術後の輸液は、多すぎるとよくないって本当?

 

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「術後の輸液」に関するQ&Aです。

 

佐々木剛
大阪市立総合医療センター薬剤部担当係長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

術後の輸液は、多すぎるとよくないって本当?

 

本当です。術後の輸液による過剰な水分やナトリウム負荷は、腸管浮腫により経口摂取が遅れるなど合併症のリスクを高めることがあります。

 

〈目次〉

 

多すぎる輸液はなぜよくない?

術後回復強化(enhanced recovery after surgery:ERAS(周術期管理を変える“ERAS” とは?)参照)プロトコルでは輸液管理に関して“水分およびナトリウムの過剰投与は避ける”ことが推奨されています。

 

以前は、大量の輸液を入れて循環を維持するという考え方が一般的でした。しかし最近では、術中および術後に過剰輸液およびナトリウム負荷を行うと消化管の浮腫が起こり、術後の排出能が障害され、経口摂取に障害が出て、術後の合併症が増加し、在院日数が延長するとの報告があり、輸液を制限したほうがよいという管理が行われます。

 

術後に1日3L以上で輸液を管理した群と、2L以下に抑えて管理した群の比較では、3L以上の群では体重が約3kg増加していますが、2L以下に抑えた群は体重の増加もなく、入院期間も非常に短いとのデータが出ており、輸液は過剰でないほうがよいとされています。

 

過剰栄養は合併症のリスクを高める

栄養投与量が必要量を大きく上回る過剰栄養(overfeeding)は、脂肪肝をきたすほか、感染症などさまざまな合併症のリスクを高めることになります(1)。また、慢性的な栄養障害を有する患者に、高エネルギーの輸液を急激に投与することで、refeeding syndromeが発生することもあるので、注意が必要です。

 

手術の侵襲度にもよりますが、術後の輸液投与の主目的は、術後の経口摂取不能に起因する不感蒸泄を補うことです。十分な利尿が得られるように維持輸液を行い、脱水ならびに輸液過剰にならないように注意しながら、適切な量を投与しましょう(表1)。

 

表1術後栄養管理の要点

 

  1. 1.術後早期(24~48時間以内)経腸栄養の開始
    →侵襲反応の軽減効果と感染予防効果
  2. 2.術後急性期は過剰エネルギー負荷を避け、血糖コントロール優先
    高血糖、酸化ストレス付加回避
  3. 3.骨格筋、腸管の不使用期間の短縮(早期リハビリテーション)
    →タンパク同化促進

 

乏尿時(尿量0.5mL/kg/ 時)の輸液負荷で過剰輸液にはなりませんか?

 

手術侵襲、基礎疾患などを考慮して乏尿時の輸液負荷を検討する必要があります。
例えば侵襲が大きい手術であれば、サードスペースへの体液の移動が多く、脱水に傾きやすいので、それを放置すると腎不全を発症する恐れがあります。もともと腎機能障害がある場合でも多めの輸液が無難でしょう(ただし、透析患者は除く)。
手術侵襲が小さく、腎機能も問題ないような患者では輸液は必要なく、過剰輸液による不利益のほうが大きくなる場合もあります。

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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