脱毛症(円形脱毛症、トリコチロマニア)|付属器疾患④

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は円形脱毛症、トリコチロマニアについて解説します。

伊藤泰介
浜松医科大学付属病院皮膚科

 

 

Minimum Essentials

1円形脱毛症は毛包組織への自己免疫反応による。トリコチロマニアは精神疾患の1つで、小児に多くみられる。

2円形脱毛症には単発型、多発型、全頭型、汎発型、蛇行型、急性びまん性全頭型がある。

3円形脱毛症にはステロイド薬外用や局所注射、局所免疫療法が有効である。

4円形脱毛症は範囲が広いと治療に1〜2年を要し、再発も多い。トリコチロマニアの治療には数年かかる。

 

円形脱毛症、トリコチロマニアとは

定義・概念

円形脱毛症は、頭部を中心とする、体毛も含めた成長期毛に対する自己免疫反応が引き起こす脱毛症状である。

 

一方、トリコチロマニア(抜毛症)は、「髪を抜きたい」という抵抗し難い強迫的な思考により抜毛行為が反復的に行われる「衝動制御の障害」である。

 

原因・病態

円形脱毛症は、遺伝的な背景に何らかの環境要因が加わることを契機に、毛包の自己抗原に対する細胞傷害性T細胞による自己免疫反応が誘導されて発症する。

 

もっとも有力な自己抗原は、成長期毛におけるメラニン合成に関わる酵素(チロシナーゼ、チロシナーゼ関連蛋白など)である。誘引は精神的なストレスの場合もあるが、ウイルス感染症や疲労、出産、外傷、不眠などさまざまである。

 

トリコチロマニアでは、何らかの誘引に対して「髪を抜きたい」という抵抗し難い強迫的な思考が起き、毛を抜くことで緊張感が低下し快感が生まれるが、その衝動が落ち着くと後悔の念にさいなまれ自己嫌悪に陥る。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

円形脱毛症は脱毛症状の範囲により単発型、多発型(図1)、全頭型(図2)、汎発型、蛇行型、急性びまん性全頭性(acute diffuse and total alopecia)に分類される。

 

図1円形脱毛症(多発性)

円形脱毛症(多発性)

 

図2円形脱毛症(全頭型)

円形脱毛症(全頭型)

 

急性びまん性全頭型脱毛症

急性に発症し、組織学的に好酸球が浸潤する。全頭性のタイプで、多くが予後良好である。

 

脱毛部位をダーモスコピー観察すると、急性期には根元に向かって細くなっている毛(漸減毛)(図3)や棍棒状の切れ毛(感嘆符毛)などがみられ、慢性期には黄色くなった毛孔(黄色点)がおもにみられる。

 

図3漸減毛(→)

漸減毛(→)

 

脱毛部位には紅斑や若干の瘙痒、違和感などを自覚することもある。甲(そうこう)の陥没、粗造化を伴う症例もある。甲状腺疾患、炎症性腸疾患、I型糖尿病など、ほかの自己免疫疾患を合併することがある。

 

トリコチロマニアは、脱毛病変の形が人工的である場合(図4)に積極的に疑うが、抜毛行為を患者自身が認めることは少ない。

診断にはダーモスコピー観察が有用であり、縦に裂けたりコイル状になって切れている毛髪を認める。

 

図4トリコチロマニア

トリコチロマニア

 

4歳までに発症し自然治癒する経過良好なタイプと、思春期以降に発症して難治性となるタイプがある。発症の平均年齢は11歳であり、女性が男性の10倍程度多い。頭髪がほとんどであるが、眉毛や睫毛などを抜くこともある。

 

検査

円形脱毛症では、おもに合併症の検索のため甲状腺自己抗体、甲状腺ホルモン血糖値、HbA1c、抗核抗体、抗DNA抗体などを検査する。

 

ダーモスコピーでは、急性期では漸減毛や感嘆符毛、慢性期では毛孔が黄色状となった黄色点が観察される。

 

トリコチロマニアでは、ダーモスコピーで切れ毛の先端のささくれ状態や、微小出血を伴う毛孔を認めたりする。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療

円形脱毛症では局所免疫療法(人為的に接触皮膚炎を誘導する治療法)、ステロイド局所注射(図5)がもっとも有効である。

 

図5ステロイド局所注射

 

そのほか、ステロイド外用剤やカルプロニウム外用液の塗布、セファランチンやグリチルリチン酸内服、紫外線照射、液体窒素療法などが施行される。

 

トリコチロマニアの治療では、複数回の診察を経て徐々に患者と主治医、看護サイドの信頼関係を構築する必要がある。保護者を抜きにした診療も重要である。

 

どのような状況で抜毛したくなるか患者に自覚させ、そうした環境になった際に、その欲求を別のことに転嫁させる訓練を行う。精神科との連携も大切である。

 

合併症とその治療

円形脱毛症の合併症は、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患が多い。とくにアトピー性皮膚炎を合併している場合は難治性であり、併せて診療を行う。

 

甲状腺疾患が疑われる場合には、内分泌内科へ紹介する。トリコチロマニアの患者においても、一部に円形脱毛症を合併している者も存在する。

 

治療経過・期間の見通しと予後

円形脱毛症は軽快と増悪を繰り返しやすい。多発型や全頭型円形脱毛症の治療には、少なくとも1年程度はかかる。トリコチロマニアは急には良くならない。

 

看護の役割

治療における看護

脱毛症診療はおもに外来で行われる。患者は脱毛症状を他人になるべく見られたくないため、最小限の医療スタッフのみで診療を行う、カーテンをひくなどの配慮が必要である。脱毛症の苦しみは、なったことがない者にとっては想像できないくらい辛いものがある。

 

また、脱毛症の治療には通常、経過が良くても1年以上を要する。その間はかつらなどを必要とすることが多いため、対応について看護の面からも知っておく必要がある。

 

ステロイド局所注射は、複数の脱毛斑に対して多数行うことがある。注射後の圧迫止血を医師の処置に伴って行う。外来での局所免疫療法やステロイド局所注射では、脱毛周囲の毛髪の押さえなど処置介助をする必要がある。

 

トリコチロマニアの患者には若年者が多い。看護側から温かい気持ちで患者との意思疎通を図ることで、徐々に心の奥にある問題点を解決してあげられると良い。解決を急がず、信頼関係を構築し、親子間では解決しにくい問題点を患者と共有することが必要である。

 

フォローアップ(退院時指導、日常生活)

急性全頭型の円形脱毛症に対するステロイドパルス療法で短期入院した場合には、点滴後にすぐに退院することが多い。退院後1〜2日間は人ごみを避けるなど感染症対策について指導する。

 

日常生活では、疲労や睡眠不足、ウイルス感染症などを避けるよう指導する。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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