術後の持続点滴って必要?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「術後の持続点滴」に関するQ&Aです。

 

瀧藤克也
和歌山県立医科大学中央内視鏡部・第二外科 准教授・次長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

術後の持続点滴って必要?

 

術後の持続点滴は、必ずしも必要ではありません。

 

〈目次〉

 

なぜ手術後に持続点滴を必要とするのか

手術後に持続点滴を必要とする理由は大きく分けて2つあります。

 

1.持続的な静脈内薬剤投与が必要なとき

カテコラミンなど、急速に投与すると血中薬剤濃度の急激な上昇により致死的な状態を引き起こす可能性のある薬剤は時間をかけてゆっくり静脈内に投与します。プロスタグランジン製剤のフローラン (肺高血圧症に対する注射薬)のような作用時間が極端に短い薬剤も、持続的に点滴静注する必要があります。

 

また、電解質カリウムは、急速に静脈内に投与すると致死的な不整脈を起こすので絶対に行ってはなりません。

 

2.静脈内への薬剤投与経路を確保する

静脈内投与ルートは即効性を期待する薬剤の投与経路として重要で、血圧が急に下がるような緊急時には末梢の静脈が虚脱するため確保が難しくなります。そこで、手術後状態が安定するまでは静脈内投与ルート(留置針)が血栓で閉塞しないように、持続点滴によりルートを確保しておく必要があります。

 

目的によっては必ずしも持続点滴が必要でない

消化器外科手術後は一時的に経口摂取ができなくなるため、水分・電解質・栄養素(エネルギー、ビタミン)などの補充を目的に輸液が行われます。

 

大事なことは症例ごとに1日どれだけの水分、電解質、栄養素が必要かを決めることで、それを持続的に投与するか間欠的に投与するかは通常大きな問題にはなりません。事実、水・電解質代謝異常、呼吸不全、循環不全、腎不全といった病態が存在しない場合の術後輸液では、1日の必要量を2回に分けて朝・夕に点滴静注することもあります。

 

ただ、栄養素の投与には投与スピードの上限があり、例えばブドウ糖では5mg/kg/分以下、アミノ酸は10〜15g/時以下、脂肪乳剤は脂肪として0.1g/kg/時以下にしなくてはいけません。

 

最近では術後回復強化(enhanced recovery after surgery:ERAS(周術期管理を変える“ERAS” とは?)参照)プロトコルの1つとして、過剰な輸液、ナトリウム負荷を避けることで縫合不全、イレウス(腸閉塞)、および心肺合併症を減少できることが証明され(1)、できるだけ早期に点滴を中止し、飲水を開始することが推奨されています。結腸がんの術後では手術翌日に持続点滴を中止して経口摂取を開始したほうが入院期間も短く、医療費の軽減にもつながりました(表1)。

 

表1持続点滴の期間と術後経過*

持続点滴の期間と術後経過

 

持続点滴はどう行う?

一時的かつ短時間の点滴静注には通常の注射針(翼状針)が用いられます。点滴の終了時に抜針するので、次の点滴をするときには再度静脈内に注射針を留置する必要があります。また、点滴時には穿刺部を動かすと留置した注射針で静脈を傷つけ輸液が血管外に漏れてしまうことがあり、点滴中は動かないのが望ましいといえます。

 

一方、留置針は、テフロンないしポリウレタン製のやわらかい外筒を留置するので穿刺部の動きにも強く、長時間(48~72時間程度)の留置に耐えます。何より留置中は新たに静脈確保をする必要はなく、点滴静注の安定性および簡便さでは明らかに留置針のほうが有用です。消化器疾患術後では経口摂取が十分摂れるようになるまでの一定期間は持続点滴静注を行うことが多くなっているため、留置針を用います。

 

なお、留置針を使って点滴を間欠的に行うためには、点滴終了後数時間経つと留置針内に凝血塊がつまり閉塞してしまうため、点滴終了時に留置針内をヘパリン液あるいは生理食塩液で満たしておく(ヘパリンロックあるいは陽圧ロック)必要があります。

 


[文献]

  • (1)飯島毅彦:周術期輸液の考え方の変遷.日集中医 誌 2012;19:578-585.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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