アルツハイマー病が起こる仕組みとは?|けいゆう先生の医療ドラマ解説【7】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
先日(2018/12/14)最終回を迎えた「大恋愛」を振り返ってみましょう。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.7 アミロイドβと改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
©TBS 医師役の戸田恵梨香さん(右)と、小説家役のムロツヨシさん(左)
「大恋愛」は、主人公の尚(戸田恵梨香)がMCI(軽度認知障害)にかかり、その後、若年性アルツハイマー進展してしまう、という筋書きでした。
ドラマ中では、主治医である精神科の侑市(松岡昌宏)が尚の病態変化を診療する中で、どの病棟の看護師でも頭に入れておいた方が良い用語や診察方法が、いくつか登場しました。
今回はそれらを一通り振り返ってみましょう。
アミロイドβとアルツハイマー病
アミロイドβとは、ドラマ中でよく出てくるタンパク質の名前です。
印象的なシーンとして、第2話で侑市が尚に対してアミロイドPET(アミロイドβが脳に蓄積しているかどうかを調べる検査)の結果を伝えた際の会話を振り返ってみましょう。
侑市「やはり、アミロイドPET検査はポジティブ(陽性)でした。診断はMCI。アルツハイマー病の前段階です」
尚「アミロイドβが脳にたまっているということは、つまりゆくゆくはアルツハイマー病を発症する、ということですか?」
侑市「確かに将来アルツハイマー病になる可能性は高いです。でもアミロイドβがたまっている人すべてがアルツハイマー病になるわけではないんです」
さて、アミロイドβとアルツハイマー病にはどんな関係があるか、分かるでしょうか?
アルツハイマー病患者の脳に起こる特徴的な変化
アルツハイマー病とは、1906年にドイツのアルツハイマー博士が報告した疾患ですが、その原因はいまだにはっきり分かっていません。
ただ、アルツハイマー病の患者の脳には、特徴的な変化が起こっているとされています。
その代表的なものが、「老人斑」と「神経原線維変化」と呼ばれる異常な構造物です。
アミロイドβはタンパク質の一種ですが、これが異常に蓄積して起こるのが「老人斑」です。
この本来排出されるべきタンパク質が、いわば「ゴミ」のように溜まることが契機となって認知機能が障害されているのではないか、すなわち、アミロイドβがアルツハイマー病の発症に関連しているのではないか、という説があります。
これを「アミロイドカスケード仮説」と呼んでいます。
尚のセリフ、「アミロイドβが脳にたまっているということは、つまりゆくゆくはアルツハイマー病を発症する」とは、この説のことを指しています。
アミロイドβの蓄積は、認知機能に障害のない人にも起こる
ところが、アミロイドβの蓄積は、アルツハイマー病ではない、認知機能にまったく障害がない人にも起こることが分かっています。
健常な方でも、50歳の方の10.4%、90歳の43.8%にアミロイドβの蓄積が起こっているという報告もあります。
必ずしも、アミロイドβがアルツハイマー病の直接の原因ではなく、他に何らかの原因があり、その結果としてアミロイドβの蓄積が観察されているのではないか、とも考えられているのです。
侑市のセリフ、「アミロイドβがたまっている人すべてがアルツハイマー病になるわけではない」とは、いまだ解決されない、こういう現象を指しているわけです。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
次は、認知機能評価を行うシーンを振り返りましょう。
侑市は尚に、「これから言う3つの言葉を言ってみてください」と告げ、
梅、犬、自動車
という3つの単語を伝えます。
尚がこれを復唱すると侑市は、
「あとでまた聞きますので、よく覚えておいてください」
と言います。
次に侑市は、「100から7を引いてください」言い、これに尚が正しく答えると、さらに「そこから また7を引いてください」と引き算を続けさせます。
その次は、「私がこれから言う数字を逆から言ってください」と侑市が言い、「682」「3529」という3桁と4桁の数字を尚に聞かせます。
これに尚が慎重に答えます。
ここで侑市が、「先ほど覚えてもらった3つの言葉、もう一度言ってみてください」と言うと、思わず尚が沈黙してしまう。
「梅、犬、自動車」と答えるべきだったのですが、これを尚が覚えていなかった。
そんなシーンでした。
これは、わが国の病院でよく行われる「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」と呼ばれる、認知機能評価のための一連の問診そのものです。
文献1)より許可を得て引用
ドラマに出てきたのは、ここに書かれた4番、5番、6番、7番です。
この表にのっとって患者に質問し、30点満点中20点以下なら「認知症の疑いあり」と判断されます。
ドラマではこのスケールの一部が忠実に再現されたのですね。
なお、認知機能のスクリーニングとしては、この長谷川式だけでなく、MMSE (Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)、Mini-Cogなどといった他の手法が用いられることもあります(本ドラマの第7話では、MMSEが使用されました)。
・アミロイドβと呼ばれるタンパク質の異常な蓄積は、アルツハイマー病に関連すると考えられている
・「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」は患者の認知機能を簡易的に評価する便利なツール
(参考)
1)加藤伸司, 下垣光, 小野寺敦志, 他:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成.老年精神医学雑誌 2(11): 1339 -1347 1991
2)尾崎紀夫、三村 將、水野雅文、他 編:標準精神医学 第7版. 医学書院、2018
3)日本神経学会 監、「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 編:認知症疾患診療ガイドライン2017.
illustration/宗本真里奈
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2019/02/05 連載バナーを更新しました。
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