酸素療法中は、何を観察し、どう評価するの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「酸素療法での観察と評価」に関するQ&Aです。
露木菜緒
一般社団法人Critical Care Research Institute(CCRI)
酸素療法中は、何を観察し、どう評価するの?
〈目次〉
酸素療法中のバイタルサインの観察
患者の健常時のバイタルサインを把握し、血圧・脈拍などを観察する。正常値に近づけるのではなく、患者の健常時を目標とする。持続的にパルスオキシメータでSpO2をモニタリングする。
SpO2が90%未満となったときは、以下の点を確認する。
- ①末梢循環不全により、指が冷たく、SpO2センサーが感知できていない状態になってはないか
- ②SpO2センサー部分の発光、つぶれ、ゆるみ、外れはないか
- ③酸素流量や酸素濃度は、指示どおりの設定になっているか
- ④鼻カニューラやマスクは正しく装着されているか
- ⑤チューブ類の屈曲・閉塞はないか など
呼吸状態の観察
呼吸回数、呼吸パターン、胸郭の動き、呼吸補助筋を使用した努力性呼吸の有無、および副雑音の有無を把握するため、視診・聴診・触診などフィジカルアセスメントを実施する。
呼吸を観察するときは、呼気と吸気のどちらが延長しているかも確認し、障害の原因を探る。
血液ガス分析でPaO2を確認する。急性呼吸不全ではPaO2=80~100Torr、慢性呼吸不全ではPaO2=50~60Torrを目標とする。
全身状態の観察
全身の酸素化された血液の還流の指標を観察する。具体的な観察項目としては、意識レベル(脳への酸素供給の低下から意識障害が起こりうる)、尿量(循環不全から尿量減少が起こりうる)などが挙げられる。
チアノーゼ(口唇・爪)の有無、四肢末梢の冷感・皮膚湿潤の有無、皮膚温など、末梢循環不全徴候を観察する。
ColumnCRT(毛細血管再充満時間)って?
CRT*は、ブランチテストとも呼ばれ、末梢の循環不全の程度を見きわめるための方法である。
方法は簡便で、爪を、爪床が白くなるように強く圧迫した後で圧迫を解除し、爪床に赤みが戻るまでにかかる時間を観察するだけである。
CRT3秒未満が正常とされており、3秒以上は末梢循環不全を疑う。酸素化の評価を行うときは、末梢循環不全の状況も把握しておくことが大切である。
*CRT(capillary refilling time):毛細血管再充満時間
[Profile]
道又元裕
杏林大学医学部付属病院看護部長
患者の訴え
呼吸困難感など、自覚症状の有無を確認する。吸気努力が強いときは、呼吸回数が上昇できず、バイタルサイン上は安定しているように見えるため注意が必要である。
敗血症など酸素需要が増しているときは、SpO2が高くても組織における酸素が足りず、呼吸困難を自覚する。
酸素療法の評価(まとめ)
バイタルサイン |
◦ベースラインを把握のうえ、目標値を維持しているか
|
---|---|
呼吸状態 (定時的評価) |
◦呼吸回数
|
全身状態 |
◦ 意識レベル、尿量(⇒全身への還流の指標)
|
患者の訴え |
◦呼吸困難感など
|
COLUMN呼吸の4時相って?
自発呼吸は、吸息、ポーズ、呼息、休止期の4相からなる。健常成人の安静自発呼吸の場合、1呼吸サイクル=約4秒となる。吸息は1~1.5秒、ポーズは0.2秒、呼息は1~1.5秒で、休止期は呼吸回数に応じて変化する。
休止期は、呼吸回数が少なければ長く、呼吸回数が多ければ短くなる。呼吸回数26回/分(頻呼吸)を超えると休止期がなくなり、30回/分以上(努力性呼吸)になると、休息・ポーズ・呼息の時間までも縮めて呼吸回数を増やして代償しようとする。
一般的に、呼吸回数30回/分以上・10回/分未満は危険と考える。
(道又元裕)
[文献]
- (1)田勢長一郎:酸素療法・酸素療法の適応と中止.丸川征四郎,槇田浩史 編,呼吸管理・専門医にきく最新の臨床,中外医学社,東京,2003:58-60.
- (2)瀧健治:呼吸管理に活かす呼吸生理 呼吸のメカニズムから人工呼吸器の装着・離脱まで.羊土社,東京,2006:95.
- (3)Kallstrom TJ. AARC Clinical Practice Guideline:Oxygen thrapy for adults in the acute care facility-2002 revision & update. Respir Care 2002; 47: 717-720.
- (4)宮本顕二:インスピロンQ&A「より安全にお使い頂くために」 Q10.日本メディカルネクスト株式会社.(2014年11月18日閲覧).
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社