病棟での発熱、チェックすべき症状と医師への報告のポイント

『エキスパートナース』2015年1月号<臨床の裏ワザ・裏知識>より抜粋。
病棟での発熱、チェックすべき症状と医師への報告のポイントについて解説します。

 

髙岸勝繁
京都岡本記念病院総合診療科医長

 

〈目次〉

 

はじめに

入院患者さんの突然の発熱というエピソードは、誰しも一度は経験があると思います。このとき重要な点は以下です。

 

  1. 敗血症性ショックではないかどうか
  2. 菌血症のリスクはどの程度あるか
  3. 発熱のフォーカスはどこか

①の敗血症性ショックの場合は、血圧の低下や意識障害も認められることが多いため、すぐに医師へのコールが必要です。

 

今回は、それ以外の②、③についてどのポイントに注意して評価するかを説明します。

 

菌血症のリスク評価は「悪寒戦慄」と「SIRS」でみる

1菌血症のリスク評価とは

菌血症とは“血中に細菌が存在している状態”で、血液培養検査は陽性になります。当然、菌血症があれば重症感染症になりやすく、抗菌薬も必須であり、評価は重要です。

 

では、40℃の発熱を認める患者さんと、37.8℃の患者さんで、菌血症のリスクはどちらが高いでしょうか?

 

じつは37.8℃のほうがリスクが高かったりします。

 

血液培養陽性例4,566例と、陰性例25,946例を比較した研究(文献1)によると、40℃以上の発熱の場合はむしろ菌血症のリスクが下がるという結果でした。最もリスクが高いのは37.8~39.0℃の範囲でした。

 

ただし、これは臨床的にあまり大きな差はないため、あくまでも“トリビア”として覚えておいてください。

 

2チェックするポイントは“悪寒戦慄“と“SIRS”

ではどのような所見が、より菌血症の可能性を上昇させるのでしょうか?

 

重要なのは“悪寒戦慄”です。悪寒は寒気のことですが、戦慄というのは実際に震えることです。悪寒戦慄とは「寒気を感じて震えるという行為」をいいます。

 

この悪寒戦慄は、程度に応じて3つに分類されます。

 

  1. 軽度の悪寒戦慄:上着を必要とする悪寒
  2. 中等度の悪寒戦慄:毛布を必要とする悪寒
  3. 高度の悪寒戦慄:毛布をかぶっても全身性の震えがある悪寒

 

このなかで中等度以上の悪寒戦慄がある場合、菌血症のリスクが高まります(4倍程度)。また高度の悪寒戦慄がある場合は、ない場合と比較してリスクは12倍にもなります(文献2)。

 

ということで、医師の立場からも「○○号室の××さんが熱発してます」よりも、「○○号室の××さんが熱発して、布団をかぶっていても震えています」と言われるだけで、だいぶ印象が異なります。

 

それ以外に重要な所見としては、やはりSIRSの項目でしょう。SIRSはsystemic inflammatory response syndromeの略で、全身性炎症反応症候群と訳します。

 

表1の4項目中2項目以上を満たす場合に、SIRSと判断されます。これを満たす発熱も菌血症のリスクが高く、注意すべきです。

 

よって、報告時に体温以外に心拍数呼吸数、血圧も一緒に報告してもらえると、より迅速な判断が可能となります。

 

表1全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準

全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準

 

発熱する前までの状況、症状からフォーカスを絞る

患者さんの状態、年齢にもよりますが、一般的に、入院中の発熱で多い原因は表2の通りです。

 

表2入院患者の発熱の原因

入院患者の発熱の原因

 

熱発する前までの状況、症状からフォーカスを絞り、身体所見評価や検査につなげていくため、これらを評価するための情報は重要です。特にふだんとの比較で判断することが多いので、いつもどのような状態であったかを把握しておくと、なおよいと思います。

 

誤嚥性肺炎では嚥下機能低下、咳嗽の増加、喀痰量の増加、酸素化の低下があることが多く、また実際食事で誤嚥、むせたエピソードがあることも多いです。

 

尿路感染症では長期間のカテーテル留置がリスクとなりますし、カテーテル内の尿の混濁も感染前に認められることがあります。

 

関節炎蜂窩織炎では清拭やおむつ交換の際に痛がるそぶりを見せたり、関節を動かさなくなったりすることで発見されることがあります。発症前に外傷歴があることも多く経験します。主に膝で多いため、注意してみてください。

 

ルート感染症も毎日ルート刺入部を確認することで皮膚の発赤や静脈に沿った疼痛、発赤腫脹が検出できることがあります。

 

薬剤性では新規に開始した薬剤のチェックが重要です。

 

クロストリジウム・ディフィシル関連腸炎は主に抗菌薬による菌交代現象が原因であり、下痢と発熱を認めます。

 

褥瘡や深部静脈血栓症も発熱の原因になります。寝たきりで体動ができない場合にリスク因子となるため、下肢の浮腫や褥瘡の様子もチェックしてみてください。

 


 


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P.12~「臨床の裏ワザ・裏知識」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年1月号/ 照林社

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