心臓弁膜症の心電図|各疾患の心電図(3)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心臓弁膜症の心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回]
〈目次〉
心臓弁膜症とはどんな疾患か
ポンプ機能を担当するのは心室ですが、血液が逆流しないように右室、左室の入口、出口にそれぞれ4枚の弁膜があります(図1)。この弁に障害をきたす病態が心臓弁膜症(valvular heart disease)です。
図1心臓の4枚の弁膜
心臓弁膜症とはどんな異常か
弁の閉鎖がうまくいかない閉鎖不全症(regurgitation)と、弁が狭くなって血液が駆出しにくくなる狭窄症(stenosis)です。
閉鎖不全があると流入してきた血液が、逆戻りしますので血液の出荷元に量負荷が加わります。量負荷が慢性的に加わると、心臓はなんとかしなければならないので、袋の大きさを大きくして対処します。これを拡張といいます(図2)。
狭窄症があると、血液が駆出できないので、出荷元の圧が高まり、圧負荷がかかります。圧負荷に対しては、何とか圧に負けずに血液を送り出そうとしますので筋肉が厚くなります。これを肥大といいます。
大食いの人は身体が大きくなっていきますよね、あれが拡張で、ボディビルダーは重いものに対して筋肉をマッチョにしていきますね、これが肥大です。
弁膜症の分類と心電図所見は
左室の弁
大動脈弁
大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)
狭窄ですから、大動脈の血液の出荷元である左室に圧負荷がかかり肥大します。これすなわち左室肥大ですから、心電図は左室肥大の所見になります(図3)。また、左室の肥大によって左室拡張期圧も上昇すれば、左房負荷の所見が出る場合もあります。
大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)
収縮によって左室から大動脈へせっかく送り出した血液は、大動脈の閉鎖不全のため拡張期に左室に戻ってきてしまいます。このため、左室は量負荷が加わり拡張していきます。さらに拡張期の左室への逆流のために、左房からの血液も入りにくくなり、左房負荷を生じます。
心電図上の左室拡張は、初期では、左室高電位+高電位誘導でのT波の増高として現れますが、左室の拡張が進行するとSTの低下とT波の陰性化に変わります(図4)。
僧帽弁
僧帽弁狭窄症(mitral stenosis:MS)
僧帽弁は左房と左室の間の弁ですから、血液の出荷元は左房ですね。このため、左房に強力な圧負荷がかかり、著明な左房負荷の所見が見られます。そしてこの圧は肺を逆行して、右心系(右室・右房)にも伝わりますから、右室と右房にも圧負荷が加わります。狭窄が高度になれば、圧負荷も強くなり、結果として洞調律を維持できず心房細動になることが多いのも特徴です。心房細動の場合には心房負荷は判定できません。
心電図では、左房負荷所見が必発ですが、程度によって右室肥大、右房負荷所見も出現し、両房負荷+右室肥大の所見となります(図5)。左室は僧帽弁狭窄によって血液が入りにくいくらいなので、左室肥大所見はありません。
僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)
左房から左室へ流入した血液が、僧帽弁の閉鎖不全のために、左房に戻って、左房に負荷をきたします。さらに逆流した血液は再び左室へも流入しますから、左室の量負荷も生じます。ですから心電図は、左房負荷と左室拡張の所見が現れます(図6)。
右室の弁
肺動脈弁
肺動脈弁狭窄症(pulmonary stenosis:PS)
先天性疾患です。肺に血液を送り出すのは右室ですから、右室肥大(負荷)所見が見られます。右室圧が上昇しますから右房負荷も出現します(図7)。
※肺動脈弁閉鎖不全症、三尖弁については、臨床上問題になることは少ないので割愛します。
まとめ
- 大動脈弁狭窄症:左室肥大(+左房負荷)
- 大動脈弁閉鎖不全症:左室拡張(高電位+T波増高)→進行すれば左室肥大+左房負荷
- 僧帽弁狭窄症:著明な左房負荷、重症では両房負荷+右室肥大。心房細動
- 僧帽弁閉鎖不全症:左室拡張→進行すれば左室肥大+左房負荷
- 肺動脈弁狭窄:右室負荷+右房負荷
心臓弁膜症の注意点は
程度によって心不全の治療(利尿薬投与など)をします。根治的には弁置換術や弁形術が必要です。
心房、心室に加わる負荷は、さまざまな不整脈を誘発します。心房負荷は、上室性期外収縮~心房細動が出現することがあります。とくに僧帽弁狭窄症は心房細動になりやすい弁膜症です。
左室負荷は心室性期外収縮~心室頻拍、心室細動に注意が必要です。とくに大動脈弁狭窄症は、頻拍になると左室の拍出が極端に減少し、血圧低下、失神を起こしやすく、最も心臓突然死をきたしやすい弁膜症です。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版