれも致死的である。

 

看護における役割

治療における看護

致死的疾患ではあるが、早期にはとくに生活の制限はない。規則正しい生活を送り、ストレスをためないようにする。しかし、時に経過が長く、継続した治療が必要となるため、患者と家族へのさまざまな指導と精神的フォローが大切である。

 

外来で治療を行う場合、治療期間は一般的に長期間にわたることが多い。感染症に注意するよう指導する。感染予防には手洗いやうがいをこまめに行う、部屋を清潔にするなどの工夫が必要である。

 

放射線療法、化学療法が選択された場合、悪心・嘔吐、脱毛、骨髄抑制などの副作用出現による身体的・精神的苦痛が予想されるので、治療前のインフォームド・コンセントをしっかり行う。

また、副作用に対し適切な処置を行い、患者が安心して治療を受けられるように支援する。

 

(1)悪心・嘔吐
制吐薬の投与により、ある程度予防できる。心理的要因で誘発されることもあり、患者の心理状態を把握することが大切である。食事を患者の嗜好に合わせるよう配慮する。

 

(2)脱毛
治療が終了すれば必ず生えてくる。抜け毛に対してネットや帽子などの利用を勧める。

 

(3)骨髄抑制
白血球数が減少するので、感染症予防対策を行う。

・化学療法前に齲(う)歯、痔などがあれば、それに対する治療を行う。

・身体の清潔を保つ:手洗い、うがいの励行、皮膚の清潔など。

・病室の管理:個室管理、ガウンテクニック、面会人の制限、掃除の徹底、クリーンベッドの使用など。

・食事:生ものを避け加熱する、無菌食など。

 

フォローアップ

退院後しばらくは、疲れたら無理をしないですぐに横になるようにする。軽い運動や簡単な家事をしながら、体力の回復に努める。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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