MCIがアルツハイマー病に発展する原因と、その予防法|けいゆう先生の医療ドラマ解説【6】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
前回に引き続き、今回も「大恋愛~僕を忘れる君と」を取り上げてみましょう。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.6 MCIがアルツハイマー病に発展する原因と、その予防法
©TBS
尚(戸田恵梨香)は、第7話で講演中に反射性失神を起こしてしまい、その後から認知機能の低下が進行してしまいます。
(参考:「大恋愛」に学ぶ個人情報の扱いと、反射性失神の原因)
尚は、「MMSE」と呼ばれる認知機能検査を受けましたが、この結果を見て主治医の侑市(松岡昌宏)は、尚がアルツハイマー病に進行していると判断しました。
MCI(軽度認知障害)からアルツハイマー病への進行―。
尚や、尚の夫である真司(ムロツヨシ)らが最も恐れていた事態が起こってしまったのです。
さて、実際には、MCIから認知症に進行する人はどのくらいいるのでしょうか?
進行を食い止める方法はあるのでしょうか?
いつものようにドラマ中のシーンを振り返りながら、わかりやすくまとめてみましょう。
認知症の種類
まず、認知症の分類について簡単にまとめておきます。わが国の65歳以上の高齢者の中で、認知症患者の割合は約15%とされています。
ただし、「認知症=アルツハイマー病」ではないことに注意が必要です。
認知症の中には、実にさまざまな疾患、病態が含まれています。
(認知症疾患診療ガイドライン2017を基に編集部作成)
最も多いのがアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)(67.6%)、その次に多いのが血管性認知症(19.5%)です。
血管性認知症の原因としては、多発性脳梗塞のような脳血管疾患があります。
また、Lewy小体型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、感染症や内分泌代謝疾患など、多くの疾患が認知症に含まれます。
また、認知症と、認知症に症状の似た疾患、すなわち、うつ病やせん妄、統合失調症などとの鑑別も大切です。
特にせん妄と認知症は合併して見られることが多いのですが、せん妄は一時的な意識障害であり、改善が見込めます。
したがって、もともと認知症で意思疎通が難しい方がせん妄を合併した際は、せん妄が改善しても意思疎通は十分に取れなくて当然です。
せん妄を起こした認知症患者さんをケアする時は、目標とすべき認知機能レベルを把握しておく必要があるわけです。
家族への問診等を通して、せん妄に至る前の普段の認知機能について十分に把握し、目標とすべきゴールを看護師間で共有しておく必要があるでしょう。
MCIから認知症への進行
侑市はMCIに罹患した尚に対して、認知症に発展することもあれば、治ることもある、と説明していました。
実際、MCIの患者が認知症に進行する割合は、1年あたり5〜15%とされています。
一方、MCIから正常に戻る割合は、1年あたり16〜41%。
報告によって幅はあるものの、おおむね正常に戻る確率の方が高いことがわかります。
むろん、正常に戻った例の中には、もともとMCIではなかったケースも含まれると考えられ、正確な病態変化の把握は難しいと思われます。
MCIから認知症への進行を予防する方法は?
尚の初期症状として軽い物忘れが始まった時期に、侑市は尚に、
「適度な運動、バランスのよい食事、睡眠の確保。生活習慣を見直すことで軽快する場合もあるんです」
とアドバイスをし、尚は、
「普通の人と同じ健康法じゃないですか」
とショックを受けるシーンがありました(第2話)。
実際、MCIから認知症への進行を食い止める方法は他にないのでしょうか?
まず、認知症への進行を予防する方法として、現時点で効果が明らかとなっている薬物療法はありません。
小規模な研究で、適度な運動や禁煙、認知機能訓練などが有効とされていますが、十分なエビデンスがあるとは言い難いところです。
一方、血管性認知症だけでなくアルツハイマー型認知症においても、高血圧や糖尿病、脂質異常症が、MCIから認知症に進行するリスクになることがわかっています。
こちらもエビデンスは十分ではありませんが、こうした生活習慣病の危険因子を適切に管理することはガイドライン上でも推奨されています。
少なくとも現時点では、ドラマ中の侑市の説明が、医師ができる最大限の指導であることがわかりますね。
サティタミンの治験
侑市は尚に、MCIからアルツハイマー病への進行を食い止める新薬「サティタミン」の治験参加を勧めました。
ところが、尚がこの参加を決めきれないうちに、残念ながらMCIからアルツハイマー病に進行したと判断され、治験に参加できなくなってしまいます。
治験については以前の記事で説明した通りですが、治験に参加するための患者の要件(適格基準)は非常に厳格に定められています。
(参考:新規治療薬の開発と臨床試験)
年齢や疾患に関わる細かな基準を全て満たさなければ、参加することはできません。
私自身も患者さんから化学療法の治験参加を希望され、残念ながら適格基準に合致せずお断りしたことは何度かあります。
以前、ドラマ「ブラックペアン」(TBS)で、多くの患者さんが次々と治験に参加していく筋書きがありましたが、実際には「参加したくても参加できない」人たちがたくさんいる、というのが現実なのです。
ちなみに、アルツハイマー病の治療薬として使用されるコリンエステラーゼ阻害薬は、コリンエステラーゼの働きを阻害することで、脳内の神経伝達物質「アセチルコリン」を増やします。
アルツハイマー病の脳内ではアセチルコリンの減少が見られるためです。
この治療薬には、「ガランタミン」や「リバスチグミン」といった薬があります。
「サティタミン」は架空の薬ですが、これらの薬名にヒントを得て作られたのでしょう。
医療ドラマで出てくる架空の薬が何を元に作られているのかを調べてみると、どんな機序がイメージされているのかがわかります。
医療従事者がマニアックにドラマを楽しめるポイントですね。
・認知症はアルツハイマー病だけではない!認知症に含まれるさまざまな疾患を頭に入れておこう。
・認知症に症状が似た他の疾患との鑑別に注意しよう!
(参考)
認知症疾患診療ガイドライン2017(日本神経学会)
illustration/宗本真里奈、鈴木律菜
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2019/02/05 連載バナーを更新しました。
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