「大恋愛」に学ぶ個人情報の扱いと、反射性失神の原因|けいゆう先生の医療ドラマ解説【5】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
前回に引き続き、今回も「大恋愛」を取り上げてみましょう。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.5 個人情報の扱いと、反射性失神の原因
©TBS 医師役の戸田恵梨香さん(右)と、母親で同じく医師役の草刈民代さん(左)
ドラマ「大恋愛〜僕を忘れる君と〜」では、MCI(軽度認知障害)を患う尚(戸田恵梨香)に対し、夫である真司(ムロツヨシ)、主治医であり元婚約者の侑市(松岡昌宏)、そして同じ疾患を抱える松尾公平(小池徹平)が、三者三様の関わり方をします。
今回はまず、この4人をめぐる個人情報の取り扱いについて、ドラマ中の3つのシーンを取り上げて解説します。
次に、第6話、第7話で登場した「反射性失神」について、病院でもよく出会うシチュエーションを例に挙げつつ、簡単に解説しましょう。
個人情報の取り扱いに注意
医療現場では、患者さんの個人情報の取り扱いに常に注意が必要です。
特に看護師は患者さんと近い距離で接するがゆえに、患者さんの病状に関わる情報を思わず口外してしまう、といった事例がときどきあります。
「大恋愛」では、こうした個人情報の取り扱いについて学べるシーンが度々あります。
●まず第3話
少しずつ病状が変化している尚を心配した真司が、一人で侑市に会いに行くシーンがあります。
真司は、尚の病状や生活上の注意点について知りたいと侑市に訴えますが、
「守秘義務をまっとうしなければなりません」
と断られてしまいます。
真司は尚と近い関係にあり、かつ純粋な善意で尚の病状を知りたいと訴えたのですが、それでも「本人の同意なしには病状を明かさない」と侑市は正しい対応をしたのです。
●次に第6話
侑市の担当患者である公平が診察室に入ってきます。公平は、自分の前に侑市の診察を受けていた尚と真司の二人のことが気になっていました。
二人のどちらかが自分と同じ病気、すなわちMCI(軽度認知障害)ではないかと疑ったからです。
そこで公平は侑市に、
「僕の前に井原先生の診察受けてたご夫婦、どっちが病気なんですか?」
と尋ねます。
これに対して侑市は落ち着いた様子で、
「そういうことはお話しできないんですよ」
と答えました。
「夫婦のどちらが病気で診察を受けに来たのか?」といった、他の患者さんにとっては一見些細なことでも、ご本人にとってはまぎれもない個人情報です。
医療者がこうしたプライバシーを明かすことは許されません。
●そして第7話
尚に接近する公平に不信感を抱いた真司は、侑市から次回の外来日を伝えられた際、同じ日に公平が病院に来るかどうかを確認するため、
「松尾さんはその日、外来ですか?」
と侑市に尋ねますが、侑市は、
「他の患者さんのことは申し上げられないのですが、どうかしましたか?」
と聞き返しました。
医療者が、他の患者さんの外来日を伝えることはもちろん許されません。
さらに侑市は、真司がそうした疑問を抱くにいたった理由を尋ねました。
わざわざ他の患者さんのことを知りたい、と患者家族が言い出したことを侑市は重視したわけです。自分の知り得ない何らかの不安を抱えているのではないか、と疑ったからですね。
病院では、他の患者さんの個人情報を知りたがる人に、非常によく出会います。
・会社の上司が、部下である患者の回復までにかかる期間を知りたい
・学校の先生が、生徒の病状がどの程度悪いかを知りたい
・患者さんの知人が、どんな手術を受けるかを知りたい
こうしたケースは日常茶飯事です。
医療スタッフは、患者さんの病気に関する極めてブライペートな情報を知りうる立場にあります。
しかし、こうした情報を本人の同意なしに他人に口外することは許されません。
患者さんご本人を傷つけ、不信感を抱かせる原因になるだけでなく、守秘義務違反という観点から、法的に罰せられたり、賠償責任が生じる可能性があります。
「大恋愛」では、この3つのシーンで、個人情報の扱いに関わる重要なポイントを学ぶことができるのです。
反射性失神とは?
さて、次に反射性失神についてです。
尚は、学生を相手に自らの病気の体験を講演する機会を侑市から与えられました。
ところが、当日壇上で、緊張とマイクの不調という予期せぬトラブルが原因で、意識を失って倒れてしまいました。
侑市はこのことについて、尚と真司に「反射性失神」が原因であると伝えました。
この「反射性失神」とはどういうことか、皆さんはわかりましたか?
侑市はこれについて、「自律神経がバランスを崩した」と説明しましたね。
「反射性失神」は、「神経調整性失神」とも呼ばれます。
痛みや緊張といったストレスが誘因となり、迷走神経(自律神経の一つ)の働きが過剰になったせいで脳への血流が一時的に低下することが原因です。
医療現場でも、採血や点滴をするために注射した際や、排便、排尿した際に患者さんが失神する、といったケースがよくあります。
短時間で意識は回復し、大きな後遺症を残す心配はありません。
ただし、こうした失神では、他の危険な原因がないかどうかを確認することも大切です。
失神(意識消失発作)は、さまざまな要因で起こります。特に見逃すと命に関わるものとして、起立性低血圧や心原性のものが挙げられます。
起立性低血圧は、いわゆる「立ちくらみ」ですが、消化管出血など体内の出血による循環血液量の低下が原因となっていないかどうか、即座に鑑別する必要があります。
また心原性のものは、不整脈や、心筋梗塞などの虚血性心疾患、肺塞栓症など、見逃すと患者さんの命に関わる疾患が含まれます。
侑市はこうした疾患を鑑別に入れ、それを除外した上で「反射性失神」と診断した、と考えるべきでしょう。
・患者さんの個人情報を本人の同意なしに口外しないようくれぐれも注意!
・反射性失神の仕組みと、失神の原因について簡単に覚えておこう!
(参考)
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005-2006年度合同研究班報告):「失神の診断・治療ガイドライン」(JCS 2007)
illustration/宗本真里奈、鈴木律菜
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2018/12/10 著者プロフィールを更新しました。
※2019/02/05 連載バナーを更新しました。
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