呼吸リハビリテーションの評価は、どんなことをすればいいの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「呼吸リハビリテーションの評価」に関するQ&Aです。
藤田吾郎
東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科
呼吸リハビリテーションの評価は、どんなことをすればいいの?
基本的なフィジカルアセスメントや呼吸器系の検査所見に加え、動作能力にかかわる評価や、人工呼吸器が提示するデータの評価が必要です。
〈目次〉
呼吸リハビリテーションの評価
呼吸リハビリテーションのプログラムには、患者への教育・指導として、疾患に関する指導、禁煙指導および環境因子の改善、薬物療法の指導、感染予防の指導、患者の生活に合わせた動作の工夫、栄養指導、在宅酸素療法や在宅人工呼吸両方の指導、疾患の自己管理、心理面の援助、社会福祉サービスの利用、そして呼吸理学療法と運動療法が含まれる。
したがって本来は、包括的評価として、臨床的所見やデータだけではなく、社会的背景も含めた情報を収集しなくてはならない。
呼吸理学療法と運動療法に関する評価項目については「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」において表1のように勧告されている。
A | 必須の評価 | 問診および身体所見、スパイロメトリー、心電図、胸部X線写真、呼吸困難感(安静時、労作時)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2) |
B | 行うことが望ましい評価 | パルスオキシメータを使った時間内歩行テスト(6分間歩行テストなど) |
C | 可能であれば行う評価 | QOL評価(一般的、疾患特異的)、運動負荷試験、肺気量分画、呼吸筋力、動脈血液ガス分析、心理的評価 |
日本呼吸管理学会,日本呼吸器学会編:呼吸リハビリテーションに関するステートメント.2001,http://www.jrs.or.jp/quicklink/guidelines/statement/pdf/rehabilitation.pdf(2014年11月 18日閲覧).より引用
人工呼吸器装着患者に対する呼吸リハビリテーションの評価
人工呼吸器を装着している患者の呼吸リハビリテーションでは、表1の項目に加え、ベッドレストやICU−AW*に伴う筋力低下などの筋骨格系の機能の評価や、栄養管理に関する評価も必要となる。
人工呼吸器管理下で運動を行うため、機器が提示する各種のパラメータや、状況によっては鎮痛・鎮静、せん妄などの評価も必須である。
集中治療管理下の患者の状態は刻々と変化するため、リハビリテーションを行う際には定期的に再評価を行わなければならない。
急性期や維持期といったステージによって状況はまったく異なるため、患者の状態に応じた評価項目の選択が求められる。関連する評価項目を表2に示す。
基本的情報 | 現病歴、既往歴、家族歴、喫煙歴(Blinkman指数)、職業歴、併発疾患、治療薬剤 |
身体所見 | バイタルサイン、視診(呼吸回数と深さ、呼吸パターン、呼吸補助筋、胸廓や脊柱の形状、皮膚温、チアノーゼ、ばち状指、頸静脈怒張、浮腫)、触診(胸廓の柔軟性、呼吸筋の筋緊張)、打診、聴診 |
臨床症状 | 呼吸困難感(VAS*、OCD*、Borg CR-10* Scale、mMRC* Scale 、BDI*、TDI*、咳、痰 |
検査所見 | 肺機能検査(スパイロメトリー、肺気量分画、肺拡散能など)、動脈血液ガス分析、動脈血酸素飽和度、カプノメトリー、胸部X線、胸部CT、肺血流・換気シンチグラフィー、心電図、心エコー、肺動脈カテーテル検査、最大吸気筋力(口腔内圧)、運動耐用能(6分間歩行試験、シャトルウォーキングテスト、心肺運動負荷試験) |
栄養評価 | 身長、体重、BMI*、FFM*、血清アルブミンなどの栄養関連データ、栄養管理方法 |
筋骨格系・身体活動関連 | 徒手筋力検査、握力、関節可動域検査、痛み、身体活動量、EIH*の有無 |
ADL | P-ADL*、NRADL* |
QOL | CRQ*、SGRQ*、CAT* |
心理社会的評価 | HADS*、CES-D*、GHQ* |
精神・神経症状 | 意識レベル(GCS*、JCS*)、鎮痛(VAS*、NRS*、フェイス・スケール)、鎮静(Ramsay Score、SAS*)、せん妄(CAM-ICU*) |
人工呼吸器関連の各種パラメータ | モードなど各種設定、肺メカニクス、グラフィック波形、加温加湿、回路・接続部の状況 |
- ICU−AW(ICU-acquired weakness)
- VAS(visual analogue scale)
- OCD(oxygen cost diagram)
- CR-10(category-ratio10)
- mMRC(modified medical research council)
- BDI(baseline dyspnea index)
- TDI(transition dyspnea index)
- BMI(body mass index)
- FFM(fat-free mass):除脂肪体重
- EIH(exercise induced hypoxemia):運動誘発性低酸素血症
- P-ADL(pulmonary emphysema-ADL):肺気腫患者用ADL評価表
- NRADL(Nagasaki university respiratory activities of daily living questionnaire):長崎大学呼吸器日常生活評価表
- CRQ(chronic respiratory disease questionnaire)
- SGRQ(St. George’s respiratory questionnaire)
- CAT(COPD assessment test)
- HADS(hospital anxiety and depression scale):不安・抑うつ測定尺度
- CES-D(center for epidemiologic scale of depression):うつ病自己評価尺度
- GHQ(general health questionnaire):精神健康調査
- GCS(Glasgow Coma Scale):グラスゴーコーマスケール
- JCS(Japan Coma Scale):ジャパンコーマスケール
- VAS(visual analog scale):ビジュアルアナログスケール
- NRS(numeral rating scale):数値評価スケール
- SAS(sedation-agitation scale)
- CAM-ICU(confusion assessment method for the ICU)
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社