特発性器質化肺炎患者さんの聴診音
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この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。
[前回の内容]
今回は、間質性肺炎の一種である「特発性器質化肺炎患者さんの聴診音」について解説します。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
いきなり、結果を教えてくれるんですか!
そういえば、特発性間質性肺炎の患者さんから聴こえる聴診音も捻髪音だったはず。
(参考:『特発性間質性肺炎患者さんの聴診音』)
その通りです。勉強の成果が出ていますね。
特発性器質化肺炎は、特発性間質性肺炎の一種です。
捻髪音以外にも、いびき音も聴こえることがあるので、これから紹介する症例をじっくり聴いてみてください。
急性期だと、ブツブツやゴロゴロといった音が聴こえることもあります。
〈目次〉
症例:一般的な特発性器質化肺炎の患者さん
ここでは、特発性器質化肺炎の患者さんの症例について簡単に紹介します。自分の担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。
【40歳、女性】
主訴:3か月前からの咳嗽、微熱。
既往歴:特になし。
内服薬:なし。
現病歴:3か月前からの咳嗽と微熱を主訴に近医を受診。胸部X線とCTで異常陰影を指摘され、抗菌薬の効果がないということで紹介受診。
嗜好品:健康茶やサプリメントの摂取なし。非喫煙者。海外旅行や温泉歴なし。体重減少なし、食欲低下なし、夜間の寝汗なし。
画像所見:来院時の胸部X線では、左上肺野に浸潤影を認めた(図1)。
図1特発性器質化肺炎の患者さんの胸部X線画像
また、胸部CTでは、両側肺尖部(黒矢印)と左上葉に非区域性の浸潤影(青ライン)を認めた(図2)。
図2特発性器質化肺炎の患者さんの胸部CT画像
身体所見:体温 37.2℃、SpO2 97%、呼吸数 14回/分、血圧 120/80mmHg、脈拍 78/分。
検査所見:WBC(白血球数) 8,800/μL、Hb(ヘモグロビン量) 11.8g/dL、Plt(血小板数) 13×103/μL、CRP(C-リアクティブ・プロテイン) 2.0g/dLで、白血球分画の異常はなし。
聴診音①:前胸部左中肺野で聴いた音
ココを聴こう!
1秒、3.5秒:「パチパチ」という音
- 本症例では、「パチパチ」という捻髪音が聴こえるのがポイントです。この音に気付きましょう。
- 左上肺野背側では、捻髪音がほとんど聴こえません。
聴診音②:左上肺野背側で聴いた音
ココを聴こう!
4秒、6秒付近:「グーグー」という音
- 本症例では、「グーグー」といういびき音が聴こえるのがポイントです。この音に気付きましょう。
目指せ! エキスパートナース特発性器質化肺炎の患者さんの浸潤影は移動する
筆者が、図1や図2の画像検査と聴診を行った10日後に、もう一度、同じ患者さんで胸部X線とCTを撮影しました(図3、図4)。
図310日後の胸部X線
図410日後のCT画像
図1・図2と、図3・図4を比べると、浸潤影の位置が変わっていることがわかります。
この患者さんは、移動する浸潤影、微熱と咳嗽の長い経過、抗菌薬不応の異常陰影などの検査結果から、特発性器質化肺炎が疑われました。そのため、気管支鏡検査を施行し、経気道肺生検を行ったところ、器質化の所見があったため、特発性器質化肺炎と診断しました。
診断後は、ステロイド治療を行い、異常陰影および症状は消失しました。
ナースへのワンポイントアドバイス
患者さんに、長引く咳嗽や発熱の症状があれば、まんべんなく全肺野を聴診することが大切です。
*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授
協力:株式会社JVCケンウッド