在宅人工呼吸療法では、どんな制度が使えるの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「在宅人工呼吸療法に関する制度」に関するQ&Aです。
原口道子
東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト主任研究員
在宅人工呼吸療法では、どんな制度が使えるの?
〈目次〉
HMV(在宅人工呼吸療法)に関する制度
HMVに対して使用できる制度を表1~表4にまとめる。ここでは、人工呼吸器を装着する療養者に関連するもののみ示すため、各制度の体系・詳細は成書を参照されたい。
なお、自治体によっては独自事業があるため、実施に際しては自治体窓口への確認が必要である。
機器の供給・管理について(表1)
表1 診療及び在宅人工呼吸管理に関連する診療報酬【医療保険】
HMVに関する機器の供給と管理(医師による在宅人工呼吸器等の供給および診療・指導)、訪問看護は医療保険が適用される。
介護保険対象者(特定疾病:表A参照)には通常、介護保険サービスが優先されるが、HMVは「厚生労働大臣が定める疾病等(表B)」であり、医療保険の適用となる。
介護保険における特定疾病
医療保険における厚生労働大臣が定める疾病等
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- 筋萎縮性側索硬化症
- 脊髄小脳変性症
- ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症
- パーキンソン病関連疾患(進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症[パーキンソン病関連疾患]パーキンソン病; ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る)
- 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症およびシャイ・ドレーガー症候群)
- プリオン病
- 亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱随性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頸髄損傷
- 人工呼吸器を装着している状態および急性増悪期の場合
- 末期の悪性腫瘍
訪問看護について(表2)
表2訪問看護【医療保険】【難病事業】
HMV患者は、健康管理や療養生活支援を行う訪問看護を週4回以上利用可能である(通常週3回まで)。1日に複数回訪問する場合の加算制度の適用となり、特別管理加算の対象となる。さらに、週7回の訪問看護が計画されている場合は3か所の訪問看護の利用が可能である。
在宅移行に向けて、入院中でも月に2回まで外泊中の訪問看護が利用でき、退院当日の訪問看護について退院支援指導加算の算定が可能である。
訪問リハビリテーションについて(表3)
訪問によるリハビリテーション【医療保険】【介護保険】
※訪問看護事業所から訪問して人工呼吸器装着患者のリハビリテーションを行うことは「訪問看護(医療保険)」となる
■ 医療保険によるリハビリテーション
□ 在宅訪問リハビリテーション指導管理
→ 病院・診療所からの訪問によるリハビリテーション
□ 訪問看護事業所から「訪問看護」としてのリハビリテーション
■ 介護保険法によるリハビリテーション
□ 訪問リハビリテーション(居宅サービス)
訪問リハビリテーションは、原疾患や長期療養に伴う身体機能や言語機能の低下予防・軽減のために行われる。
訪問リハビリテーションは、病院や診療所および訪問看護事業所から利用することができ、介護保険および医療保険の適用となる。
介護サービスについて(表4)
在宅での日常生活を支援する介護サービスは、介護保険による訪問介護や訪問入浴介護を利用できる。
HMVによって常時介護を必要とする場合には、障害福祉サービスである重度訪問介護や重度障害者等包括支援によって長時間の介護サービスを利用できる。
家族介護者の負担軽減等のために、定期的な短期入所サービスを計画的に組み合わせて利用することによって、安定した療養生活が送れるよう体制を整備することが重要である。
【介護保険法によるサービス】
※対象は、65歳以上の者(第1号被保険者)と40歳以上の特定疾病
要介護認定(要支援1・2、要介護1~5)に基づき、介護支援専門員が介護サービス計画書を立案し、計画に従ったサービスが提供される。
【障害者総合支援法によるサービス】
障害支援区分認定(1~6)によってサービスを選択する
対象の年齢制限はなく、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)に加えて、平成25年4月より、一定の難病の患者が対象として加えられた。
上記により、従来の難病対策事業「難病患者等居宅生活支援事業」のうち「難病患者等ホームヘルプサービス事業」「難病患者等短期入所事業」「難病患者等日常生活用具給付事業」は、それぞれ障害福祉サービスに移行された。
[文献]
- (1)石原英樹:在宅人工呼吸療法(HMV).呼吸ケア2009;7(7):97-98.
- (2)石原英樹,坂谷光則,井上義一,他:在宅呼吸ケアの現状と課題−平成19年度全国アンケート調査結果−.労働科学研究費補助金難治性疾患克服事業呼吸不全に関する調査研究班平成19年度研究報告書2007:60-63.
- (3)宍戸克子:在宅人工呼吸療法.呼吸ケア 2009;夏季増刊:247-256.
- (4)木村謙太郎:在宅酸素療法.在宅人工呼吸療法導入背景と現状、実際.在宅呼吸療法事業ハンドブック2003,アズクルー,大阪,2002.
- (5)中山優季:在宅人工呼吸ケア.道又元裕編,人工呼吸ケア「なぜ・何」大百科,照林社,東京,2005:457.
- (6)中山優季:在宅人工呼吸療法の実際.道又元裕,小谷透,神津玲編,人工呼吸管理実践ガイド,照林社,東京,2009:292-302.
- (7)原口道子:在宅での看護職員と介護職員等との連携のポイント.コミュニティケア2012;14(12):53-57.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社