一時的(体外式) ペーシングカテーテル | ドレーン・カテーテル・チューブ管理
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は一時的(体外式)ペーシングカテーテルについて説明します。
中原志朗
獨協医科大学埼玉医療センター循環器内科准教授
田口 功
獨協医科大学埼玉医療センター循環器内科主任教授
金子美由紀
獨協医科大学埼玉医療センター看護部
《一時的(体外式)ペーシングカテーテル》
主な適応 |
● 徐脈性不整脈(洞不全症候群、完全房室ブロック、徐脈性心房細動)のうち、脳虚血症状(めまい、失神など)や心不全症状がある患者 ● 心臓手術後の患者 |
目的 |
● 正確な人工的ペーシングの維持、合併症の防止(感染、ペースメーカー症候群など)、ペースメーカー装着患者の身体的・精神的苦痛の緩和 |
合併症 |
● ペースメーカー症候群 |
抜去のめやす |
● 自己脈が回復したとき、恒久式ペースメーカー植え込み後、感染時もしくは感染が疑われるとき |
観察ポイント |
● 胸部X線写真で、カテーテル先端のずれがないか確認する ● 心電図波形をモニタリングし、「ペーシング不全」「センシング不全」などペースメーカーの機能不全がないか観察する |
ケアのポイント |
● 誤操作の防止:誤操作を防ぐために設定変更時は確実な引き継ぎが重要 ● 出血・血腫 : 血小板薬や抗凝固薬使用時はカテーテル挿入部の出血・血腫の有無を確認する |
〈目次〉
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルの定義
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルの適応と目的
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルの挿入経路と留置部位
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルの合併症
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルの利点と欠点
- 一時的(体外式)ペーシングカテーテルのケアのポイント
一時的(体外式)ペーシングカテーテルの定義
一時的(体外式)ペーシングとは、右鎖骨下静脈から一時的ペーシングリードを右心室内に挿入している状態を示す。
ペースメーカーの種類としては、この本体を体外に置く体外式(一時的)(図1)のほか、本体を手術的に体内に挿入する植え込み型(永久的)や、電極を経静脈的に挿入する時間的余裕がない場合に用いる経皮的ペーシング(電極シールを体表に貼付する)などがある。
わが国において心疾患で受療している患者数は増加傾向にあり、心疾患は死因別死亡数全体の15.5%を占め、がんに次ぐ第2位となった(平成25年)1。
心疾患の治療において、一時的(体外式)ペースメーカーは一般的によく使用されている。
一時的(体外式)ペーシングカテーテルの適応と目的
心疾患では刺激伝導系に障害をきたすことが多く、それに対してしばしばペースメーカーが用いられる。また心疾患に対する外科的治療法では、術後不整脈をきたしやすく、その際も一時的にペースメーカーを使用する場合がある。
主な適応疾患は、徐脈性不整脈(洞不全症候群、完全房室ブロック、徐脈性心房細動)である。これらのうち、脳虚血症状(めまい、失神など)、または心不全症状がある場合に適応となる。
一時的ページングは、以下の目的で行われる。
- 正確な人工的ペーシングの維持
- 合併症の防止(感染、ペースメーカー症候群など)
- ペースメーカー装着患者の身体的・精神的苦痛の緩和
一時的(体外式)ペーシングカテーテルの挿入経路と留置部位
①鎖骨下静脈、②内頸静脈、③大腿静脈などからのアプローチが通常用いられる。
X線透視下で、上記のいずれかより右心室内に電極(リード)挿入する。電極は、体外にある刺激発生装置とつながっている。
一時的(体外式)ペーシングカテーテルの合併症
ペースメーカー症候群
自己の緩慢な心拍数に慣れていた患者がペーシングを継続されることで、動悸・胸内苦悶・胸痛などのペースメーカー症候群を起こす可能性がある。
症状出現時は、安静臥床にてバイタルサイン測定・12誘導心電図記録後、医師に報告し対応する。
一時的(体外式)ペーシングカテーテルの利点と欠点
利点:短時間で留置可能であり、緊急時の対応にすぐれている。
欠点:長期留置ができない(感染を引き起こすため)。
一時的(体外式)ペーシングカテーテルのケアのポイント
1胸部X線写真
一時的(体外式)ペーシングカテーテル挿入はX線透視下で行う。その後、胸部X線写真を撮影し、カテーテルの位置を確認する。
患者の体動によりカテーテルの位置がずれることがある。胸部X線写真撮影時は、前回撮影した画像と比較し、カテーテル先端のずれがないかを確認する。
2心電図モニター
一時的(体外式)ペーシングカテーテル挿入後は、閾値を測定し、ペースメーカーの設定を行う。心電図波形を持続モニタリングし、「ペーシング不全(図2-①)」「センシング不全(図2-②、③)」を観察する。
正確なペーシング機能を維持するためのポイントを以下に示す。
①モニタリング
一時的(体外式)ペーシングの場合、それが必要なくなるまで、心拍数と心電図波形が確認できるようにモニタリングをする。
病院内での移送時でも携帯用モニターを使用し、医師もしくは看護師が側に付き添う。
②アラームの設定
下限アラーム:医師の指示によるペーシング数より「2拍下げて」設定する。
上限アラーム:医師の指示より「2拍上げて」設定し、異常時にすぐに発見できるようにする。
③ペースメーカーの機能不全の観察
ペースメーカーを使用しなければならない患者は、何らかの原因で刺激伝導系に問題がある。したがって、作動不良があると心拍に影響するため、直接生命に危険を及ぼす可能性があり、機能不全の観察と早期対処は重要である(図2)。
設定レートより徐脈であり、ペーシング不全、センシング不全がみられる場合は、接続不良、カテーテルの断線、本体の電池消耗等の原因が考えられるため、すみやかに医師に報告し対応する。
④誤操作の防止
誤って設定が変わってしまうことがないように、ペースメーカー本体の取り扱いには注意が必要である。設定変更時は記録し、自分の勤務時は常に設定状況を観察する。勤務交代時は、次の勤務者とダブルチェックを行い、設定状況を確実に引き継ぐ。
ペースメーカーの条件設定を誤操作することを避けるため、ペースメーカー本体には透明プラスティックカバーが付いている。したがって、通常はカバーを閉じた状態にする。
3創部固定
創部固定のポイントを以下に示す(図3)。
挿入部が観察できるよう、固定には透明のフィルムドレッシング材を使用する。
ジェネレーター本体、接続コードおよびペーシングカテーテル間で接続のゆるみがないことを確認する。
一時的(体外式)ペースメーカーでは、体動により少しくらい引っ張られても大丈夫なように、リード線にループを作り固定する。
4出血・血腫
抗血小板薬や抗凝固薬使用時は、出血リスクが高くなるため、バイタルチェック時にカテーテル挿入部の出血・血腫の有無を確認する。
5感染
カテーテル長期留置は、局所感染・敗血症などを引き起こすリスクがある。適宜刺入部を観察し、発赤・腫脹・圧痛・膿性滲出液の有無を確認する。
大腿静脈より挿入時は、排泄物により不潔になりやすく、清潔に保つよう努める。
内頸静脈から挿入時は、頭髪、髭、頸部の可動により、フィルムドレッシング材が剥がれやすいという欠点があり注意する。
6精神的配慮
一時的(体外式)ペーシングカテーテルは、予期せず挿入となる場合が多く、患者と家族が状況を十分に理解するのに時間を要するケースがある。一方的な説明にならないよう、医療者・患者家族の相互理解状況の確認が必要である。
ペーシングカテーテル留置により体動が制限され、臥床が余儀なくされるため拘束感が生じる。カテーテルの断線、接続のゆるみなどで抜去事故が起こらないよう確認し、医師の指示による安静度内で活動介助をすることが重要である。
カテーテル挿入により十分な保清ケアができないため、瘙痒感が出現する場合がある。汚染予防や身体的不快感の軽減を図ることが大切である。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社