溺水【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【12】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→溺水【疾患解説編】はこちら
早田修平
和歌山労災病院ICU・ER 救急看護認定看護師
〈目次〉
溺水は、水に浸かっていた時間と低酸素症の程度が予後を左右します。そのため、来院と同時に迅速な対応が求められます。来院前の受け入れ準備と来院後の適切な評価とケアが重要です。
治療・検査中に看護師として気を付けておかなければならないポイントを解説します(表1)。
1受け入れ準備について
まず、プレホスピタル(病院前救護)の情報を評価します。溺水の原因や現場、現在の患者状態に関する情報を共有し、物品の準備を行います。
溺水の原因は、海や川などへの飛び込みや転落による脳損傷や頸髄損傷などの外因性疾患、脳卒中や急性冠症候群などの内因性疾患、アルコールまたは薬物使用などさまざまです。そこで、救命救急士や家族、発見者などからアセスメントに必要な情報を意図的に収集します。
溺水の現場がプールや海などの冷水の場合は、低体温の可能性が高く、復温物品を準備します。また、風呂や入浴施設などの温水の場合は、高体温の可能性が高く、冷却物品を準備します。
来院前の状態が心肺停止であれば、二次救命処置に必要な物品を準備します。溺水による心肺停止では胃内に貯留した液体の誤嚥を防ぐため、胃管を挿入しなければいけません。また、意識があり、受け答えができる場合は、酸素化能の程度により酸素投与の方法を検討する必要があります。事前情報を参考にして呼吸ケアに必要な物品を準備しましょう。
2評価とケア
気道の評価とケア
溺水は、肺に水が入って窒息する湿性溺水と、水が入ったときに反射的に喉頭痙攣が起こって窒息状態になる乾性溺水があります。どちらの場合でも、窒息から低酸素症になり、心肺停止に陥ります。気管挿管や気管切開術を行うことを想定しておく必要があります。
また、頸髄損傷を強く疑う場合は、頸椎保護のため、下顎挙上法(図1)で気道確保を行います。頭部後屈顎先挙上法は禁忌ですので注意してください。
動画はこちら
呼吸の評価とケア
心肺停止の場合
溺水患者さんは、肺内に入った液体(水など)により、肺胞の表面活性物質が洗い出されることや、変性が生じるために、肺胞虚脱や無気肺が生じ、酸素化能が著しく低下します。そのため、心肺停止状態であれば、人工呼吸器を装着するため、終末呼気陽圧(PEEP)がかけられる人工呼吸器やジャクソンリースがあれば準備しておくと良いでしょう。
また、末梢循環が悪く、経皮的酸素飽和度(SpO2 )が測定できない場合もあります。その場合、動脈血ガス分析で酸素化能を頻回に評価します。
意識がある場合
患者さんに意識があり、受け答えができる場合は、酸素化能に応じて酸素投与の方法を検討します。
例えば、リザーバー付きマスクで高濃度酸素投与を行うことで、経皮的酸素飽和度(SpO2)が改善できるのであれば、そのまま経過観察となります。しかし、経皮的酸素飽和度(SpO2)の改善がない場合は、非侵襲的陽圧換気(NPPV)やネーザルハイフローなどの気管挿管が不要で、かつ終末呼気陽圧(PEEP)がかけられる人工呼吸器が必要となります。
また、たとえ意識があっても、溺水では、72時間以内に呼吸状態が悪化する可能性が高いと言われているため、入院後も十分な観察が必要です。
循環の評価とケア
心肺停止状態であれば絶え間ない胸骨圧迫を実施し、3~5分ごとにアドレナリンを投与します。心室細動や脈のない心室頻拍では、除細動器によるショックを行います。
冷水での溺水や小児の場合は、静脈路確保が困難となる場合が多いため、骨髄路確保の準備も必要となります。また、低体温の場合は加温された輸液の準備もしておきましょう。
意識があり、受け答えができる場合や自己心拍が再開した場合は、溺水の原因を検索します。急性冠症候群や不整脈による失神発作の可能性があるため、胸痛の有無や既往歴などの情報収集、採血や十二誘導心電図、超音波検査による評価も必要となります。
意識(中枢神経系)の評価とケア
脳は低酸素による障害を最も受けやすく、時間経過とともに拡大していきます。そのため、来院後は迅速に気道・呼吸・循環を安定化させなければなりません。また、中枢神経系の評価として意識レベル、瞳孔所見や対光反射の有無、麻痺などの神経症状の観察を行います。
さらに、意識が障害されたことによって溺水した可能性があります。そこで、アルコールや薬物使用、低血糖、脳卒中などの評価を行います。意識がある場合や自己心拍が再開していれば全身観察を行い、必要に応じて画像検査を行います。
低体温・心肺停止状態の場合、低温が脳保護の役割を果たします。高体温に比べ障害なく蘇生できる場合がありますので、長時間水没していたとしても精力的に救命処置を行う必要があります。
体温の評価とケア
溺水では、低体温・高体温にかかわらず、深部体温をモニターしながら体温管理を行う必要があります。濡れた衣服は体温低下を助長するため除去し、身体を乾いたタオルなどで清拭します。その際、プライバシー保護や羞恥心に配慮して行うようにしましょう。
低体温の場合
低体温の場合、深部体温が32℃以下であれば蘇生薬剤や除細動に反応しないことが多いため、積極的な復温を行います。復温方法は施設によって異なると思いますが、経皮的心肺補助装置(PCPS)が有効な場合があります。電気毛布やブランケットも必要となりますので準備しておきましょう。
また、蘇生に成功すれば脳低体温療法を行う場合があるので、開始するタイミングを医師と相談する必要があります。
高体温の場合
高体温の場合、深部体温が42℃を超えると組織が崩壊し始め、多臓器不全に陥ります。その場合には深部体温が38℃になるまで積極的な冷却が必要になります。脳低体温療法時に用いる体温管理装置があれば準備しましょう。もし、体温管理装置がなければ濡れタオルなどを体表に置き、扇風機で送風し、気化熱を利用して冷却しましょう。
ナースの視点
溺水は特殊な病態です。それを理解しておかなければ、効果的な看護実践は提供できません。また、来院前からの準備が重要であり、チームで情報共有し役割を決めておきましょう。
また、来院後は迅速な対応が求められます。実践した処置やケアの後は、必ずバイタルサインの変化や患者さんの反応を評価しましょう。
患者さんの搬送や画像検査などはリスクを伴います。安全を確保するために、搬送時の人数調整や持参物品を話し合いましょう。
また、海や川での溺水では、砂利が体に付着している場合があります。MRI画像検査を行う場合は、バイタルサインに注意しながら砂利を洗い流しましょう。
溺水患者さんが心肺停止状態や予断を許さない状態であれば、家族への精神的ケアが必要となります。家族の反応を捉えつつ、必要であれば感情表出ができる場所を確保し、家族の支援者となれる人物に来院してもらうなどの対応が必要となります。
また、子どもの溺水の場合、虐待や暴行事件などが隠れている場合があります。全身に多数の打撲痕や古い傷跡がないかもチェックします。それらが強く疑われる場合は、児童相談所や警察への通報も考慮しなければいけません。
[文 献]
- (1)大坂 勉.佐藤憲明編著.溺水(浸漬)状態の患者を発見した!.急変対応のすべてがわかるQ&A.東京,照林社,2011,228-229.
- (2)執筆者.日本救急医学会監.論文タイトル.標準救急医学.第4版.東京,医学書院,2009,506-507.
- (3)日本蘇生協議会.第2章成人の二次救命処置.JRC 蘇生ガイドライン2015オンライン版.(PDF、2017年1月閲覧)
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子