咽頭結膜熱(プール熱)【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【14】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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望月由貴子
杏林大学医学部付属病院・小児救急看護認定看護師
〈目次〉
1咽頭結膜熱は5歳以下の小児に多い
咽頭結膜熱(プール熱)は、5歳以下の小児患者さんに多く見られる疾患です。ほとんどは軽症であり、治療は対症療法のみ行われますが、まれに重症感染症を生じる場合があります。
咽頭結膜熱は、アデノウィルスを原因とするウィルス感染症であるため、「結膜症状」「発熱」「頭痛」「咽頭炎」といった特徴的な症状のほかに、「胃腸炎」「腸重積」「肺炎」「心筋炎」「髄膜脳炎」「出血性膀胱炎」などを起こすこともあります。咽頭結膜熱が疑われる患者さんが来院した場合、注意して観察を行いましょう。
2感染対策
咽頭結膜熱のウイルスは、感染者ののどや鼻、眼、便などから排泄されます。感染経路は、飛沫、接触感染です。感染力が非常に強いため、外来での飛沫・接触感染に留意し、院内感染対策を行うことが重要になります。待合室などでもほかの患者さんに感染する可能性があるため、専用の待合室や診察室を確保することも感染対策の一つとなります。
前述した通り、咽頭結膜熱はアデノウィルスによる感染症です。アデノウィルスはアルコール消毒に対して耐性を示します。手指衛生を行う時は、擦式アルコール消毒ではなく、せっけんと流水手洗いで物理的にウイルスを洗い流すことが基本です。
患者さん周囲の環境消毒は、0.05~0.1%次亜塩素酸ナトリウムまたは、消毒用エタノールで清拭を行います。診察に用いた機器だけでなく、ドアノブやいすなど、患者さんの触れたものも消毒する必要があります。 また、感染患者さんの便からはウィルスが含まれるため、おむつの処理には注意が必要です。おむつ交換を行った後は、手洗いと院内の感染対策マニュアルに沿った処理を徹底しましょう。
感染拡大予防のためには、医療従事者だけでなく、患者家族への指導も必要になります(指導ポイントなどは後述)。
ナースの視点
1外来(来院時)のポイント
咽頭結膜熱の患者さんは、ほとんどが5歳以下の小児・乳幼児です。自ら症状や苦痛を明確に伝えることができない小児患者の状態を把握するためには、保護者から的確に病歴聴取することがポイントになります。
咽頭結膜熱は、発熱、頭痛、咽頭炎など、かぜ症状と類似しており、飛沫・接触感染です。そのため、外来受診された場合は、診断が確定するまでに周囲の患者さんに感染する可能性があるため、感染対策上の問診と観察、感染対策を実施し、感染拡大の防止に努める必要があります。
2問診・観察ポイント
はじめは保護者に、受診理由を聴取します。オープンクエスション(相手が自由に答えられる質問)で受診理由を聴取することで、保護者がどのように症状を捉えているのかが分かります(例:「今日はどのような症状でいらっしゃいましたか?」「何が一番つらそうですか?など)。次に、受診理由からキーワードを拾い上げ、咽頭結膜熱の特徴的な症状などに焦点を当て、クローズドクエスション(相手が「はい・いいえ」など、限られた選択肢で答える質問)で詳細を聴取していきます(例:「熱はいつから出ましたか?」「目の充血はいつからありましたか?」「食事は普段と同じようにとれていますか?」など)。
問診を行うに当たっては、「SAMPLR」と呼ばれる問診法を活用すると、正確かつ簡潔に行うことができます。
Signs/Symptoms(症状、訴え)
咽頭結膜熱の特徴的な臨床症状である「咽頭炎」「結膜症状」「発熱」の有無について聴取・観察します。
咽頭炎の症状は、咽頭痛、異物感、乾燥感です。ひどい咳・鼻症状を伴うこともあります。身体所見としては、咽頭の発赤、扁桃腺の腫大や白色滲出物の有無、頸部リンパ節の腫脹が見られます。扁桃腺の腫大に伴って気道狭窄が生じていないか、呼吸音を聴取して気道の開通性を確認しましょう。
結膜炎の症状は、眼痛、灼熱感、流涙、羞明です。身体所見としては、眼球・眼瞼結膜の充血・浮腫、非対称性眼病変が見られます。
発熱は、一般的に高熱の持続を主訴に来院することが多く、初発症状が発熱のみの場合もあります。下記の「Event prior to illness(発病前の出来事や経過)」や「Risk factor(リスクファクター生活歴や家族歴など)」と合わせて情報収集することが重要になります。また、下痢や腸重積を伴うこともありますので、嘔気・嘔吐、下痢の有無や排便の性状、腹痛の有無も確認しましょう。
Allergies(アレルギー)
結膜炎症状は、アレルギー症状でも見られるため、アレルギーの有無を聴取します。
Medications(服用歴)
咽頭結膜熱は3~5日ほど症状持続期間があります。受診日よりも前に症状があったか、受診歴や薬の服用歴を聴取します。
Past medical history(既往歴)
咽頭結膜熱の多くは軽症ですが、免疫不全児などの感染症を生じやすい既往のある患者さんには注意が必要です。また、高熱を伴う場合は痙攣を伴う場合もあるため、既往歴の確認が必要になります。
Last meal(最後に食事を摂取した時間、食事量)
脱水を生じやすい小児では、通常より飲食の量が減っているかを聴取し、脱水の有無を観察します。具体的には、食欲はあったのか、哺乳力はどうだったのか、受診前の食事、水分摂取状況、尿の回数や量、色などを確認します。
口腔内の乾燥の有無や皮膚の張りがあるかを観察することも脱水の評価になります。また小児はエネルギーの貯蓄量が少ないため、経口摂取不良により容易に低血糖を来します。水分摂取ができていたとしても、糖分が入っているものかを確認する必要があります。「いつもより活気がない」といった状態には注意が必要です。
Event prior to illness(発病前の出来事や経過)
咽頭結膜熱の潜伏期間は5~7日のため、症状出現より一週間前までの周囲の流行や接触者の有無を確認します。咽頭結膜熱は、「プール熱」と別名があるようにプールにおける感染流行もあるため、一週間ほど前にプールに入ったことがあるかも確認します。
Risk factor(リスクファクター生活歴や家族歴など)
免疫獲得過程にある小児患者さんの場合は、予防接種歴や周囲の生活環境を確認することが重要です。兄弟や姉妹の罹患の有無や学校、保育園、幼稚園での流行性疾患がないか確認します。
3看護のポイント
咽頭結膜熱は、一般的に特異的な治療はなく、対症療法が中心になります。咽頭結膜熱に罹患中の体温上昇期に悪寒や末梢冷感が見られる場合には、部屋を温かくし、毛布などの掛け物、電気毛布などで保温します。寒気や悪寒戦慄が治まった高温期は、掛け物・衣類を薄くしてクーリングを行いましょう。
咽頭結膜熱の患者さんは、発熱や咽頭痛により食欲が低下することがあります。食欲がなければ無理に摂取させる必要はありません。果物やヨーグルト、ゼリー、麺類などは比較的摂取しやすいため、患者さんが摂取できる範囲で勧めましょう。しかし、小児の場合は水分摂取が低下すると容易に脱水を起こすため、注意が必要です。ジュースやイオン飲料水など子どもが好んで飲めるものをこまめに与えましょう。
4保健指導のポイント
学校保健安全法では、学校感染症第2種に定められており、主な症状がなくなった後2日を経過するまで出席停止とされています。この間は、自宅で安静に努め、(潜伏期間も含めて)他者との接触を避けるよう指導します(表1)。
5施設内関係部署への連絡
咽頭結膜熱は、学校保健安全法で、学校感染症第2種に定められていることからも、感染拡大への十分な注意が必要であるという認識が医療従事者には求められます。各地方衛生研究所および国立感染症研究所のホームページで患者発生動向を確認しましょう。
アデノウイルス感染症による結膜炎には、咽頭結膜熱と流行性角結膜炎があります。アデノウイルスの型に違いがあり、小児には咽頭結膜熱が多いですが、成人には流行性角結膜炎が多く発症します。
医療従事者が、アデノウィルスによる結膜炎(流行性角結膜炎)を発症した場合は、施設内の感染対策部門への連絡も必要です。潜伏期間を含めた接触感染予防策を遵守し、院内感染拡大の予防に努める必要があります。流行性角結膜炎を発症した医療従事者は、眼に症状が出現した日から14日間は、患者への直接的な接触を避けるべきであるとされています。
[引用・参考文献]
- (1)日本小児感染症学会編.日常診療に役立つ小児感染症マニュアル2012.東京医学社,2012,768p.
- (2)堀越裕歩.アデノウイルス感染症.小児科診療.78(10),2015,1343-8.
- (3)尾崎孝雄ほか監.小児感染症のイロハ:感染看護に必要な知識と対策.日総研出版,2013,232p.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子