ドセタキセル療法(看護・ケアのポイント)/前立腺がん

この連載では、抗がん剤のポイントや注意点について解説します。

 

今回は、前立腺がん(前立腺癌)の患者さんに使用する抗がん剤「ドセタキセル療法」についての話の第2話です。

 

第1話:『ドセタキセル療法(化学療法のポイント)/前立腺がん

ドセタキセル療法

 

和田耕一郎
(岡山大学病院 泌尿器科)

 

ドセタキセル療法のポイントA・B・C

  • ポイントA:ドセタキセルのなかにはアルコールが含まれているため、アルコール過敏症の患者さんには投与しないよう注意しよう!
  • ポイントB:ドセタキセルの点滴投与によって、即時型アレルギーアナフィラキシーショック)が起こることがあるため、バイタルをこまめにチェックしよう!
  • ポイントC:副作用として、好中球減少症の頻度が高いため、発熱に注意しよう!

 

〈目次〉

 

必ず覚えて! ドセタキセル療法の注意点

投与前の注意点

投与前には、薬剤の投与方法に間違いがないかのチェックが必要です。

 

まず、投与する患者さんにアルコールアレルギーがないかチェックします。アレルギーとまではいかなくても、いわゆる「お酒に弱い」患者さんは注意が必要です。

 

次に、ドセタキセル(タキソテール)と同じ系統の抗がん剤で「パクリタキセル(タキソール)」がありますが、投与する薬剤の種類に間違いがないかチェックします。投与の際には、バイタルサインをチェックして開始します。多くの施設で、ドセタキセル(タキソテール)の投与開始前に、ステロイドのデキサメタゾン(デカドロン)が投与されます。

 

ドセタキセル療法のポイントA

  • ドセタキセルのなかにはアルコールが含まれているため、アルコール過敏症の患者さんには投与しないよう注意しよう!

 

投与中の注意点

ドセタキセル(タキソテール)の投与開始後、アナフィラキシー反応の有無について観察を行います。特に、皮疹や呼吸困難、腹部症状が出現していないかチェックし、血圧低下や頻脈酸素飽和度の低下など、バイタルサインの乱れがなければ投与を継続します。

 

リツキシマブ(リツキサン)やトラスツズマブ(ハーセプチン)などの分子標的薬で起こることのあるinfusion reaction(インフュージョンリアクション)でもアナフィラキシー反応と似た反応が見られます。しかし、infusion reactionは投与回数が増えるごとに軽減する傾向にありますが、アナフィラキシー反応はより重篤になっていくため注意が必要です。

 

memoinfusion reactionはアレルギー反応に似た合併症

infusion reaction(インフュージョン リアクション)とは、抗がん剤を使用する際に起こる合併症の一つです。発生する症状は、アレルギー反応に似ています。

 

ドセタキセル療法のポイントB

  • ドセタキセルの点滴投与によって、即時型アレルギー(アナフィラキシーショック)が起こることがあるため、バイタルをこまめにチェックしよう!

 

投与後の注意点

投与直後には、バイタルサインや皮膚の変化をチェックして、自覚症状がないかどうか問診します。

 

投与後翌日からは、吃逆や便秘などの消化器症状や食欲不振の頻度が高くなります。90%以上の患者さんにおいて、投与後8~11日で白血球(特に好中球)が減少し、発熱があれば抗菌薬や顆粒球増殖因子であるG-CSF製剤のフィルグラスチム(グラン)やレノグラスチム(ノイトロジン)の投与が必要になる可能性があります。

 

memo顆粒球増殖因子(G-CSF)と化学療法の有害事象(副作用)の関係性

G-CSFとは、granulocyte-colony stimulating factorの略で、もともと生体内に存在しています。

 

G-CSFによって骨髄中の顆粒球が増加し、結果として顆粒球の一種である好中球が末梢血中に増加します。G-CSF自体に腫瘍を抑制する効果はありませんが、G-CSF製剤の投与によって化学療法の有害事象(副作用)である好中球減少症を予防、または改善することができます。

 

このため、化学療法の中断や延期、減薬を回避することが可能になります1)

 

また、その頃には、発熱や気道感染、下痢などの感染症がないかチェックします。特に、前立腺がんではカテーテル留置に伴って尿路感染を合併している患者さんも多いため注意が必要です。

 

その他、脱毛、の変化(変色や変形)や浮腫などが出現することが多く、時に肝機能障害、間質性肺炎などが起こることがあります。

 

ドセタキセル療法のポイントC

  • 副作用として、好中球減少症の頻度が高いため、発熱に注意しよう!

 

ドセタキセル療法時の申し送り時のポイント

アルコールアレルギーの有無、実際の投与中のアレルギー反応の有無については必ず伝えましょう。投与後は、どの副作用があって、どの程度困っていて、どのような対策を行っているのかを申し送ることが大切です。

 

ドセタキセル療法施行中の申し送り例

ドセタキセル療法3コース目の10日目です。3コースとも投与中の副作用は特になく、バイタルサインの変化も見られませんでした。
1、2コース目は、投与後から便秘が強くみられましたが、今回は酸化マグネシウム(マグミット)とセンノシド(プルゼニド)の投与により、特に便秘は見られていません。
昨日の採血で好中球減少が見られたため、G-CSF製剤(フィルグラスチム〈グラン〉)を投与中です。発熱は見られませんが、体温(腋窩温)が37.5℃を超えたら発熱性好中球減少症(FN)として治療の必要があるので、発熱に注意が必要です。

 

ドセタキセル療法時の看護記録に記載すべきこと

まず、現在ドセタキセル療法の「〇コース目、〇日目」なのかを記載しましょう。

 

さらに、投与中の副作用があったかどうか、あった場合には現在どのような状況なのか、の情報が必要です。現在のバイタルサインだけではなく、消化器症状や疲労感、呼吸器症状の有無といった自覚症状の有無、爪の変化や浮腫の有無や強さを具体的に記載しておきましょう。

 

患者ケア・看護ケアはココを押さえる

前立腺がんは、高齢者に多いがんで、入院によって見当識障害や認知症が出現することがあります。その場合には、精神科への相談を主治医に提案したり、次の投与を外来で行うかどうかを相談したりすることが必要になります。

 

ドセタキセル療法は、副作用の強さによっては2コース目から外来での投薬が行われるため、服薬管理を患者さん自身が行うことができるか、観察しておくことが必要です。特に、ステロイドを使用している場合には、急な服用中断によって体調を崩すことにつながるため、観察して自宅での服薬管理を可能にするよう退院前に対策を立てておくことが必要になります。

 

投与中や投与後の副作用が見られたら、副作用の種類や強さ、対策を記録しておくと、外来での化学療法中に連絡があった際の対応がスムースになるでしょう。

 

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[監 修]
齋藤信也
岡山大学大学院保健学研究科 教授

 

[編 集]
西森久和
岡山大学病院 血液・腫瘍内科

 

[執 筆]
和田耕一郎
岡山大学病院 泌尿器科

 


*本連載では、登録商標マーク®の記載はすべて省略しています。

 

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