経腸栄養剤の選択|PEGの栄養管理
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は経腸栄養剤の選択について説明します。
川村順子
函館五稜郭病院医療部栄養科長
Point
〈目次〉
はじめに
PEGの栄養管理を実施する場合、経腸栄養剤は必須です。
食事をミキサー食にしてシリンジで注入することもできますが、患者の全身状態を把握し、病態に合った栄養管理を行うためには、それぞれの経腸栄養剤の特徴を理解したうえで、1種類だけでなく2種類、あるいは栄養補助食品を組み合わせます。
患者の状態が悪いときは、ビタミン、ミネラルを多く含む栄養剤を追加して使用することがあります。
経腸栄養剤の種類と特徴
PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)などに用いる栄養剤は「経腸栄養剤」「濃厚流動食」などと呼ばれ、「1.0kcal/mL以上の高濃度の栄養食品」と定義されています(図1)。
経腸栄養剤の特徴としては、「良好な消化吸収」「高い栄養価」「優れた溶解性や流動性」「調整・投与法が容易」「高い製剤の安定性」などが挙げられます。
表1に、経腸栄養剤の種類と特徴・適用を示します。
どの経腸栄養剤を選択するかに関するアルゴリズムは、『胃瘻に関する基礎知識』図2を参照してください。
1保険適用上の区分
経腸栄養剤は、保険上の区分から「食品タイプと「医薬品タイプ」に大きく分類されます(図2)。
食品タイプは自己負担(あるいは病院における給食費の範囲)ですが、医薬品タイプは医療保険の適用となります。
経済効率を考慮し、特別な組成のもの以外は、入院中は食品タイプ、在宅では保険請求できる医薬品タイプを使用するのが望ましいでしょう。
食品タイプは、種類や味のバリエーションが多いのが特徴です。
医薬品タイプは、種類は少ないものの、安価であり、処方箋を持参して調剤薬局で購入します。
2その他の特徴
形状:RTH製剤
近年、増加しつつある「RTH(ready to hang)製剤(図3)」は、封を切って吊るすだけで投与できる経腸栄養剤です。
従来の流動食による栄養管理方法では、製品の状態(粉末・液状)にかかわらず、使用時に、いったん別の器具に移し替える必要がありました。RTH製剤は、この手間を省き、より簡便で衛生的に使用でき、容易に持ち運べるのがメリットです。
高カロリー経腸栄養剤
「1.5kcal/mL以上の高濃度の栄養食品」である高カロリー経腸栄養剤もあります。製品としては、エンシュア®・H(アボットジャパン)などが代表的です。
高カロリー経腸栄養剤は、水分制限のある患者や少量しか摂取できない患者、シリンジで注入する場合、褥瘡があって投与時間を短縮して座位保持時間を短くしたい場合などに、効率的に使用できます。
半固形化補助食品とミキサー食
1半固形化補助食品
PEGへ栄養剤を注入するとき、胃食道逆流や下痢を防ぐため、専用の補助食品などを用いて半固形化することがあります。
これまで半固形化は、常温でも安定性のある寒天を使用する方法が主流でした。しかし、最近では、リフラノン(ヘルシーフード)、イージーゲル(大塚製薬)、ソフティアENS(ニュートリー)など、経腸栄養剤に添加して使用できる半固形化補助食品が市販されていますので、利用をお勧めします(図4)。
なお、ジュースやお茶、牛乳など水分量の多いものを半固形化する場合もあります。その際は、リフラノンなど経腸栄養剤用の補助食品では対応できない場合もあるため、注意が必要です。
2ミキサー食
経口摂取する食事をミキサーで攪拌し、経管投与できるよう流動態にしたものが「ミキサー食」です。
各種経腸栄養剤の開発により、一般病院で使用される機会は減っていますが、ミキサー食は粘度が高く、難治性の下痢や逆流防止に効果が期待できます。
また、家族と同じ食品を摂取できるため、QOLの向上にもつながります。経口摂取とPEGを併用している場合には、食べきれなかった残りを胃瘻から注入することもできます。
通常、PEGカテーテルの径は20~24Frと太いので、ミキサー食や粥を、そのまま胃瘻から注入することができます。
3それぞれのメリット・デメリット
半固形化栄養材やミキサー食は、ボーラスで投与できるため、注入時間の短縮が可能です。そのため、リハビリテーションの時間がしっかり取れるだけでなく、体位変換も必要なだけ実施できることから、褥瘡の予防・治療にも有利です。
しかし一方で、経腸栄養剤に添加して調製したり、食事のたびにミキサーにかけたりと手間がかかること、注入中はスタッフがつきっきりになる必要があることなど、デメリットもあります。加えて、チューブやシリンジの衛生管理にも、十分な注意が必要です(表2)。
そのため、スタッフの多い病院であれば、半固形化栄養材やミキサー食を導入しやすいですが、在宅や施設では「手間をかけられるか」がポイントになります。
こうした手間を簡略化するものとして、最近では、あらかじめ半固形化された栄養材(チアーパック入り半固形化栄養材)も市販されています。これらは、そのまま、あるいは専用のコネクターに接続したあとPEGカテーテルに接続して、手で圧出することで胃瘻に注入できます(図5)。
チアーパック入り栄養材の製品には、PGソフト®EJ(テルモ)、メディエフ®プッシュケア®(味の素ファルマ)などがあります。
症状・病態に合った経腸栄養剤の選択
1下痢への対応
下痢は、経腸栄養のデメリットです。
液体ばかりを投与していると、大便の材料となる食物繊維が不足するため、それを補充することを念頭に置きます。食物繊維含量の多い栄養剤を利用してもよいでしょう(表3)。また、併せてGFO(グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)を使用することもお勧めです。
また、以下の対応も重要です。
- ①栄養剤、チューブの管理を清潔に行う。
- ②投与速度を遅くする(経腸栄養ポンプを使用)。
- ③過度に冷たい栄養剤を使用しない(室温で行う)。
- ④浸透圧の低い経腸栄養剤を選択する。
2各種病態別の経腸栄養剤
現在、肝不全用、糖尿病用、腎不全用、呼吸不全用、高度侵襲期用など、さまざまな病態に合わせた経腸栄養剤が市販されています(表4)。
これらの特徴を理解し、患者の病態に合わせて使用することが大切です。
事例:糖尿病を伴う胃瘻造設患者の栄養管理
患者の情報
89歳女性(身長149cm、体重30.2kg)。口腔腫瘍(軟口蓋腫瘍)があり、除去手術を行ったが、腫瘍は増大。嚥下障害があり、気管切開・胃瘻造設目的で入院となった。糖尿病、COPDを合併している。
入院時には、以前から引き続き、ラコール®(朝400mL、昼400mL、夕400mL)計1,200kcalを経鼻投与していた。
1胃瘻造設まで
身体が小さく、栄養剤1,200mLを投与することが困難なため、栄養剤をラコール®(1.0kcal/mL)から高エネルギーのL-8(1.5kcal/mL)へと変更したところ、投与時間は10時間から7時間へ短縮しました。しかし、血糖コントロールは悪く、栄養剤投与後も血糖値200台が続いていました。
その後、インスリン(ヒューマログ®ミックス25注キット®)で血糖を調節し、胃瘻を造設しました。胃瘻造設後もL-8を同量で投与していましたが、依然として血糖コントロールが改善せず、仙骨部に褥瘡(深達度Ⅰ)も発生してしまいました。
2血統コントロール・褥瘡の改善のため、栄養剤を変更
血糖コントロール目的でエネルギー量の補正を行い、栄養剤を糖尿病用のディムス(朝300mL、昼350mL)計1,000kcalへ変更することとしました。この患者は糖尿病があるため、血糖コントロールを考慮して、ブイ・クレス(創傷治癒目的の微量栄養素を補給する製品)は使用しませんでした。
また、栄養剤の吸収促進・電解質補給のため、栄養剤投与前にOS-1を200mL投与しました。しかし、胃瘻からの漏れもあり、投与中に長時間座位を保持することも難しく、必要量投与できないことも多かったため、ディムスをソフティアiGで半固形化して投与することとし、投与時間の短縮を図りました。
さらに、褥瘡を考慮してプロテインマックス2本(1本125mLあたり80kcal)をプラスし、総エネルギー量1,200kcal、蛋白質58gとしました。蛋白に関しては、腎機能の経過観察を行いながら投与しました。
3その後の状況
2週間後、BUN・Crとも上昇してきたため、プロテインマックスを1本減らし、総エネルギー量1,120kcal、蛋白質49gとしました。
しばらく経過観察し、血糖値が安定し、褥瘡も改善し、BUN、Crも安定しました。また、体重は32kgまで増加し、他院へ転院のはこびとなりました。
コラム:在宅医療の現場から
食品タイプと医薬品タイプ、どちらを使う?
在宅患者は、PEGキットだけでなく、いろいろな経腸栄養剤を使用しています。われわれ在宅医療スタッフも、経腸栄養剤について勉強しておかなければなりません。
在宅の場合、入院中と違い、食品タイプの栄養剤は全額負担となるため、費用が1か月に3~4万円かかります。一方、医薬品タイプのエンシュア・リキッド®、ラコール®などは保険適用となり、経済的に大きなメリットがあります。ただ、食品タイプの栄養剤にしかないメリットもあるので、患者や家族と話し合って決めることが大切です。「在宅では栄養剤にお金がかかります」と言うと、家族は驚きます。でも「PEG以外の場合でも、食事代はかかるのですよ」と話すと納得します。医療は別だと考えている方が、まだまだ多いようです。
先日、病院から在宅に移行した患者は、食品タイプを選択していました。メーカーにFAXで申込書を送り、1か月ずつ配送してもらっていました。医薬品タイプのメリットを説明しましたが、「病院ではこの栄養剤がいいと言われた」「費用が負担になっても、おばあちゃんのためにいい栄養剤を使いたい」と、そのまま食品タイプを使い続けていました。
この方は介護保険の点数を最大限まで使っていたため、ヘルパーのサービスが一部持ち出しになっていました。もし医薬品タイプを使っていたら、浮いた費用でサービス分を払えたかもしれません。 病院での栄養剤の選択は、その方の一生を決めることにもなります。関係者がよく話し合って決めることが重要です。
(岡田晋吾)
造設キットもいろいろ
私がPEG造設を始めたころは、造設キットは3種類くらいしかありませんでした。でも、今は多くの造設キットがあります。各キットの選び方の原則は、倉先生が書かれたとおり(PEGの造設術)ですが、現実には各施設・担当医師の好みによることが多いようです。
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PEGを造設する病院のスタッフは、いつも同じキットを見慣れているので、それがどんなものかよく知っているかもしれません。しかし、われわれ在宅医療スタッフは、まず「どのようなキットでPEGが造設されたのか」を知ることから管理を始めます。しかし、多くの場合、われわれが必要としている情報は得られません。在宅に戻る際には、必ず「造設キットの種類」「カテーテル径」「次回交換時期」「交換場所」などを伝えてほしいと思います。
メーカーの方も、個人医院や施設にまでは来ないので、製品の情報がほとんど得られないことも、病院のスタッフには知ってもらいたいと思います。病院スタッフ主催の勉強会などで、採用しているPEGキットのしくみや特徴・注意点などについて説明してもらえれば、こちらも自信をもって管理することができます。
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以前、胃壁固定用の糸が抜糸されないまま在宅に戻った患者がいました。訪問看護師もわからず、私のところに連絡が来たようです。すぐに抜糸してもいいかと思いましたが、「もしかしたら、何か意味があるかも」と思い、造設医に電話したところ「抜糸って必要なのですか?」とのことでした。
患者には、「ちょうどいい時期になったから、糸抜こうね」と言いながら、抜糸しました。造設医もいろいろですね。
(岡田晋吾)
[引用・参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社