大動脈バルーンパンピング: IABP | ドレーン・カテーテル・チューブ管理
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は大動脈バルーンパンピング(IABP)について説明します。
景山倫也
獨協医科大学医学部心臓・血管内科学助教
寺﨑順子
獨獨協医科大学病院看護部看護師長
《大動脈バルーンパンピング(IABP)について》
主な適応 |
●急性発症の重篤な心不全・心原性ショック ●内科的治療に抵抗する心不全 ●急性冠症候群における梗塞領域の拡大予防、狭心痛の緩解、切迫梗塞の予防 ●人工心肺離脱困難例 ●急性心筋炎 ●慢性心不全加療中・基礎心疾患を有する患者の心不全増悪 ●虚血・低心拍出状態による重症不整脈改善 ●ハイリスク症例の冠動脈再建術における予防的使用 ●循環動態からみた適応 ・大動脈収縮期血圧≦90mmHg ・心係数≦2.0 L/分/m2 ・肺動脈楔入圧≧20 mmHg |
目的 |
冠動脈血流量と脳血流を増やし、左心の後負荷軽減により心拍出量増加と心筋酸素消費量を減少させる(=全身の組織灌流を改善)。 |
合併症 |
下肢虚血、出血、血栓塞栓症、バルーン破裂、動脈損傷、血小板減少 |
抜去のめやす |
循環動態からみためやすとして、大動脈収縮期血>100mmHg、心係数2.2 ~ 2.5 L/分/m2、肺動脈楔入圧<20 mmHg |
観察ポイント |
IABP駆動状況などモニター画面で確認し、循環動態を把握する 刺入部の出血、バルーン破裂(穿孔)などが起こっていないか、刺入部やカテーテルを観察する |
ケアのポイント |
体位調整 : 腓骨神経麻痺や褥瘡を予防するため、安楽枕や体圧分散マットレスなどを用いて体位の調整を行う 合併症対策 : 出血や末梢循環障害などの合併症や、カテーテル内に血液の逆流や水滴の付着がある場合は、すみやかに医師に報告する |
〈目次〉
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)の定義
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)の適応・禁忌
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)の挿入経路と留置部位
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)の合併症
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)の利点と欠点
- 大動脈バルーンパンピング(IABP)のケアのポイント
大動脈バルーンパンピング(IABP)の定義
心筋梗塞後の心原性ショックや開心術後のショックによる低心拍出状態は、内科的な薬物療法では予後がきわめて不良である。大動脈バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping:IABP)は、このような状態に対して最も簡便かつ効果的な機械的補助循環装置である。
大腿動脈より30~40mLのIABPバルーンカテーテル(図1-①)を挿入し、バルーンを胸部下行大動脈に位置させ、拡張期に体外の駆動装置(図1-②)からヘリウムガスを充填する。
バルーンを急激に膨張(インフレート)させることにより、バルーン手前の大動脈血流を増加させ、拡張期血圧が上昇し、主に拡張期に灌流されている冠動脈の血流量を増加させる(図2-①)。これは心拍出のない拡張期にバルーン上方の大動脈に逆行する脈を生み出すことから「カウンターパルセーション」とも呼ばれている。
収縮期に急激にバルーンを脱気(デフレート)させることにより、吸引効果で大動脈内の容積を減少させ、収縮期血圧を低下させることにより心臓の後負荷を軽減し、左室の仕事量と心筋酸素消費量を減少させる(図2-②)。
上記のしくみにより、平均大動脈圧は、拡張期血圧の上昇と収縮期血圧の低下で相殺され、維持される。
バルーン膨張ならびに拡張のタイミングは体外の駆動装置より調節が可能であり、バルーン先端の動脈圧を見ながら調整する(図3)。
最近の装置では自動でタイミングの調整が行われるものも多い。
大動脈バルーンパンピング(IABP)の適応・禁忌
大動脈バルーンパンピング(IABP)の挿入経路と留置部位
通常、局所麻酔下で、セルジンガー法によりカテーテルイントロデューサー挿入キット(図4)に付属した穿刺針(18G)を用いて大腿動脈を穿刺し、ガイドワイヤーを挿入する。
さらにダイレーターで拡張後、カテーテルシース(8Fr)を挿入する。
シースよりガイドワイヤーを通してバルーンカテーテルを挿入し、先端が鎖骨下動脈直下に位置するように留置し、ガイドワイヤーを抜去する。
近年、上腕動脈(肘部)からの挿入も可能となった。
大動脈バルーンパンピング(IABP)の合併症
- 血流途絶や血栓形成、動脈損傷による下肢虚血
- 出血(穿刺部、血腫形成)
- 血栓塞栓症(バルーンに付着した血栓が流れて末梢に閉塞する)
- バルーン破裂(カテーテルからの血流逆流や駆動装置のガスリーク警報)
- 動脈損傷(穿孔、解離:高度動脈硬化ならびに蛇行血管は注意)
- 血小板減少(比較的頻度は高いが、抜去後自然回復する)
大動脈バルーンパンピング(IABP)の利点と欠点
1利点
最も簡便な補助循環装置であり、経皮的に短時間で挿入が可能である。
圧迫止血が可能であり、抜去が容易である。
予防的な使用が可能である。
2欠点
大動脈弁閉鎖不全では逆効果となる(大動脈弁閉鎖不全により拡張期に大動脈から左心室への逆流血液量が増加し、心負荷を増大する)。
大動脈解離、大動脈瘤、下肢閉塞性動脈硬化症、動脈の高度石灰化、蛇行では使用できない。
重度心不全でIABP使用時も効果が十分得られず、経皮的心肺補助装置(PCPS*1)が必要な場合
- 大動脈収縮期血圧≦80mmHg
- 心係数≦1.2L/分/m2
- 肺動脈楔入圧≧30mmHg
IABPは、バルーン膨張ならびに拡張のタイミングが非常に重要である。このタイミングを間違えて収縮期に拡張させてしまうと、心臓の負荷を増強する場合もあり、逆効果である。血圧が低い場合にはすみやかに医師に報告することが必要である。
大動脈バルーンパンピング(IABP)のケアのポイント
1IABP駆動状況
モニター画面(図1)でIABP駆動状況の確認と循環動態を把握する(図3)。
2固定部
カテーテルの固定状況を確認する。カテーテル挿入部位は、穿刺部からの出血や血腫形成の有無が確認できるように、透明のフィルムドレッシング材で固定する。
カテーテルの固定はテープが剥がれにくいようにドレーン全周を覆うΩ型で下腿部に固定する(図5)。
カテーテル挿入側の下肢の可動範囲(30°程度の内外旋と足関節可動のみ)を患者に説明し、必要に応じて抑制する。外旋により腓骨神経麻痺を起こさないように下腿に安楽枕を入れ調整する(図6)。
体圧分散マットレスの使用や患者に合わせた間隔で体位変換を行い、褥瘡の予防を行う。体位変換時は看護師2人で行い、循環動態の変化やカテーテルの屈曲・抜去に注意する。
合併症(出血・末梢循環障害)出現の有無を観察し、出現時はすみやかに医師に報告する。カテーテル内に血液の逆流(図7)や水滴の付着がある場合は、バルーン破裂(穿孔)を疑い、すみやかに医師に報告する。
[引用・参考文献]
- (1)許俊鋭:Ⅲ IABP.許俊鋭 編,補助循環マスターポイント102 改訂2版,メジカルビュー社,東京,2009:46-56.
- (2)四津良平:大動脈バルーンパンピング法(IABP).永井良三 編,循環器研修ノート 改訂第2版,診断と治療社,東京,2004: 429-432.
- (3)佐藤憲明:ドレーン・チューブ管理&ケアガイド.中山書店,東京,2014:198-200.
- (4)中川温美:補助循環の理解とケア IABP 患者管理の実際.重症集中ケア 2014; 11(3):15-26.
- (5)道又元裕 編:ICUケアメソット クリティカルケア領域の治療と看護.学研メディカル秀潤社,東京,2014.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社