皮下脂肪織炎
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は皮下脂肪織炎について解説します。
橋本喜夫
JA北海道厚生連旭川厚生病院皮膚科
Minimum Essentials
1皮下脂肪織炎はおもに慢性に経過する脂肪織の炎症の総称で、原因病態が多く存在し、原因不明なものもある。
2臨床的には下肢に好発し、多くは慢性に経過する発赤を伴う皮下硬結である。
3おもな疾患として、バザン(Bazin)硬結性紅斑、ウェーバー・クリスチャン(Weber‐Christian)症候群、組織球性貪食性脂肪織炎、うっ滞性脂肪織炎、結節性紅斑などがあり、それぞれ病因が異なる。
4治療としては一般に安静が重要であり、原因が明確なものはそれに対する薬物療法を、原因が不明なものはステロイド薬内服や、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対症的に治療する。
皮下脂肪織炎とは
定義・概念
臨床的に下肢に好発する発赤を伴う皮下硬結あるいは皮下結節として発症し、慢性に経過する。病理組織学的に皮下脂肪織に炎症がみられる疾患の総称である。
原因・病態
バザン硬結性紅斑、ウェーバー・クリスチャン症候群、組織球性貪食性脂肪織炎、うっ滞性脂肪織炎などがあり、それぞれ原因が異なる。
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診断へのアプローチ
全身の画像検査、末梢血生化学検査などを駆使して原因病態を究明し、確定診断は皮下脂肪織までの深さに及ぶ皮膚生検を施行して、病理組織学的に行う。
バザン硬結性紅斑
臨床症状
成人女性の両下腿に好発する紅斑、圧痛を伴う皮下硬結で、しばしば潰瘍を伴う。潰瘍治癒後の瘢痕や色素沈着もみられる。結核に伴う脂肪織炎であるが、明確な結核病巣が検出されないこともある。
検査
潰瘍を伴う慢性の皮下硬結であれば本疾患を疑い、病理組織学的に確定診断する。活動性結核の有無を検査することが重要であり、ツベルクリン反応、クオンティフェロン法などで結核の診断をして、胸部X線や胸部CTなどの画像検査、喀痰培養なども施行する。
ウェーバー・クリスチャン症候群
臨床症状
30~60歳代の女性に好発し、おもに下腿、下肢に対称性にみられる1~2cmの紅斑を伴う皮下結節であり、時に潰瘍を伴う。発熱、肝障害、関節痛、出血傾向などの全身症状を伴うが、原因不明である。
検査
血液検査として血沈亢進や白血球数増加、CRP高値などの炎症所見が重要である。
組織球性貪食性脂肪織炎
臨床症状
発熱、肝脾腫、出血傾向などを伴う多発性の皮下硬結、皮下結節が四肢や体幹に好発し、時に顔面にもみられる。
検査
病理組織学的に炎症細胞浸潤と特徴的な赤血球の貪食像がみられる。同様の組織変化が肝、脾、リンパ節、骨髄などの他の臓器でも出現する。病態の基礎には悪性のT細胞の増殖性疾患があることが多い。
うっ滞性脂肪織炎
臨床症状
中高年に好発する下肢の片側もしくは両側にみられる有痛性皮下硬結(図1)で、静脈瘤を合併する。皮膚表面にはうっ滞性皮膚炎を伴うことも多い。したがって基礎疾患の静脈瘤により左右差が生じることもある。
検査
病理組織学的検査と血管外科による画像検査で静脈瘤の有無が診断の決め手になる。
結節性紅斑
「結節性紅斑」参照のこと。
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治療ならびに看護の役割
治療法
おもな治療法
まず安静が基本である。原因としての感染症や悪性疾患が除外されたら、NSAIDs投与やステロイド全身投与も行う。
合併症とその治療
原因治療として、結核の関与が疑われれば抗結核薬の投与を行う。悪性リンパ腫など悪性疾患の関与があるときは、化学療法も考慮する。静脈瘤の合併があれば弾性ストッキングの着用や外科治療、薬物療法も施行する。
ウェーバー・クリスチャン症候群ではシクロスポリンなどの免疫抑制薬も投与することがある。
治療経過・予後
原因疾患によって予後が異なるが、皮下脂肪織炎は一般に慢性に経過するので、長期間経過観察を要する。
看護の役割
・皮下脂肪織炎の原因はさまざまなので、医師の説明に基づき、皮疹、血液検査所見を考慮して患者の病態を個々に把握することが重要である。
・皮下脂肪織炎では下肢の安静を基本とし、寝るときは下肢の挙上に努めることが重要である。
・バザン硬結性紅斑で抗結核薬が投与されるときは、副作用や薬剤耐性などについて十分に配慮すべきである。
・ウェーバー・クリスチャン症候群や組織球性貪食性脂肪織炎は、再発を繰り返し、重篤な経過をとることも多いので、患者、医師、コメディカルとの信頼関係に基づいたチーム医療が求められる。
・うっ滞性脂肪織炎はうっ滞性皮膚炎も合併することが多く、静脈瘤の症状により経過も左右される。慢性に経過することを考慮して、患者との信頼関係構築とともに血管外科医との意思疎通も必要である。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂