咽頭結膜熱(プール熱)【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【14】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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古宮伸洋
日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科
〈目次〉
- 咽頭結膜熱(プール熱)ってどんな疾患?
- 咽頭結膜熱の原因ウイルス
- 咽頭結膜熱の感染経路とその対策
- 咽頭結膜熱が多く発症する時期
- 咽頭結膜熱の処置・治療法
- 咽頭結膜熱の診断
- 咽頭結膜熱の治療法
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
咽頭結膜熱(プール熱)ってどんな疾患?
咽頭結膜熱は、アデノウイルスによる感染症です。プールなどで感染が広がることがあるため、プール熱とも呼ばれています。病名のとおりに発熱、咽頭痛、結膜炎が主症状なのですが、下痢や腹痛などの胃腸炎症状を認める場合もあります。
発熱の場合、インフルエンザのような高熱が4~5日程度続きます。咽頭所見では発赤が強く出ることが多いです。普通の風邪との違いはやはり結膜炎症状があることで、片側の眼から始まり、両側性となりますが、中には結膜炎症状が軽微で風邪症状だけの場合もあります。
小児に多い感染症ですが、成人でも時々感染することがあります(図1)。感染するとその血清型に対してはある程度の免疫がつくこともあり、感染しても無症状や軽症ですむ場合が多いとされます。
咽頭結膜熱の原因ウイルス
咽頭結膜熱の原因ウイルスであるアデノウイルスには、50以上の血清型が知られており、血清型によって臨床像が異なります。アデノウイルスは、代表的な風邪の原因ウイルスの一つなのですが、肺炎、胃腸炎、出血性膀胱炎を起こすような血清型もあります。
この血清型の中でも咽頭結膜熱は1型、2型、3型、4型、5型などが原因となっています。咽頭結膜熱の症状である結膜炎を起こすウイルスは数多くあり、エンテロウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルスなど挙げられますが、中でもアデノウイルスは最も頻度の高いウイルスです。アデノウイルス感染症の一つに流行性角結膜炎(はやり目)がありますが、こちらは8型を中心に19型、29型、37型などが原因となる疾患で、結膜炎症状がより強く、角膜傷害を生じることがあります。
咽頭結膜熱は小児科外来を受診することが多いのですが、流行性角結膜炎はどの年齢層でも感染し、眼症状が中心なので眼科外来を受診されることが多いです。
咽頭結膜熱の感染経路とその対策
咽頭結膜熱は感染力が強く、家庭や小児施設内で感染が拡大することがあるので、周囲への感染対策が必要になります。ウイルスは唾液、鼻汁、涙、便などに含まれていて、感染経路は飛沫感染、接触感染です。感染対策が必要なのは有症状期間であり、解熱とともに感染性は下がりますが、便中などには数週間程度は少量のウイルスが排泄され続けます。
飛沫感染対策としてはマスク着用など咳エチケットの指導が必要です。家庭で厳格な接触感染対策を行うことは現実的ではありませんが、手洗いを励行し、タオルの共用などを避けてもらいます。プールで流行するのはウイルスが便中に多く排泄されるためと考えられています。以前は学校などで咽頭結膜炎の予防を主な目的としてプール使用後に蛇口が上を向いた水道で眼を洗うように指導されていましたが、効果は不明なこともあって最近では積極的には推奨されていないようです(2)。
アデノウイルスは乾燥に強く、環境表面で長く感染力を保ちつづけることができます。また、ウイルスの構造としてエンベロープを持たないウイルスのため、アルコールなどの消毒剤に比較的抵抗性があることには留意しておく必要があります。
咽頭結膜熱は、感染症法では5類感染症定点把握疾患に指定されているので、定点医療機関で診断した場合には発生届を提出する必要があります。また学校保健安全法上の学校感染症の一つであり、主要症状がなくなった後、2日を経過するまで出席停止になります。
咽頭結膜熱が多く発症する時期
咽頭結膜熱は年中発症していますが、6月ごろから徐々に流行しはじめ、「プール熱」の名前にふさわしく7~8月にピークを迎えます(図2)。ただし冬場にも発生していることには注意が必要です。
咽頭結膜熱の処置・治療法
咽頭結膜熱の診断
咽頭結膜熱の診断は臨床症状、周囲の流行状況などから疑いますが、咽頭ぬぐい液や結膜ぬぐい液を検体として用いたアデノウイルス迅速診断キットを利用することができます。ただし、キットは簡便ですが、感度は60~80%と確実ではないので注意が必要です。
アデノウイルス抗体検査も利用できますが、血清型の判定はできないことと、咽頭結膜熱は自然治癒する比較的軽症の感染症であるため、使用される機会は少ないです。
咽頭結膜熱の治療法
咽頭結膜熱に対しての特別な治療方法はなく、発熱に対して解熱剤を使用するなどの対症療法が中心になります。症状は数日程度で自然に収まります。
咽頭結膜熱はシーズン中の小児科外来ではごく普通に見られる病気です。集団発生することがあるので、学校や家族など周囲に同様の症状の子どもがいないかを確認することが必要です。
また感染力の強い病気ですから、家庭内にほかに子どもがいる場合などは、家庭での感染対策が必要になることや、学校の出席停止について保護者に説明をしておく必要があります。
[引用・参考文献]
- (1)国立感染症研究所:感染症情報センターホームページ.感染症発生動向調査週報2006年第15号ダイジェスト:注目すべき感染症 咽頭結膜熱.(2017年6月閲覧)
- (2)財団法人日本学校保健会.学校における水泳プールの保健衛生管理.(2017年6月閲覧)
- (3)国立感染症研究所ホームページ.咽頭結膜熱 Pharygoconjunctival fever.(2017年6月閲覧)
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長
[Design]
高瀬羽衣子