意識障害に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「意識障害」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
意識障害の患者の状態
- ・「反応がありません」
〈意識障害に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.意識障害ってなんですか?
- 2.意識障害を起こす原因は何?
- 3.意識障害のレベルの確かめ方は?
- 4.意識障害のレベルの評価方法は?
- 5.意識障害でみられる姿勢異常とは?
- 6.意識障害時で起こる異常呼吸とは?
- 7.意識障害時のケアのポイントとは?
意識障害ってなんですか?
まず、意識障害の反対の状態、「意識が清明(はっきりしている)」とはどういう状態か考えてみましょう。
意識とは、意識レベルが保たれ(覚醒している)、自分と外界との関係を正しく認識できている(たとえば、自分はだれか、どこにいるか、今日は何月何日なのかなど)状態です。したがって、意識障害とは、意識レベル、自分と外界との関係の認識のいずれか一方、あるいは両方が障害された状態をいいます。
意識障害と間違えやすい状態に「閉じ込め症候群」があります。閉じ込め症候群は、脳幹の橋底部が障害されることで、病変部位よりも先の運動神経の連絡が絶たれてしまうもの。運動も発語もできませんが、意識は正常で、目の垂直運動と目を閉じたり開いたりすることで意思の疎通ができます。
意識障害を起こす原因は何?
意識は、大脳皮質の活動と大脳皮質に働いて覚醒状態の維持や意識の発現にかかわっている網様体賦活系の2つが正常に働いていることが必要です。意識障害がみられるときには、これらのはたらきが障害されていることになります。
原因としては、脳そのものに原因がある場合と、脳以外の原因によって大脳皮質や網様体賦活系が障害される場合があります(図1)。前者の例としては脳出血や脳梗塞、クモ膜下出血などの脳血管障害、脳腫瘍、脳挫傷や硬膜下血腫などの頭部外傷、髄膜炎などの感染症、後者の例としては、代謝性疾患、薬物による中毒があげられます。
意識障害の原因をアセスメントするためには、意識障害の発症のしかた(突然なのか徐々になのか)や意識障害発症前の外傷の有無、頭痛、発熱、痙攣、髄膜刺激症状(項部強直、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候など)など意識障害以外の症状についての情報が助けになります。
図1網様体賦活系
意識障害のレベルの確かめ方は?
意識障害のレベルは、呼びかける、身体を揺さぶる、痛み刺激を与えるなど何らかの刺激に対して目を開けるかどうか、手足を動かすかどうか、話している内容はどうかから判断します。
傾眠は、呼びかけると容易に目を開きますが、刺激がないとすぐに目を閉じてしまうような状態、混迷は大きな声で話しかけたり、からだを大きく揺さぶるなどの強い刺激があるときのみ目を開き、刺激がなくなるとすぐに目を閉じてしまう状態、半昏睡は、強い痛み刺激に対してのみ顔をしかめたり、手足で払いのけるなどの反応を示す状態、昏睡(深昏睡)は、強い刺激に対しても全く反応がない状態です。
意識障害のレベルの評価方法は?
意識障害の評価は、呼びかけや痛み刺激に対する反応や姿勢の観察結果を用いて行います。日本でよく使用されている評価方法は、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS、表1)とジャパン・コーマ・スケール(JCS、表2)です。
GCSは、開眼(eye opening:E)4段階、最良言語反応(verbal response:V)5段階、最良運動反応(motor response:M)6段階で評価し、E2V3M4の場合は、GCS9点と表します。数値が小さいほど重症で、8点以下が重症の意識障害とされます。GCS8点というのは、具体的にはE2V2M4、つまり、強い刺激で開眼し、会話はできない、痛みに対して反応するが、どこが痛いかはわからないような状態です。
表1グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)
JCSでは、覚醒の程度によってI:刺激をしなくても覚醒している状態、II:刺激すると覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態、III:刺激しても覚醒しない状態の3段階に分け、Iについては0~3の一桁(0は意識が清明な状態を示す)、IIについては10~30の二桁、IIIについては100~300の3桁で評価します。
例えば大きな声で呼びかけて眼を開けるようであれば、JCS20と表しますが、実際にはII-20のように記載されることが多くなっています。さらに不穏状態(restlessness)、失禁(incontinence)、失外套症候群(apallic stat、大脳皮質の機能が完全に失われてしまった状態で、眼球運動、体動、言葉全てが障害され、追視・注視はみられない)あるいは無動性無言症(akinetic mutism、網様体の部分的な傷害が原因で、無動、無言であるが追視・注視はみられる)があれば、(JCS20-RI、JCS200-I 、JCS20A、JCS200RAのように、それぞれの状態の英語の頭文字を付記します 。GCSと異なり、桁が上がり、数値が大きくなるほど重症になるので、混同しないように注意しましょう。
意識の状態は、時間をおって変化する可能性があることを念頭におき、繰り返し評価することが必要です。
表2ジャパン・コーマ・スケール(JCS)
意識障害でみられる姿勢異常とは?
重症の意識障害では、GCSのM3点の異常な屈曲運動、2点の伸展反応(除脳姿勢)のように障害のある部位に応じた姿勢異常がみられる場合があります(図2)。
除皮質硬直は大脳皮質・白質が障害されたときに起こり、上肢は肘、手首が屈曲して内側を向き、下肢については、膝・足関節が伸展し、内側を向きます。
除脳硬直は、中脳や橋の下行性網様体賦活系が障害され、異常な筋緊張が生じたときにみられ、除皮質硬直より重篤な状態です。上肢は内側を向いて伸展し、硬直します。下肢は膝・足関節が伸展します。
図2姿勢異常
意識障害時で起こる異常呼吸とは?
意識障害時に起こる異常呼吸として、チェーンストークス呼吸と中枢性神経原性過換気があげられ、脳の障害部位を推測することができます(図3)。
図3意識障害時に起こる異常呼吸
チェーンストークス呼吸とは、呼吸が徐々に増大と減少を繰り返し、最も減弱したときにしばらく停止しているような周期的な異常呼吸をいいます。数秒から数十秒の無呼吸がみられた後、浅い呼吸が始まり、徐々に深い呼吸となります。その後再び浅い呼吸に戻って呼吸停止となります。
多くの場合は、このサイクルが30秒から2分程度で繰り返されます。動脈血中の二酸化炭素の低下に対する反応が鈍くなり、呼吸停止のような正常よりも二酸化炭素が増加した状態でないと、脳が呼吸の必要性を判断できなくなくなることで、起こります。チェーンストークス呼吸が見られるときは、両側の大脳半球、間脳、橋上部の障害が疑われます。
過呼吸が起こる場合もあります。原因が脳にあるときは、1分間に約25回以上の連続性で深く規則正しい呼吸がみられ、橋上部や中脳下部の障害がることが推測されます。全身性疾患による意識障害では、糖尿病の急性合併症であるケトアシドーシスや尿毒症、肝性脳症で過呼吸がみられます。病変が橋下部にあるときには、長い吸気に続いて無呼吸となるパターンが繰り返される持続性吸息性呼吸が、延髄の呼吸中枢が障害されたときには、呼吸のリズム、深さ、強さが不規則な失調性呼吸がみられます。
意識障害がある場合は、姿勢や呼吸以外に、髄膜刺激症状の有無、瞳孔の状態や光に対する反応、眼の動き、麻痺の有無についても観察します。これらは、意識障害の原因をアセスメントする上で重要な情報を与えてくれます。
意識障害時のケアのポイントとは?
意識障害の患者をみたら、まずA(Airway:気道は確保されているか)、B(Breathing:呼吸状態はどうか)、C(Circulation:循環状態はどうか)を確認し、呼吸と循環状態を安定させることが最優先です。
舌根の沈下や口腔内の異物はないか確認し、必要であれば下顎を挙上します。体温、意識レベル、瞳孔の状態や随伴刺激症状も評価し、重症の意識障害で緊急度が高いときは医師に収集した情報とともに連絡します。
意識障害のある患者が救急搬送されてくる場合には、迅速に診断をつけて治療につなげないと生命にかかわる場合があります。事前に入手した情報に基づいて心電図モニターや除細動、酸素投与、血管確保、予測される検査や投薬の準備を行ってすぐに対応できるようにしておきます。
検査を待っている間は、環境を整え、できるだけ安楽に過ごせるようにします。患者の家族の不安も強いので、可能な範囲で現在の状態をわかりやすく説明し、質問に対してもていねいに対応しましょう。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版