左室機能不全・拡張型心筋症の心電図|各疾患の心電図の特徴(2)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、左室機能不全・拡張型心筋症の心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回]
〈目次〉
左室機能不全とは何か
左室機能はここでは収縮力をさします。左室は全身に血液を送るポンプですが、左室筋がなんらかの原因で障害されると収縮力が低下し、1回拍出量(stroke volume:SV)が減ります。しかし、身体は一定の血液を必要とするので、左室内腔を大きくし、1回拍出量を増やすことで、心拍出量(cardiac output:CO)を維持しようとします。
つまり、左室収縮力が低下した状態が続くと左室が拡張するわけです。この状態を左室機能不全(LV dysfunction:LVD)とよび、たとえば広範な心筋梗塞後、後述する心サルコイドーシス、重症な弁膜症など直接の原因がはっきりしている場合から、腎不全や糖尿病、敗血症に伴うものなど、全身疾患を背景に出現する場合もあります。
左室機能不全のうち、原因疾患がなく心筋自体の収縮力低下によるものを拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy:DCM)といいます。
また、原因となる疾患のない、特発性の心筋障害を特発性心筋症といい、収縮力低下と左室拡張をきたす拡張型心筋症、左室肥大をきたす肥大型心筋症などがあります。
心電図所見は
背景疾患があればその所見、たとえば心筋梗塞なら異常Q波やST‒T異常がありますが、拡張型心筋症を含め、「これがあれば左室機能不全」といった特徴的な心電図所見はありません。
左室筋細胞が消失すると、その部位は線維組織に置き換えられますので、障害部位の異常Q波の出現やR波の減高(低電位)、ST低下、陰性T波といったST-T異常が見られます(図1)。
また、伝導系が障害されれば、心室内伝導障害(脚ブロックや非特異的心室内伝導障害)が出現することもあります。さらに、左室機能不全→左室拡張期圧上昇→左房圧上昇となり、P波に左房負荷所見が見られる場合があります。
症状と注意点は
左室機能不全、拡張型心筋症では、心拍出量(CO)が低下しますから、さまざまな程度の循環不全、つまり左心不全をきたします。労作時呼吸困難、易疲労感から、肺に血液がうっ滞すれば肺うっ血、肺水腫から、低酸素血症、安静時呼吸困難が出現します。
左室拡張期圧上昇→左房圧上昇→肺動脈圧上昇→右心系と圧の上昇が波及すれば、静脈圧上昇に伴い浮腫、消化管のうっ血、肝臓腫大、食欲低下などをきたします。これは左心系、右心系両方の心不全で両心不全といいます。さらに重症では血圧低下、意識障害などショック状態を呈することもあります。
程度に応じた心不全の治療をしますが、心不全時は不整脈をきたしやすい状態です。心房に負荷がかかるので、上室性不整脈とくに心房細動に注意しましょう。
また、左室が障害されていますので、心室性不整脈は重症化する可能性があります。左室機能は低下するほど、致死性不整脈を生じる危険が増加します。第3章で勉強したように、心室性期外収縮(PVC)の増加・連発・多源性・R on T(連結期の短いPVC)から、心室頻拍、心室細動に移行する危険があります。
まとめ
- さまざまな原因で左室収縮機能低下が起こるが、結局、左室拡大と収縮不全をきたす
- 原因疾患のない左室収縮機能不全を拡張型心筋症という
- 左室機能不全があると重症不整脈をきたすことがあり、注意を要する
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版