ヘルパンギーナ【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【13】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
古宮伸洋
日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科
〈目次〉
- ヘルパンギーナってどんな疾患?
- ヘルパンギーナの原因ウイルス
- ヘルパンギーナの感染経路とその対策
- ヘルパンギーナの処置・治療法
- ヘルパンギーナの症状・診断
- ヘルパンギーナの治療法
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
ヘルパンギーナってどんな疾患?
ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜の水疱性発疹を特徴とする、急性のウイルス性咽頭炎です。咽頭結膜熱(プール熱)、手足口病とともに、夏風邪の代表的疾患です。
ヘルパンギーナ(Herpangina)とは変わった病名ですが、水疱ができる病気のヘルペス“Herp(es)”と咽頭の病気を表す“Angina”から成り立っている言葉のようです。
乳幼児に多い感染症であり、患者の9割以上は5歳以下です。また、季節性がはっきりしていて毎年6月ごろから急速に増加し、7~8月にピークを迎えます(図1)。冬場にはほとんど見られません。
図1へルパンギーナの年別・週別発生状況(2000~2010年第26週)
ヘルパンギーナの原因ウイルス
ヘルパンギーナの原因はエンテロウイルス属に属するウイルスですが、年や地域ごとに流行ウイルスが異なります。近年ではコクサッキーウイルスA群が多く報告されています(図2)。ウイルスは一種類だけではないため、同じ患者が何度か罹患する可能性があります。
図22016年に国内で検出されたヘルパンギーナの原因ウイルスの分類
エンテロウイルスの「エンテロ」は「腸管」の意味で、腸管内で増殖できるウイルスです。エンテロウイルス属は種類が多く、分類が非常にややこしいです。ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルスなどがエンテロウイルス属に含まれており、それぞれに多くの血清型があります。
夏場の風邪や胃腸炎の原因として重要な病原体ですが、血清型によっては髄膜炎、心筋炎、手足口病など多彩な症状を引き起こすことがあります。同じ血清型でも病原性が異なる場合もあって、例えばコクサッキーA6はヘルパンギーナの原因となることもあれば、手足口病の原因になることもあります。エンテロウイルス属はいずれも温帯地域では夏に流行することが多いのですが、熱帯地域では通年、特に雨季に流行しています。
ヘルパンギーナの感染経路とその対策
ヘルパンギーナのウイルスは唾液、鼻汁、便などに含まれていて、感染経路は飛沫感染、接触感染です。病初期に感染性が強く、解熱するころには感染性が低下していますが、便中へのウイルスの排泄が遷延することがあります。
飛沫感染対策としてはマスク着用など咳エチケットの指導が必要です。家庭内で厳格な接触感染対策を行うことは現実的ではありませんが、手洗いを励行する必要があります。エンテロウイルスはウイルスの構造としてエンベロープを持たないウイルスのため、胃酸などへも抵抗性があり、アルコールなどの消毒剤に比較的抵抗性があることには留意しておく必要があります。
ヘルパンギーナは、感染症法では5類感染症定点把握疾患に指定されているので、定点医療機関で診断した場合には発生届を提出する必要があります。発熱などの症状がある期間は、ほかの人に感染させる可能性があるので幼稚園や学校などはお休みしていただく方がよいでしょう。学校保健安全法では第三種の「その他の感染症」に指定されていて、流行状況等によっては出席停止の措置が取られる場合もありますが、一律な規定はありません。
ヘルパンギーナの処置・治療法
ヘルパンギーナの症状・診断
ヘルパンギーナは、急激な発熱、頭痛、筋肉痛などが見られ、引き続いて咽頭痛が出現することが多いです。咽頭痛の出現から1日以内には軟口蓋や口蓋垂に2~4mm程度の小さな紅斑ができ、それが水疱、潰瘍になってきます。
口腔内病変は咽頭後壁や頬などにも見られることがあります。重症感はあまりありません。しかし、ヘルパンギーナは前述したとおり、乳幼児が罹患することが多いため、強い咽頭痛により不機嫌になったり、哺乳を嫌がることがあります。発熱は2~4日で軽快しますが、潰瘍や咽頭痛はもう少し遷延することがあります。大人が感染した場合は無症状か発症しても症状は軽いことが多いです。
ヘルパンギーナの咽頭所見は比較的特徴的なので、症状所見と周囲の流行状況などと合わせて臨床的に診断します。血液でエンテロウイルスの抗体検査を行う方法もありますが、さまざまなウイルスが原因になることや、2回の採血(ペア血清)が必要であること、あまり重症化する病気でないことなどから通常は行いません。
ヘルパンギーナの治療法
ヘルパンギーナには特別な治療方法はありませんが、症状は数日程度で自然に治まります。治療は、発熱に対して解熱剤を使用するなど対症療法が中心になります。
ただし、嚥下痛のために食事や水分摂取量が低下して脱水になることがあるので注意が必要です。刺激の強い飲料や食事(酸味、塩分が多いなど)は痛みを悪化させるので、乳幼児にはミルクなどの方が飲みやすい場合があります。
ヘルパンギーナは乳幼児に多い夏の病気です。乳幼児は症状を訴えることができないので、普段と違って機嫌が悪い、哺乳しないといったサインからこの病気を疑う必要があります。
比較的軽症ですむ病気ではありますが、保育所などで急激に広がることもあるので、手洗いなどの感染対策をしっかり行う必要があります。
[引用・参考文献]
- (1)国立感染症研究所:感染症情報センターホームページ.感染症発生動向調査週報2010年第26週:注目すべき感染症 ヘルパンギーナ.(2017年7月閲覧)
- (2)国立感染症研究所.病原微生物検出情報.(2017年7月閲覧)
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長
[Design]
高瀬羽衣子